100年学習時代 はじめての「学習学」的生き方入門
(本間 正人著、(株)BOW&PARTNERS、2024年5月30日発行、第1刷、342ページ、
2,300円+税)
デニマルさん : 1月号
今回紹介する本は、未だ大きな話題になっていません。筆者は昨年5月この本を読み、どうしても紹介したいと強く感じたので取り上げた次第です。その理由は幾つかありますが、我々が直面している超高齢化社会と生涯学習と言うか、読書から学ぶ「生き方」に大いに参考になる本に出会ったからです。少し話が飛躍していますが、順を追って説明しましょう。昨年7月、厚労省は2024年の日本の平均寿命を「男性が81.1歳、女性が87.1歳」と発表しました。これを他国と比べると、アメリカは男性が74.2歳、女性が79.9歳、フランスは男性が79.3歳、女性が85.4歳です。現時点での世界的な先進国は長寿傾向にありますが、日本は超長寿国として最先端を走っています。人類の長寿は喜ばしいことなのですが、複雑な社会的問題も含んでいます。特に、高齢者の健康や福祉、経済的な問題から個人の生き甲斐等々を考慮すると社会全般の国家的課題でもあります。こうした背景から、社会的レベルの問題として「人生100年時代」の提唱がなされました。これは『LIFE SHIFT 人生100年時代の人生戦略』(R・グラットン&A・スコット著、東洋経済新報社版)の著書が2016年に出版され、日本でも話題となりました。その提唱からか日本政府も“人生100年時代構想会議”が立ち上がり、「人づくり革命から人材への投資」に動き出しました。その同じ時期に、「生涯学習、もしくはリカレント(recurrent)教育」と言う言葉も話題になっていました。リレカレント教育の歴史は、1969年にスウェーデンの教育相が紹介し、1973年にOECD(経済協力開発機構)が「リカレント教育―生涯学習のための戦略―」を公表して評判となった経緯があます。日本では、2010年代後半からリカレント教育への注目が高まり、主に職業能力を向上させる教育やその仕組みのこととされています。以上を整理すると、人生100年時代は、寿命が長くなった時間を如何に豊かに、健やかに、充実した人生を送れるかの方策が必要となりました。これは国家レベルから個人のレベルに至るまで、老若男女全ての人に適用出来る仕組みが求められています。現在、政府は経済・社会的にも「働き方改革」を推進しているのも、その一環でしょうか。その中でも生涯学習は、重要なポイントとなっています。本書は、人生100年時代にマッチした「学習学」の入門書として「学ぶことの楽しさ、素晴らしさを社会に広めるために纏めた」とあります。現在の超高齢化社会に参考になる点が多々ありますので、概要ポイントを後述します。その前に著者の本間氏を紹介します。1959年生まれで東京都出身。東京大学文学部社会学科卒、松下政経塾(3期生)を経て、ミネソタ大学大学院修了(成人教育学 Ph.D.)。「教育学」を超える「学習学」の提唱者。アクティブ・ラーニングを30年以上、コーチングを25年以上実践し、「研修講師塾」「調和塾」を主宰。NHK教育テレビでビジネス英語の講師などを歴任したほか、企業や官庁の管理職や教員・医療関係者対象の研修講師を務めてきた。現在、京都芸術大学客員教授、らーのろじー(株)代表取締役、NPO学習学協会代表理事、一般社団法人クロスオーバーキャリア代表理事等。誰もが最新学習歴を更新し続ける「ラーニングコミュニティ」「学習する地球社会のビジョン」構築を目指す。本書「100年学習時代」、 コーチングやほめ言葉等の著書多数。
100年学習時代(その1) 教育と学習の違い?
本書は、人生100年時代と言われる現在にマッチした「学習=学び」をベースに書かれています。現代の我々の学びは、幼少期から学校での“教育”が主流で大学までの約20年強です。人生100年時代の2割強が学校での教育で、残りの8割の時間が余り問題視されなかった。学校での教育も「学び」であるが、学校卒業後の8割の「学び」を含めてトータルな体系が重要だと著者は纏めている。本書では、先ず「教育」と「学習」の違いを明確に定義している。教育とは、個人の外側から内側への働きかけであるとしている。補足すると、学校で先生や講師が教えるべき内容を生徒や受講生に教える(分かり易く説明する)ことである。これに対して、学習とは、個人の内側から外側への働きかけであるとしている。これは幼児が身の周りの物に興味を持ち、手で触り、口にし、何かを知ろうとする行為に等しい。親から言われるまでもなく、本能的な興味や関心は人間の生まれ持った欲求なのです。この内なるパワーを学習の根幹としたのが、本書の「学習」であると強調している。従来の学校の教育から、内なるパワーを発揮させる学習こそが、“学びの体系化”が重要と結んでいる。
100年学習時代(その2) 「学習学」とは?
本書のタイトルは「100年学習時代」ですが、超高齢化の日本では人生100年学習時代の到来と位置付け、『教える側に立った教育学から、学ぶ側に立った学習学をつくる生きた入門書である』と著者は冒頭に書いています。そして「学習学」については、人間にとって最も基本的な行為である「広い意味での学習」について、学習者の立場に立って体系的に研究する科学であると定義しています。ここでのキーワードは「広い意味での学習」であるという。これは先に人間の“学び”は本能的な欲求であるとした点に起因している。学習学は自分自身を見つめて自分を理解し、他者・相手を理解する。その結果、見方やとらえ方が変わっていく“自己変容”を含む学習を視野に入れて、学びに対する認識の改革であると纏めている。従来の教育的発想(外からの働きかけ)から学習的発想(内からの働きかけ)への転換を成し遂げて、学ぶ側である学習者を主役とする「学習学」であるべきだと結論付けている。
100年学習時代(その3) 「学習学」の実践は?
今まで述べてきた「学習学」を実践し、広めていく具体的な三つの方策も書かれてある。①学習を時間軸で捉える(ライフロングラーニング)、②学習を空間軸で捉える(ライフワークラーニング)、③学習を自己変容で捉える(ライフディープラーニング)である。今回は項目だけの紹介となりましたが、内容的には、グローバルな地球社会を目指した「100年学習時代」を想定して纏められている。ご興味ある方は、是非読んで頂きたいお勧めの本である。
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