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話を聴いてもらう力

井上 多恵子 [プロフィール] :1月号

 研修講師にとって、寝ている受講生が散見される状態は、辛い。そんな状態に陥らないよう、研修をする際は、受講生同士で対話をしたり、講師の私から質問を投げかけて、回答してもらったりするようにしている。しかし、研修機関の事情から、ほぼ一方通行で、研修を終日行わないといけない時がある。そんな時でも受講生が眠くならないよう、声の調子を変えるなどの工夫はしている。でも、もっと何か手を打てるはず!そんな思いで、日々情報収集につとめている。そんな中、先日、参考になるポッドキャストを見つけた。今回は、そのポッドキャストからの学びを共有したい。
 ポッドキャストの名前は、The Mel Robbins Podcast。メル・ロビンスというオーストラリア人が主催している。彼女のウエブサイトによると、同ポッドキャストは、教育のポッドキャストとして世界で一位にランキングされている。自己変革とモチベーションに関係するテーマの中には、自信の高め方、関係性を変革する方法、疲れた心を癒す方法などがある。彼女が出しているYouTube動画の視聴者は前月だけで、なんと、1億5千万人いる。

 なぜ、これだけ多くの人々を魅了しているのか。私の分析結果はこうだ。
  1. 1. 彼女の知見
    彼女が、ベストセラー作家で、自己変革とモチベーションにおいて、最も尊敬されている専門家の一人だということ。ブランディングをしっかりと確立しているからこそ、聴いてみようという気になる人は多いのだろう。実際、私もその一人だ。
  2. 2. 彼女がポッドキャストに呼ぶゲストの質
    専門家である彼女にも当然、知見が無い領域がある。その領域についての専門家を幅広いネットワークを通じて、ゲストに呼んでいる。脳科学者やハーバードの教授など、凄い経歴の人々に語ってもらうことで、科学に裏付けられているという信憑性が高まる。
  3. 3. 徹底した継続性
    毎週新しいポッドキャストを送り続けている。一つのポッドキャストをつくる並大抵ではない労力を維持し続けられることが、何よりもすごい。以前オンライン上での存在感を高めるためのアドバイスを別の人から聞いたことがある。その人も、発信の頻度を決めたらそれを守り続けること、が何よりも大事だと言っていた。そこにアクセスすれば、必ず出会うことができる、といった安心感だろうか。私は概して、何かを継続することを得意とはしていない。そんな私でも、このオンラインジャーナルは何年にもわたり、継続してきている。もちろん、私一人の力ではなく、月一回提出しないといけないという、外部からの要請に加えて、〆切が遅れても温かく待っていてくださる編集の方々に、大きく支えられてきている。
  4. 4. 彼女のミッションへの共感
    ウエブサイトに記載されているミッションを和訳すると、「私の使命はシンプルだ。より良い人生を切り開く力を与えてくれる、実証済みのツールを分かち合うこと。そして、あなたの孤独感を少しでも和らげ、あなたが取る一歩一歩を励まし、共に学び成長しながら大いに笑うこと。」となる。私は、「共に学び」と、「大いに笑う」の二点を特に気に入っている。彼女が上から目線でないことに親しみを覚えるからだ。そして、私の中にあった「学びとはかくあるもの」という固定概念を覆してくれた。その結果、「いかに楽しんでもらえるか。」ということを目標の一つに置くようになった。楽しんだ方が、学びが加速されると信ずるに至ったからだ。
  5. 5.メッセージ自体の力強さ
    ウエブサイトを見ると、黒地に白字で大きく書かれた”Yes. You can change. Period.”というフレーズが目に飛び込んでくる。「はい、あなたは変わることができる。以上」みたいな意味だろうか。異論は言わせないぞ、という意思を感じ取ることができる。この断言する力強さを見ると、「彼女について行ってもいいのかな。」と思わせてくれる。
  6. 6.メッセージの届け方の力強さ
    彼女の話し方は力強い。信頼感を感じさせるハスキーな声を活用して、大きな声で、物事を断言する口調で、ゆっくり目に話す。だからメッセージが入ってきやすい。抑揚もとても効果的に使われている。一般的に我々日本人はフラットに単調に話しがちだ。そうすると、言葉が心に残りにくい。重要な言葉を力強く言うと、引き込まれる感じになる。加えて、「えーと」や「あの~」といった類の言葉を使っていないのも、力強さに繋がっている。
  7. 7. 表現の工夫
    表現の工夫が随所に見られる。例えば、
    1. ① 聴き手を巻き込む表現 例:「貴方と私がこれから学ぶ」
    2. ② 聴き手がメリットをイメージしやすい表現
      例:「このエピソードを聞き終わった時には〇〇の状態になっている。」
    3. ③ 聴き手の理解を促す表現 例:ゲストが専門用語を使って表現した際に、簡単な表現で言い直している
      大事な言葉をゲストが言った際は、繰り返してもらっている。
      家族や自分が体験した例を事例としてあげている。

 これから彼女のエピソードをもっと聴き、私自身の発信物のレベルアップを図っていきたい。

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