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能力を言語化する力

井上 多恵子 [プロフィール] :4月号

 “Resumes are becoming obsolete. Capability portfolios are the future.”という記事のリード文が目を惹いた。リンクドインでUsman Sheikhさんという投資家が書いたものだ。「職務経歴書は時代遅れになりつつある。これからは能力ポートフォリオの時代だ。」といった訳になる。
 「え?職務経歴書が時代遅れになりつつあるの?」2000年から父親が代表をしていたレジュメプロにて、職務経歴書の作成指導をしてきている私にとっては、そのまま見過ごすことができない内容だった。そこで、Sheikh氏が紹介していた元々の記事も含めて、読んでみた。”The future of hiring”(採用の将来)という見出しで、Org. & Morgan Mckinley と言う会社の代表をしているRob Sheffield氏が3月に書いた記事だ。読んでみて理解したこと。AIの浸透により、全ての職務経歴書が時代遅れになるのではなく、単純に時系列的に職歴と実績を書いている職務経歴書が時代遅れになるということ。この点は、以前より、レジュメプロでは意識しており、職務経歴書の作成指導をする際には、「その方のできること」をアピールする形で、職務経歴書を作成してきた。
 Sheffield氏の主張は理解できる。どんな学位を持っていて、どんな会社でどんな役職に何年ついてきたかということの意味が、近年減少していることは、私も感じてきた。Sheikh氏によると、「スキルに基づいた採用はここ4年間で40%から60%に上昇。多くのリーディング・カンパニーが、学位の必要性をドロップ」したとのこと。データの対象層の明記はないが、アメリカではないかと推測される。実は、日本では、少なくとも私が就活をしていた頃は、事務系の一般的な仕事に就く場合、学部が影響していた印象はない。実際、私は社会学部だったが、金融機関も関心を示してくれた。最近では、日本でも副業をする人達が増えてきているが、特に欧米などでは、ある組織に所属するというよりも、複数のプロジェクトや単発の仕事に携わって、多様な人達と仕事をする人々が増えている。
 私も、今は特定の組織の社員ではなく、複数の組織と個別に契約を結び、仕事をしている。2年間このスタイルで仕事をやってきて、私にはこのスタイルが本当に合っていると感じている。会社員だった時は、査定や昇進には、実力以外の様々な要素が関係してくると感じていた。それらを仕方が無いと思いつつも、どこか受け入れたくないと思っている自分もいた。今のスタイルでも、もちろん、実力以外の事情に影響されることはある。しかし、会社員でいる時と比較すると、圧倒的に少ない。また、ある仕事の状況がどうしても嫌ならそれを受けない、という選択肢もある。会社を辞める決断は相当重いが、複数ある仕事の中から何か一つを辞める方が楽だ。その自由さに魅力を感じる人の存在が、こういう傾向に拍車をかけているのだろう。
 今後の採用は、例えば、「システム開発者」を求める形から、「〇〇という問題を解決できる人」という形に変わっていくのだという。これも、納得がいく。私が提供しているサービスも、単なる「英語の先生」や「コミュニケーションの研修講師」ではなく、「各人が担当している業務でありたい姿に近づくための支援」だ。外国の方々に対して、あるサービスをプレゼンしたいが、英文をどう作成したらいいのか、英文が作成できたとして、それをどのように伝えたら効果的なのか、がわからない方に対して、自信をもってプレゼンできるところまでコーチングをしていく、といったサービスだ。
 仕事を求める人たちも、「〇〇会社で〇〇という役職についていました」ではなく、問題を解決できる能力を磨き、それを言語化してアピールできるようにする必要がある。キャリア・オーナーシップという言葉が日本でも生まれて久しいが、今後はより積極的に、今そして、これから求められるであろう能力を磨いて言語化し、ポートフォリオと言う形で能力を示す必要があるのだろう。
 記事では、AIの浸透によりこれまで安全だと思われていた仕事の将来が危うくなっていく中、どういった能力が今後求められるようになるのか、についても予測をしている。人間特有のスキルとして、共感力はよく言われるが、AIも共感力が増してきており、その中でどう対応したらいいのだろうと思っていた私には、いいヒントを与えてくれた。求められる能力の例として、以下があげられている。
  1. 1.曖昧さをナビゲートすること : 例えば、利益と倫理をどうバランスしたらいいのか?といった質問には、AIは現時点ではうまく回答できない。
  2. 2.人との関係性の中でニュアンスを把握すること : 例えばチームダイナミックスや交渉時に表に出さない感情をAIは現時点ではうまく理解できない。
  3. 3.激しく異なる領域を繋げて、何かを創造すること

 どのような能力を現在ご自身が持っているのか、今、そして、今後求められる能力とのギャップはあるのか、あるとしたらどう磨いていくのか、一度じっくり考えてみませんか?

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