理事長コーナー
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点と点をつなげる

PMAJ 理事長 加藤 亨 [プロフィール] :2月号

 Appleの共同創業者のスティーブ・ジョブズ氏が2005年のスタンフォード大学の卒業式で行った祝辞の中に「点と点をつなぐ」という部分があります。概要を紹介しますと、ジョブズ氏は、1972年にリード大学に入学したのですが、半年で退学しています。ただ、退学後も1年半の間大学に残り、自分の興味の赴くままに様々な講義を聴講していました。その際にカリグラフィー(文字を美しく見せる書法)の講義を受講し、ひげ飾り文字や、文字を組み合わせた場合のスペースのあけ方などを勉強したそうです。その時は、これが何かの役に立つとは考えもしなかったようですが、10年後に最初のマッキントッシュを設計していたとき、カリグラフィーの知識が急によみがえり、その知識をすべて、マッキントッシュの設計に注ぎ込み、美しいフォントを持つ最初のコンピューターを誕生させました。
 この経験を踏まえて、「もし私が退学を決心していなかったら、もし大学でカリグラフィーの講義に潜り込むことがなかったら、マッキントッシュには多様なフォントや字間調整機能(プロポーショナルフォント)も入っていなかったでしょう。」と語り、「将来をあらかじめ見据えて、点と点をつなぎあわせることなどできません。できるのは、後からつなぎ合わせることだけです。だから、我々はいまやっていることがいずれ人生のどこかでつながって実を結ぶだろうと信じるしかない。」
 こちらより引用)と語っています。
 ジョブズ氏がマッキントッシュを世に出す時代(1980年代)はそれでよかったのかもしれません。しかし、その後のインターネットの爆発的な拡大を経て、様々な情報が高速に飛び交い、次々に新たな技術がまれ、ニーズが急激に変化するVUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)の時代と言われる現代では、そこにある点がいつかつながることを待っていては、つながった時には既に陳腐化してしまっているかもしれません。
 むしろ「こうありたい」と想う未来のビジョン(あるべき姿)を自ら描き出し、そのビジョンから現在を振り返り、現在からあるべき姿に至るロードマップを設定し、そのストーリーをインターネットを通して積極的に発信することで、共感を得ながら率先して未来を切り開いていくことが重要な時代になっているのではないでしょうか。
 実は、このような考え方を昨年9月に刊行されたP2M標準ガイドブック改訂4版では、P2Mプリンシプルのゴール起点(バックキャストの思考)と位置づけ、「ロードマッピングによる戦略立案」を紹介しています。バックキャスティングを主軸としたロードマッピングについて、次のように記述しています。(p443)
 「環境変化が激しい今日において『自社ができること』に留まり続けることはリスクであり、不確実性を伴う『やるべきこと』へのチャレンジが求められている。ロードマッピングは将来のあるべき姿に至るまでの道筋を可視化するための有効な手法である。

 ところで、P2Mガイドブックのロードマッピングの記述は、3版から4版に改訂されるにあたって、大きく修正されました。その背景には、会員活動である「ロードマッピングSIG」の成果を取り入れて追記されたことがあります。具体的には、重要な概念であるバックキャスティングとフォアキャスティングの具体的な使い分け方や、ロードマップ策定の具体的なプロセスなどが補足され、より実務に適用しやすくなっています。
 部会・SIGや地域のPM研究部会などの会員活動のひとつひとつは、まさにスティーブ・ジョブズ氏のいう「点」なのかもしれません。プログラムマネジメント、プロジェクトマネジメントの発展、さらには日本の産業界の発展の先をゴールと見据え、その点と点をつなげていきたいと考えています。
 これからも会員活動の成果を取り入れ、P2Mガイドブックを更に実務に役立ち使いやすいガイドブックにして行きたいと思います。PMAJの会員活動へぜひご参加ください。
 (PMAJホームページ 会員活動について

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