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「国際宇宙ステーション(ISS)」の法的位置づけ(その3)
~日本人宇宙飛行士は、日本の法律で動く?~

長谷川 義幸 [プロフィール] :3月号

 今回もISSの法的な位置づけの続きをお話します。

〇搭乗員に対する管轄権 (*1) (*2)
 宇宙ステーションの管轄権と並んで、もう一つ重要なテーマとなったのが、国籍も性別も異なる各国の宇宙飛行士に対する管轄権をどう設定するのかという問題でした。
 この問題は、日本にとっては、宇宙の平和利用目的(for peaceful purpose)と深い関係をもっています。参加国の提供要素(宇宙棟など)については、先月号でお話したように、それ(宇宙物体)を提供した国が、利用について“平和目的であるかで否か”を決定することになりました。

 ではそれを提供した国が、宇宙ステーション全体をその任務のため動きまわる宇宙飛行士については、どう考えればいいのかが問題になりました。日本にとっては、日本の宇宙飛行士が、“必ずしも平和目的とはならない可能性のある作業”のため、米国宇宙実験棟で、従事することはないのか、といったことを含めて検討が行われました。

 1月号で若干お話したように、IGA交渉の初期においては、複数の国が提供する構成物による複合体の管轄権の在り方として、次の4つの選択肢が検討されていました。
  1. ① 特定された一つの国の管轄権とする
  2. ② 複数の国の共同管轄権とする
  3. ③ ISSの要素を提供した国が管轄権をもつ
  4. ④ 国際機関(ISS参加国以外も参加するISS運営を担う組織)に運営させる

 当初米国は、すべてを自国で管理しようとしていたので、①を主張しましたが、欧州を中心とした他の参加国が反発したので、協議となりました。結果として、各参加国は、宇宙条約第8条及び登録条約第2条に従って、「自国が提供する要素と自国の宇宙飛行士に対して、管轄権および管理権限を保持する」(IGAの第11条)こととし、基本的には、③の方式(複数の国の共同管轄権とする)を採用することになりました。
 これにより、日本人宇宙飛行士の活動が、宇宙の平和利用に反しないか否かの判断を、日本が行うことができる、ことになりました。

 なお、各参加国は、宇宙飛行士を提供する権利とともに、宇宙飛行士の地位をみだりに利用して私的な利益を得ることの禁止、軌道上での指揮系統などが規定されている行動規範(Code of Conduct)の遵守を確保する義務を負うこととなり、特に、ISSの軌道上における指揮系統で中心となるISS船長(コマンダー)は、航空機の機長と同様、緊急時におけるISS内の秩序維持のための広範囲な権限がつけられました。(IGAの第11条)

 また、各参加国は、ISSを利用するために自国に割り当てられる電力や水などの資源の割り当てと等しい割合で、宇宙飛行士の飛行機会が配分されます。
 日本は、ISS組み立て完成後において、全宇宙飛行士7名のうち、ロシア以外に配分される4名の枠のうちの12.8%で宇宙飛行士の飛行機会を獲得しています。これは、約1年半に半年くらいの滞在に相当します。
 日本の宇宙飛行士の飛行割り当てが開始されるのは、「きぼう」船内実験室をISSに取り付け完了して、初期検証が終了した時点からとされました。ちなみに、宇宙飛行士の割り当てについて、米国は76.6%、欧州が8.3%、カナダが2.3%となっています。(IGAの第11条)

〇ISS搭乗員
 IGA交渉では、“宇宙飛行士はその国籍とは関係なく、宇宙ステーション全体における作業のためにNASAにより選抜され、全体のために働く”という整理になりました。
 実際のISS宇宙飛行士は、コマンダー(船長)1名とその他の宇宙飛行士に区別されます。

 船長は、ミッション達成に導く役割で、火災、空気もれなどの緊急時の対応の指揮、地上コンロールセンターとの調整をし、リーダーとして各参加国の宇宙飛行士を束ねます。
 船長は複数回の宇宙滞在経験があり、且つマネジメント能力があると判断された宇宙飛行士から、専門訓練を経て選抜されます。
 歴代船長は、米国とロシアの宇宙飛行士がほぼ半々で分け合っていましたが、2014年に日本人初の船長として若田宇宙飛行士が就任し、ISS船長を3か月間務めました。

若田宇宙飛行士5回目のISS滞在時(2022年末から2023年)に撮影  第2代目船長は、星出宇宙飛行士が就任し、第3代目船長に、まもなく大西宇宙飛行士が就任します。ちなみに、欧州もカナダも日本と同じ数の船長が就任しています。

 船長以外の宇宙飛行士は、ISS全体のシステムと実験装置を操作し、実験運用、システム装置や実験装置の保守点検・修理、宇宙船や補給船の到着・分離の際の運用、ロボットアームの操作や船外活動を行うなどISS全体施設を動きまわる役目を担っています。
 ISSの宇宙飛行士は、3人で1チームを編成で、滞在期間は5~6カ月、常時2組6人がISSに滞在します。
 (写真は若田宇宙飛行士5回目のISS滞在時(2022年末から2023年)に撮影)

〇おわりに
 筆者の在任中も、日本人宇宙飛行士の飛行割り当てについてNASAと交渉を担当しましたが、ISSの実運用は、NASAが運営関係についてほぼすべて取り仕切っていました。
 宇宙飛行士の滞在時間についても、時間単位で厳密に管理運営がなされています。
 当初、ISS船長は米国とロシアの専権事項でしたが、筆者の在任中に、米国の船長枠を西側同盟国に一部開放する政策をNASAがとることになり、日本、欧州、カナダの宇宙飛行士が、船長に就任することができるようになりました。これは筆者にとっても予想外のことで、ISSの実運用を参加国と協働作業を行っていく中で、NASAが参加国の宇宙飛行士の能力の高さを肌身に感じた結果だったと聞きました。うれしいですね!

参考文献
(*1) 「国際宇宙ステーション計画参加活動史」の第3章、JAXA特別資料、JAXA-SP-10-007、2011年2月
(*2) 間宮、白川、濱田、「国際宇宙基地協力協定交渉から」、「きぼう」日本実験棟組立完了記念文集、JAXA社内資料、2010年

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