PMプロの知恵コーナー
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PMプロフェッショナルへの歩みー1

向後 忠明 [プロフィール] :12月号

 P・Fドラッカーは
 “近代企業が育てようとしてきたゼネラリストはこれからの知識経済ではあまり活躍の場はない。ゼネラリストといえども知識労働と知識労働者をマネジメントする専門家にならない限り役に立たない。また、マネジメントの定義とは人をして何かを生み出させることであり、組織の競争力はこの一点にかかっている”と著書の「プロフェッショナルの条件」にて説明している。
 このような中、今でも多くの企業は組織に与えられた一定期間に行わなければならない集団の選択すべき目的・目標に重点が置かれ、そのため人材育成も組織も環境変化に柔軟かつ迅速に対応することのできない膠着した体質となっている。
 グローバリゼーション、DX、GX、SDGsなどの用語でのイノベーションといった改革への兆しが、装置産業、IT産業、公共、地方等のあらゆる産業において時代へ乗り遅れないように徐々にではあるが出てきている。このようなビジネス環境の目まぐるしい変化への対応が、既存の組織体制、そしてそこにいる人材にも求められている。
 このため各企業はそれらに対応することのできる人材の育成を急いでいるが、残念ながら人材不足によりその環境変化に適切かつ十分に対応できないでいる。そのためビジネスチャンスの喪失が懸念されている。
 上記のような緊急の課題に対して、日本政府などもその必要性を感じて関連する知識の導入、訓練により人材の育成に重きを置いている。
 しかし、P・Fドラッカーの“プロフェショナルの条件”からの抜粋であるが
  1. ① 各ビジネスに関連するあらゆる種類の専門技術や各知識労働者のもつ知識を全体最適にインテグレートするマネジメントの専門家の育成を訓練することができていない。
  2. ② 単独技術の利用のみではなくこれらをインテグレートした知識と技能を複合的に体系化した技能、すなわちエンジニアリング手法といった科学的、定量的手法の開発が必要とされている。
  3. ③ 組織はイノベーションをもたらす基盤であるが、現在は一般的に確立され、習慣化されているもので、そこに働く知識労働者(専門家)にとってはルーチンであり心地よいものになっている。しかし、組織というものは組織を取り巻く環境変化またそれによってもたらされる変化に柔軟に変わっていかなければならない。そのため、組織の機能はビジネス環境の変化に合わせ常に変化を求めていく必要がある。

 上記のように、多くの企業はP・F ドラッカーの求める考察から外れる動きとなっている。
 現在のビジネス環境も数次の産業革命といった流れの中で以前に比較し、変化の兆しは見えてきた。さらにAI、IOT、インターネット等々の進化などによる最新技術を利用したツールやシステムの活用によりこれまでより仕事の内容にも変化が生じてきている。
 よってP・Fドラッカーの言っている単純労働者(ルール化された仕事や危険な仕事をする人達)はシステムを利用した業務や機械による仕事に代わっていきます。そのため、企業には時代の要求にこたえるような柔軟な体制とそれに見合った人材の育成が重要となっている。
 求められる時代の要請に基づく業務の内容、範囲そして種類は千差万別である。そのため、これまでの既存の組織やルールに判断基準を置いて目の前の仕事を処理していく業務処理では全く無価値となります。このようなケースでは既存のルールでは判断できないような例外事項が次々に起こることも多く、与えられた業務の内容をまず精査し、目的と価値観に立脚し、業務の規模を考慮した分権と組織体制とリソース調達等を自分の判断で物事を進めていく能力を持つ人材が必要となる。

 上記のようなことを考えてみるとビジネス環境の変化に関するP・Fドラッカーの考え方が筆者のたどってきたプロジェクトマネジメントに必要な知見と同じと思いました。
 これまで筆者も会社及び顧客からの多くの課題を投げかけられ、経験したことのないミッションが与えられました。この場合どのように処理していくのか、特別なルールや方法論のない中、与えられた課題を手際よく責任をもって解決していかなければならない仕事に遭遇してきました。
 このような問題解決型業務を効果的かつ合理的にさばく人材をP・Fドラッカーは「プロフェショナル」と称しています。
 なお、プロフェショナルにもいろいろ種類があり、例えば専門技術に特化したエンジニアーや技能者、課題解決を旨とするコンサルタント、弁護士そして医者等々があります。

 しかし、筆者の言いたいプロフェショナルとは②に示す「単独技術や知識の利用のみではなくこれらをインテグレートした知識と技術を複合的に体系化したマネジメント技能、すなわちエンジニアリング手法といった科学的、定量的手法」を利用するPMプロフェショナルのことです。

 これまでPMAJのオンラインジャーナルで約20年にわたって筆者の実践的経験からくる知識、技能そして組織マネジメントについて「ゼネラルなプロ」といった表題でいろいろと書いてきました。
 今後は表題を「PMプロフェショナルへの歩み」として、プロジェクトマネジメントを志す人への参考となるよう筆者の経験からの思い出話をしていきたいと思います。

次月号に続く

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