例会部会
先号  次号

『第298回例会』報告

木村 勝 : 1月号

【データ】
開催日: 2024年11月22日(金)
テーマ: 「 ステークホルダ管理の哲学 」
講師: 羽田野 大樹( はたの ひろき )氏
TIS株式会社 ビジネスイノベーション事業部 ファンクション & ビジネスコンサルティング部 ディレクター
Vector Management Consulting Pvt. Ltd. 社外取締役

◆ はじめに
近年、顧客ニーズが多様化し、プロジェクトを成功させることが難しくなってきていると感じています。
当たり前のことですが、プロジェクトには多くの人=ステークホルダが携わっています。プロジェクトを成功させるためにも、ステークホルダを巻き込んでいくことの重要性が増していると考えます。

そこで、今回の例会では、TIS株式会社のビジネスイノベーション事業部ファンクション&ビジネスコンサルティング部のディレクターで活躍され、「哲学を語る会」での活動を通じて書籍を出版されている羽田野大樹氏を講師にお招きし、「ステークホルダ管理の哲学」について、体験談や実践事例などを交えながらご説明いただきました。
以下、要点を抜粋して紹介します。

◆ 講演内容
1. 哲学とは?(そもそも哲学って何?)

科学 現実の問題を扱う
経験や実験に基づいたデータを集め、規則性やパターンを見つけ、理論化する

哲学 普遍的な問題(自己・他者・正義など)を扱う
対象とする物の存在や、心の在り方など、科学では扱えない領域を問い続け、洞察力を向上させます

宗教 科学・哲学では扱えない問題を扱う。
この世界は誰が作ったか?魂はあるのか?といった問題に対し、信じるべき指針を提示。

それぞれの領域は互いに素ではなく、影響しあいながら発展しています

2. 哲学がビジネスでどのように活用されているか
  • 新しい視点やアイデアを生み出すための思考法
    GAFAは、著名な哲学者を「イン・ハウス・フィロソファー(顧問哲学者)」として雇用し、新しい商品やサービスの創出や難問の解決に役立てている

  • 課題解決能力を高める
    優秀な人が無意識にしている哲学的思考として、「無知の知」「弁証法」「アンガージュマン」「プラグマティズム」などが挙げられます。
    これらの思考法は従来の枠組みに縛られない、問題解決が図られます。

  • 社会や企業の価値定義
    企業文化を形成し、社員の行動や意思決定に影響を与えます。
    NTTは価値多層社会の実現に必要な哲学思想の構築を目指し、哲学研究所を設立。
    TISも「Our Philosophy」を提唱しています。

3. 自分を知るということ
学ぶ目的は、「自分(自己)を知ること」と言う人もいますが、そもそも自分って何でしょう?
知ろうとする対象の定義を知ることなしに、知ることはできません
西洋と東洋では「自分」のとらえ方が異なります。
「自分」のとらえ方により、世界(他者)の見え方や関わり方が変わっていきます。

自己に対する問い
・ そもそも自己は存在するのか?
・ 自己は心か身体か、「心身複合体」か「心身を含む環境」か?
・ 生涯を通じて同一「連続的」か?
・ 単数「私」か複数「我々」か
など

4. 西洋哲学における自己
西洋哲学における自己「経験主義と合意主義」
経験主義では、経験できるものがすべて
知識は経験によって得られる(アポステリオリ)

合理主義では、理性がすべて
生まれつき、正しいことを考える能力(理性)が備わっていると考える(アプリオリ)

カントは経験主義と合理主義の考え方を統合
感覚器官を通じて得られた感性の情報を、悟性がまとめあげ、理性によって全体像を推論することで認識を得る
それぞれ、どこが純粋として先験的に備わっているもの(アプリオリ)、経験をもって得られるもの(アプリオリ)を厳密に区分して、論理を進めている

感性 感覚器官を通して、事物を表象として受け取る能力(直観)
純粋:形式的(空間・時間)
経験:感覚(質量)

悟性 感性的直観をまとめあげ、判断にもたらす能力
純粋:カテゴリー(分量・性質・関係・様態)
経験:分量・質感など

理性 悟性によって対象の判断から、推論によって全体像を導く能力
純粋:純粋論理学(分析論・弁証論)
経験:応用論理学(主観についての経験的な心理学)

