例会部会
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「第306回例会」報告

例会部会長 枝窪 肇 : 10月号

【データ】
開催日時: 2025年8月22日(金) 19:00~20:30
テーマ: 失敗しない「人と組織」
~事故や不祥事を減らす組織文化に変わる方法~
講 師: 小池 明男 氏/
元・東京電力HD安全啓発・創造センター所長

 日頃、プロジェクトマネジメントの実践、研究、検証などに携わっておられる皆様、いかがお過ごしでしょうか。今回は、8月に開催された第306回例会についてレポートいたします。

 ~はじめに~
 今回ご講演をいただく小池様は、東京電力福島第一原子力発電所の事故後に、東京電力社員3万人との対話を行い、組織文化を変えるために尽力された方で、その時の様々な経験をまとめて本を出版されております。
 今回の例会では、その著作を題材に、人と組織について、特に、人が集まったときに発生しがちな歪んだ組織文化について解説いただくとともに、それを正しい組織文化に変容させるために行った様々な取り組みについてご講演いただきました。

 ~講演概要~
1.なぜ、組織文化が重要なのか
 理念が浸透した組織文化が形成されている組織では、最高レベルの自主性が生まれ、その結果、自分の頭で考え、積極的、革新的に行動するようになり、組織全体で大きな成果を上げる。
 一方で、悪い組織文化は大企業病がその典型例である。集団になると誤った行動を招く心理的影響が起きる。ここには国民性なども影響する。こうした組織では組織事故が発生してしまう。
 スイス・チーズモデルは、複数の防護壁を用意してもそれぞれの壁にはチーズのように穴が空いており、その穴が偶然に一直線に重なったときに事故が起きるというものである。
 こうして起きた大事故にはNASAスペースシャトル・コロンビア号の空中分解、、JR西日本福知山線脱線、そして東京電力福島第一原子力発電所事故などがある。
 こうした事故を起こした企業に共通の特徴として、倫理的行動が行われない、人が正しく評価されない、問題事を隠す、自由にものが言えない閉鎖的風土などがある。

2.なぜ、分かっていてもルールから逸脱(=不安全行動)するのか
 不祥事は「不安全な状態」に「不安全行動」が重なったときに起こる。
 ルールの逸脱には①ルール通りにできない、②ルールを知らない、③ルールを常に守る必要はないと思う、④故意・確信的な違反といった4つの類型がある。組織が生む負の成果(事故や不祥事)の多くは③によるものである。
 不正は「動機」「機会」「正当化理由」の3つが揃った時に発生する、という不正のトライアングル理論というものがあるが、不正のトライアングルに対抗するのは「自律性」である。
 自分で決めた規範や基準に従い、自分の頭で考え、主体的に行動を統制・制御し、正しい行動を行うことが、ルール逸脱による事故・不正を防止するためのカギとなる。

3.組織文化(安全文化)の劣化が招いた原子力事故の教訓
 多くの原子力発電所があるが、多くの防護壁を講じながら、地震・津波の結果、放射能災害を防げなかったのは福島第一原子力発電所のみであった。用意した防護壁「事故の防止」「事故拡大の防止」「過酷事故の防止」「過酷事故への対応」「原子力緊急事態における防護措置」のすべての穴が一直線に並んだスイス・チーズを生んでしまった。
 事故後、各機関が事故の根本原因を分析した結果、「組織文化」が根本原因であり、氷山の水面下の深層に隠された無意識の思考の枠組み(基本的想定)に共通する歪みが問題であると結論付けられた。
 安全神話、国民の安全ではなく組織の利益を最優先とするマインドセット、日本の原子力発電所は安全であるという基本的想定があり、起こるはずはない、大丈夫だろうという思い込みや思考停止、おごりと過信を生んだ。
 ここから導き出された教訓は、意識変容と行動変容である。無意識のうちに当たり前になっている考え方(メンタルモデル)に一人ひとりが向き合い、その間違いに気づき(自覚し)、新たな正しい考え方を身につけ(=意識変容)た上で、その行動にしたがった行動を定着(=行動変容)させること。その集合が組織文化変革である。

4.何を、何に、どうやって変えるか
 現状と目標を把握しそのギャップを把握する。そのギャップを生んでいる課題を明確にし、ギャップを埋めるために何から始めるか、どう取り組むかを検討する。
 これに当たり、当事者意識、危機意識、変化や改善への積極性、他者や社会への関心、仕事への熱意・誇りが大切になります。特に、目標(ありたい姿)を考えるときに、これらを踏まえながら、規範意識、モチベーションの高さ、自分の頭で考えて行動する力、継続的改善、リスク感度、本音を言い合える関係、チャレンジ、謙虚に問いかける姿勢を持って取り組むことが必要である。

 ~筆者所感~
 組織文化は、長い時間をかけて組織に根付いたものであり、それを一朝一夕には変革できないことは想像に難くありませんが、今回小池様のお話を伺い、3万人の社員と地道に向き合い、一人ひとりに対して働きかけを行った結果、組織文化が変わってきているということがわかり、大変感銘を受けました。ひたむきな努力があってこそであり、こうした熱意を注がれたからこそ、社員の間に意識変容、行動変容が生まれたのであろうと想像します。
 講師の小池様におかれましては、例会という機会を通じて貴重なお話をわかりやすい例を用いてお聞かせいただけたことに、心より感謝を申し上げます。

 ご講演の資料は協会ホームページの「ジャーナルPMAJライブラリ」の月例会開催資料にアップロードしていますので、個人会員の方はダウンロードして閲覧いただければと思います。
 なお、我われと共に部会運営メンバーとなるKP(キーパーソン)を募集しています。ご興味をお持ちの方は、日本プロジェクトマネジメント協会までご連絡下さい。

以上

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