PMプロの知恵コーナー
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PMプロフェッショナルへの歩みー3

向後 忠明 [プロフィール] :2月号

 プロジェクトマネジメント手法を主業とするプラント設備を扱う企業の部門に移籍してからはプロジェクトエンジニアー(PE)として活動することになりました。
 このような建設請負会社以外では普通の企業にはあまりないようですが、PEの役割はPMのサポート役であり主に技術またはエリア別の担当者であるが、その担当区分においてのコスト、スケジュールそして品質などの管理責任者となります。
 所属している会社は当時海外メジャーオイル系企業のプロジェクト案件も多く、日本よりプロジェクトマネジメント技術が発展していたこともあり、筆者は海外石油精製プラントの建設に参加できるよう自ら率先して手を挙げていきました。
 その理由は、顧客が用意した要求書(RFP)に指示される内容が実際多くのプロジェクトにおいて経験され、その要求内容がプロジェクト実行上での必要事項が盛り込まれ洗練された入札書であり、要求事項もそのままプロジェクト計画に入れるような内容で示されていました。その上、入札書には発注側の入札者に対するプロジェクト遂行能力の審査も含み、入札側のプロジェクトマネジメント能力も審査できるような内容になっていました。
 入札に際してはRFPの内容に従ってプロポーザルマネジャ(将来のPM)と担当PEそして各関係技術部門担当者を選定し、入札体制を組織し、他の競争相手と争うことになります。この当時の入札方式のほとんどは一括入札であり顧客の要求する書類に従って入札書類を作ります。
 入札過程ではむしろ顧客側が示すRFPに従ってプロジェクト遂行に必要な事項を詳細に示し、その要求事項に従って、何をどのように準備し、どのような体制そしてどのくらいのコストで入札するかを示すもので、受注した場合の具体的方法をも示す必要がありました。
 そして、期限までに入札者はプロポーザルに提示額などを示し顧客に提出し、交渉の結果、契約書にまとめて提出することになります。筆者はこのような経緯で受注までの一貫した流れをPEとして参加し学ぶことができました。
 この当時は入札過程に関するガイドブックもなかったので、先輩PMの指導の下で経験しながら、ここで学んだ大事なことをノートに残し、自分が将来PMになったときの座右の書としてプロジェクト遂行のノウハウ集として残していくようにしました。
 このようにPEになってから最初の6年間程度(34歳位まで)は入札等を応札側として経験し、プロジェクト遂行に必要な基本的動作の多くを知ることができました。以下にこの6年で自分なりに標準的な営業的活動から契約までの作業の流れをPEの立場で観察し、まとめたものを示します。
 ここには入札書(RFP)入手から契約までの一連の流れを示しましたが、この段階はPEもPMも一番神経を使う過程です。すなわち、次の実行段階の計画の基本になるもので、最も重要な段階であり、また会社の命運にかかわるような重要な場面でもあります。
 以下に参考として筆者が経験しまとめた営業活動から契約までの流れを以下に示します。

筆者が経験しまとめた営業活動から契約までの流れ

 すでに述べたように提案活動から契約までの一連の活動は規模が大きくなればなるほど多くのプロジェクトの実経験がないと対応できるものではありません。
 そのようなこともあり筆者は率先して規模の大小にかかわらず上記図に示す作業を最初から最後まで参加し、多くのことを学びました。入札すなわち受注競争業務を展開する会社としては社運を賭ける重要な仕事であり、この時点での対応によってはプロジェクト規模が大きければ大きいほど会社の基盤を揺るがすようなこともあり、真剣そして慎重な対応が必要となりプロポーザル提出までの期間も短いため徹夜作業となったこともあります。
 このようにメジャーオイル系の企業との入札過程にて多くのプロジェクトマネジメントの在り方を学ぶことができました。
 上記のようなことを考えると筆者はプロジェクトマネジメントを学ぶ環境に多いに恵まれたと思っています。
 特にこの応札段階では実行段階でのリスクを最小限にすることが重要であり、この応札の最終時点での契約とその交渉というものが次の実行段階でのリスクを最小にする機会でもあり、将来のPMに必要な活動要素を多く含みその後のプロジェクト実行に大いに役立ったと記憶しています。
 例えば、リスクマネージメントについては対象プロジェクトに対する習熟度や経験、それを取り巻く社内・社外の環境、経営リソースそしてプロジェクトそのものに潜む問題等々これらに関連しての潜在的問題を検討することが大事であることも学びました。そして契約書には入札者としての将来リスク(変更条件も含む)などもできる限り網羅し、交渉時での対応策も準備しておくことも大事であり、またこの契約交渉能力といったものもPMの能力には必要なものであることもわかりました。
 この応札過程での学びは将来PMになるための前哨戦でもあり、またプロジェクトマネジメントのエッセンスの凝縮でもあり、プロジェクトマネジメント技術の多くをこの応札段階の短期間で学ぶことができました。

 応札から契約まで過程は短期間でまとめることが必要であるため、よほど過去のデータや技術蓄積、リスク分析能力そして交渉能力がないと困難な作業となります。このような過程を通してその後の遂行過程で将来PMになるための貴重な基礎訓練となりました。

 次月号では遂行過程でのPMのアシスタントとして受注に成功したプロジェクトについて述べてみたいと思います
以上
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