5. 東洋哲学における自己
「十牛図」とは、逃げ出した牛を探し求める牧人の様子を、段階的に描いた十枚の絵です。
牛は「ほんとうの自分」、牧人は「ほんとうの自分を求める自分」をたてえたものです。
俗世間の生活の中で自分を見失い、ほんとうの自分を探しに旅に出る若者の物語は禅の悟りにいたる道筋を表しています。

① 尋牛(じんぎゅう)
問:牛が逃げているとはどういうことか?
答:欲や感情にふりまわされた人生を送っていること

② 見跡(けんせき)
問:牛の足跡とは何か?
答:先人がのこした正しい教え

③ 見牛(けんぎゅう)
問:何が牛を見るのか?
答:自分の内側を見ようとする心

④ 得牛(とくぎゅう)
問:牛を捕える網とはなにか?
答:正しくありたいと思う「念」

⑤ 牧牛(ぼくぎゅう)
問:手綱をはなすにはどうしたらいいのか?
答:比較をやめる(無分別智に生きる)

⑥ 騎牛帰家(きぎゅうきか)
問:牛にのって横笛を吹いているとはなにか?
答:普遍的ないのちの尊厳に目覚める

⑦ 忘牛存人(ぼうぎゅうそんにん)
問:牛がいなくなってまどろむとはなにか?
答:ほんとうの自分への執着がなくなり、生老病死からも解放されている

⑧ 人牛倶忘(にんぎゅうぐぼう)
問:空白(=空)とはなにか?
答:常に移ろいゆく世界の中で根源的にかわらない概念(器)

⑨ 返本還源(へんぽんげんげん)
問:美しい自然とはなにか?
答:分け隔てなく与えることの大切さ

⑩ 入鄽垂手(にってんすいしゅ)
問:人が行き交う町の中で生きるとはなにか?
答:自分を勘定に入れずに人のために生きること

いま皆さんはどの段階にいますか?

6. まとめ
①西洋と東洋のちがい
東洋と西洋で自己のとらえ方、世界とのかかわり方について次の違いがある。

西洋
自己のとらえ方 世界とは対立している自己を認識
自己は存在する
世界とのかかわり方 自己を確立し、世界とかかわる
他者もそれぞれの自己を持っているので、尊重する

東洋
自己のとらえ方 自分と世界は相互依存の関係
変化するので特定できない
世界とのかかわり方 世界(他者)とは自分とのこと
世界の痛みは自分の痛みと同義であり、だから慈悲がわいてくる

②ステークホルダ管理の在り方について
プロジェクトに関わっている自己を認識する。
  • 自分の役割は○○、プロジェクトは自分に△△を期待しているという基本認識はおさえる
  • そのうえで、このプロジェクトにかかわる自分を自分とは何か?自分がこのプロジェクトに与える影響とは何か?と内省し、自分の在り方を問い直してみましょう

自分とステークホルダの関係性を認識する。
  • 西洋的/東洋的どちらのアプローチでも構わないですが、自分がどのように自己とステークホルダを認識しているか問い直してみましょう

◆ 講演を聞き終えて
今回の講演では、講師の羽田野大樹氏の体験談、実践事例をもとにした貴重なヒントをいただけました。

方法論(Doing)に頼りがちになってしまう中、あり方(Being)を考えることの重要性を再認識する切掛けとなりました。
プロジェクトマネジメントにおけるステークホルダ管理のみならず、日々の生活の参考にもなり、有意義なものだと感じました。私自身も、自分のあるべき姿を考えていきたいと思います。

例会を通じて、貴重なお話しをしていただけたことに、心より感謝を申し上げます。

当日参加された皆さま、何かヒントになることはありましたか。
例会では、今後もプログラムマネジャーや、プロジェクトマネージャーにとって有益な情報を提供してまいります。
引き続きご期待ください。

ご講演の資料は、協会ホームページの「ジャーナルPMAJライブラリ」にアップロードしていますので、個人会員の方はダウンロードして閲覧いただければと思います。

尚、我々と共に部会運営メンバーとなるKP(キーパーソン)を募集していますので、日本プロジェクトマネジメント協会までご連絡下さい。

ページトップに戻る