今月のひとこと
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 知的生産の技術 

オンライン編集長 深谷 靖純 [プロフィール] :1月号

 この年末年始は9連休という方も多かったのではないでしょうか。大手旅行社の調査では海外は円安等の逆風の影響で国内旅行は昨年から2019年並に回復しているそうですので、家族連れの旅を楽しむ方が多かったと思います。海外からのインバウンドの人数が昨年は過去最高を記録したというニュースが頻繁に流れています。PMAJ事務所周辺も東京タワー撮影スポットがあり、海外からの観光客と思しき方々が大勢たむろしていました。
 生憎とこの冬はラニーニャ現象の影響で寒くなるとも予想されています。インバウンド客の増加が予測される地方では、住民及び住民以外の方々への寒さ・大雪対策も怠りなくお願いします。

 初版が1969年という岩波新書「知的生産の技術」(梅棹 忠夫1920年~2010年)が、書店の新書コーナーに他の新刊本とともに平積みで並んでいたので、おもわず手に取ってみました。増刷りを重ねて2024年5月に105回目の刷り直し、見た目は当然のことながら他の新しい本とまったく同じです。50年以上もの間売れ続けてきたのは何故なのか、そこに記述されている内容がいまだに新鮮だということなのでしょうか。知的生産の成果物である原稿の周辺で浮遊している編集子には、気になる一冊でした。
 読み始めて最初に気が付いたのは、極端に漢字が少なく殆どひらかなで綴られているところです。本の後半で判明したのですが、1969年当時、日本語を素早く記録する道具としては、ペンや筆以外にはカナ文字専用の和文タイプライターしかありませんでした。漢字入力ができる和文タイプライターは一文字ずつ文字を選ばねばならず、時間がかかります。契約書や通達などの公的な書類は、和文漢字タイプライターを使っていましたが、あくまで清書用でした。その当時、文字入力を素早く、正確に行うために全ての書類を全文ローマ字、あるいはカナ文字にしようという運動が行われていたそうです。著者もこうした運動に参加しており、かな書きの長所を力説されています。
 * 日本語ワードプロセッサーの登場は1978年、プリンタとセットで630万円したそうです。
 知的生産活動は情報の収集と整理によって構成されるということで、その技術が解説されていきます。パソコンのない時代です。収集した情報をノートに記録していったのでは、後から整理する際に再び転記する必要が出てくるので、情報1件毎にカードを作ることを提唱しています。さらに、カードに使う紙の厚さ・大きさを、何故そうするかの理由もつけて細かく説明していきます。情報の記述にあたっては、後から読んで分るような文章にすべきとか、2枚にわたる場合の標題の付け方等、こちらも細かい注意が書かれています。パソコンに慣れた方には想像できないかもしれませんが、集めた情報が多くなると具体的な重さと大きさを伴ってきます。その収納方法についても詳しく説明されています。
 カードを使っての情報管理の様々な工夫・苦労が綴られていくのですが、パソコンを使えば苦も労もなくできてしまうことばかりです。知的生産のための器材は、著者の時代には筆記具やカード・原稿用紙でしたが、現代はパソコンとなっています。知的生産のための技術の大部分がパソコン操作のスキルに置き換わっていると考えられます。
 著者の時代、情報(データ)を並び替えたり、抽出したり、指数を計算したりといったことは知的生産活動の中で、多大な時間と労力をかけていました。著者はそれを効率的に行う方法を提言しています。パソコンという道具でその大部分が飛躍的に進化した時代になり、著者のような苦労をせずに本来の知的生産活動に取組めるようになっているはずです。きっと、編集子の知らないところで、革新された知的生産の技術に支えられ、価値ある知的生産が盛んに行われているのだと思います。
以上

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