『第302回例会』報告
田邉 克文 : 6月号
【データ】
開催日: |
2025年4月25日(金) |
テーマ: |
「 P2Mのフレームワークを用いた戦略的思考力育成研修 」
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講師: |
吉村 真人 氏 /
株式会社日立製作所 原子力ビジネスユニット 事業主管 |
◆ はじめに
昨今、事業環境の変化に対応して、従前の仕事の仕方に捉われず、ゼロベースで事業課題に取り組み、社会が求める価値提供に向けてコトを起こせる人材が必要とされています。
講師は、このような人材に必要な戦略的思考力の育成にP2Mのプログラムマネジメントの「ミッションプロファイリング」のプロセスを活用した社内研修を実施されており、その概要および成果についてご講演いただきました。
◆ 講演内容
1. どのような人材が求められているか
自ら行動できる人材、すなわち「主体的で自立した個」が求められている。企業内では、多くの人が「指示待ち」の姿勢にとどまっており、自ら「何が求められているのか」を考え、解決策を導き出して行動に移せる人材が必要とされている。しかし、現実にはそうした人材が潤沢に存在するわけではないため人材育成が喫緊の課題となっている。一方でこのような人材育成の課題へ明確な正解があるわけではない。そこでP2Mが目指す人材像である使命達成型職業人と今企業で求められている前述の人材とは同じであると考え、このような人材は単なるプロマネではなく、不確実な事業環境の中で自らこうあるべきだという青写真を描いて、方向性を示めすことをできることが求められる。
2. 研修の目的
どのような知識、スキル、経験が必要かを考えるにあたり、目標(ゴール)を設定し、その目標を達成するための道筋を具体的に人にわかる様に示めし、アクションにつなげることができる人を育てなければいけないと考えた。そこで頭を整理するための思考様式は研修によって訓練することが可能であると仮説を立て、研修プログラムを作成している。
研修プログラムで扱う思考プロセスは大きく以下の2つからなる。
- ① めざす姿は何かを考える
具体的には、どの目線、どういう視点で見るかがポイントで、自分が今見ている視点よりも、より広く高い視点でみることが必要で、より大きな枠組みで問題をとらえることができるように訓練する。
- ② めざす姿が実現している状態(ToBe)を具体的に想定し、ToBeに至る道筋を、実行可能なアクションプランとして計画する。
ゴールを具体的にし、「何がどうなっていればよいか」を明確にしたうえで、現状とのギャップを明らかにし、やるべきことを重視する。
研修では、この2つの思考プロセスのケーススタディを使って徹底的に身につける。
3. 研修の内容
一人ひとり徹底的に考えてもらうことに主眼をおいており、3回に分けた講義をしている。1回は2時間で講義と演習があり、各回の間に1か月のインターバルを空けており、その間宿題を出して、1か月後に各自が回答を持参して参加する形態をとっている。
<研修の流れ>
第1回 講義
- 身に付けるべき思考プロセスの例を用いて解説
- 講義終了後に次回の演習課題(2テーマ)を提示
第2回 講義
- 個人発表:各人の演習課題解答を発表
- 解説と討議:解答例提示、解説および質疑・議論
- Gr.討議課題(1テーマ)を提示
第3回 グループ討議
- Gr.討議課題に対する各人の回答をもとにGr.討議課題及びプレゼン
- 解説と討議:解答例提示、解説および質疑・議論
※第2回終了後中間フィードバックをメールで実施し、
第3回終了後に1on1フィードバック面談(対面)を実施している。
4.研修結果
- 評価
採点評価は大きく2つの軸を設けて評価している。
1つ目の軸は、問題の捉え方、視野の広さで、点数を5つの段階に分けていて、問題を目の前の事象だけで捉えるのか、それともより本質的な部分にまで考察を広げているのかという点で評価している。
2つ目の軸は論理性や分かりやすさで、問題提起から解決策への論理展開がスムーズであり、他者にも分かりやすく説明できているかを評価している。
この2つの軸は独立しているわけではなく、ちゃんと構造化して物事を論理的に整理できる人は視野も広い傾向になっており、提出課題を元に総合点を算出し、それをA、A-、B+、B、B-、Cの6段階で評価している。最初から出来ている人、研修の中で理解しリカバリした人、最後まで身についているかどうかわからないかによって評価している。この評価結果は所属部署にフィードバックしているが、上長が見ている本人の人物像とあまり乖離のない結果となっている。
- フィードバック
講義がすべて終わった後、一人ひとり個別に面談をしており、受講した感想や、今後どうしていきたいかを聞いている。多くの受講者が自分の視野が狭かったことへの気づきを得ている。中には自部門に持ち帰って、自分のグループ内で研修の内容を実践して部長を呼んで報告会している例もある。
5.今後の展開
現時点で130名の受講経験者がおり、今後も規模が大きくなれば、組織全体の雰囲気も変わっていき、各自が自身の仕事をこなしながらも、全体としてはどうするべきという議論がグループ内で話されるようになることが期待される。
◆ 執筆者所感
講義の中で、ナレッジマネジメントをテーマに聴講者と実際の研修さながらのやり取りが行われました。短時間ではございましたが、より活発な議論を間近で体験することで、研修の一端を実感することができました。プログラムマネジャーの育成は、各社共通の課題であり、その分野においてP2Mを活用された貴重な実践事例であり、同じ課題を抱えている教育ご担当者には、とても有益な講演内容である思います。
例会では、運営メンバーを募集しております。ご興味をお持ちの方は、是非、ご一緒に例会運営へご参加ください。参加ご希望の方は、日本プロジェクトマネジメント協会までご連絡下さい。
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