PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (169) (総集編―3)

向後 忠明 [プロフィール] :11月号

 先月号ではプロジェクトマネジメントに必要な知識項目について話をしました。PMが全ての技術や知識を保持していなければならないということではありません。関係する専門知識を持ったメンバーの協力そしてPM自身の態度やスタンスの在り方、そしてPMを長とする組織体制の在り方にも大きく影響されるということです。そこで以下に示す人的資源の有効活用、そして人材を有効に活用できる組織体制などが重要となってきます。
 ● 人的資源の有効活用
 ● 人材の保持と指導
 ● 組織と要員の効率的運用
 ● そしてPM自身のPMとしての資質

人的資源の有効活用
 
 PMはオーケストラでタクトを振る指揮者や船の船長によく例えられます。このことからもわかるように指揮者も船長も一人でタクトを振っても、それに呼応する人たちがいなければ予定どおりの結果を得られません。このようにいくら優秀な指揮者でも船長でも一人では何もできません、そしてプロジェクトを指揮するPMも同じであり、一人では何もできません。
 
 プロジェクトとは与えられた諸目的に対して各分野にわたる組織、技術そして人間の知識を結集・統合し、プロジェクトの各フェーズで業務を最適に実現するための一連の活動であることはすに前月号で説明したとおりです。自分のコアー技術にこだわらず、それ以外の技術や人間の知恵を組み合わせて、顧客の要求に柔軟に対応し、PMはプロジェクトの規模、複雑さに合わせて必要な人的リソースを結集する必要があります。
 
 そして、この人的リソースをPMは的確に必要部署に配置し、有効に活用していく必要があります。この際、プロジェクトの実行中においても各種問題が発生することもあるので、上位PM になるほど遅滞なく関係各分野の組織、技術そして人間の知恵を結集・統合できるような外部の人的環境も整えておく必要があります。特に初級PMは独自にプロジェクトに関係するコアー技術を持っていてもプロジェクトクト要求によってはいつ変則的な問題が出てくることがあるかもしれません。そのためには、どのような場合でもPMは常に複合的に対応できる人的資源活用をできる体制もとっておく必要があります。

人材の保持と活用
 
 プロジェクトスタッフの選定では当然PMは最高の人材を要求することになるがプロジェクト規模や複雑さが増すほど、より最高の人材を求めます。
 当然、このように優秀な人材は各部または他のプロジェクトでも必要な人材となり引き抜きや各プロジェクトでの兼務ということもあり常用できない場合もあります。
 そのため、プロジェクト期間や仕事の内容を見て本プロジェクトに人材を派遣する部門は“このPMの部下として一緒に仕事をするメリットがどこにあるか”また“PMの人柄、成功体験、そして政治力”等の良し悪しなども考慮されることになるでしょう。
 このようなことは下位の習熟度に類するコアー技術に特化した小規模プロジェクトでは問題ないと思われるが、多様な人材が必要となる複雑そして規模の大きなプロジェクトではやはり上記に説明したことのようになります。
 すなわち、良いPMには良い人材が集まり、プロジェクトの結果は良いものになるということです。その結果として、プロジェクト初期時点でのスタッフ配置がプロジェクトの成否を決める大きな要素となり、プロジェクト組織運営も容易になるということです。
 なお、集めたスタッフが優秀と思っていてもプロジェクト実行中においてのマネジメント能力や技術能力等の能力チェックは継続的に行い、その能力に問題がある場合は能力保持またはスキルアップの目的での育成に心がけると同時に、プロジェクトチームを取り巻く環境を良好な状況に保ちながら運用することが大事です。その結果として人材の保持が可能となり、またチームの活性化にも影響することになります。ただし、いくら育成してもプロジェクトに追随できないようなスタッフがいてチーム全体の雰囲気や活性化に影響する場合は厳しい対応を取り、交代を求めるようなことも考える必要があると思います。

組織と要員の効率的運用
 
 一般企業は機能別組織で成り立っているので、もしそのような企業にルーチン業務から外れるような異質なプロジェクトが発生した場合、どのようにこの種の仕事を処理したらよいか戸惑うことがあると思います。もちろん、上記にて説明したプロジェクト要求に沿った人材や各種リソースの配置にも問題が発生します。
 よって、各企業はプロジェクト要求に沿って母体企業の社内事情を考え、下記条件
 ● プロジェクト規模と使用技術の複雑さ
 ● 過去の類似プロジェクトの経験と習熟度
 を精査し、発生したプロジェクトに対応していく必要がある。
 このような場合はさほど規模や使用技術が複雑でない場合は機能別組織内の管理職をPMにするか、または他社よりの派遣にてPMを雇い、プロジェクト要求に順じた組織を機能別組織内にPMO (Project Management Office)といった体制を作り、人材は関係する企業内の関係組織より派遣してもらい、プロジェクトチームを編成し、この中でプロジェクトを処理することも可能です。この方法は各機能別組織内で遂行されている群管理の手法です。
 この方法は特にIT 系企業や製造系企業に利用されているようですが、縦割り機能別組織の欠点を補うために構成される一過性の組織と言われています。
 その他に編成される組織形態にはプロジェクト規模や類似プロジェクトの繰り返し回数などによりそれぞれに企業の例えばPMO内にPMや関連するプロジェクトマネジメントスタッフを常置し、対象となるプロジェクトに迅速に対応できるタスクフォースの体制が容易に編成できるようにする方法もあります。ただし、プロジェクト規模が大きく複雑になった場合はプロジェクトそのものを事業部としてタスクフォースとしてプロジェクトを進めることもあります。
 しかし、最も重要なことは顧客要求であり、顧客要求条件にしたがうことは”MUST"であり、この場合は習熟度やプロジェクトにかかわりなく顧客に合わせたプロジェクトを編成することも必要となります。
 よって、顧客要求によってはプロジェクト組織形態にはいろいろあるが企業としては基本的に以下の手順をとる必要がある。
  1. ① PMの任命
  2. ② 組織の設定、役務分担、責任分担の設定
  3. ③ プロジェクト要員の動員やその配分計画
 なお、PMの任命はプロジェクトの特性、内容、規模などから判断し企業の権限規定に沿うのが一般的である、この時PMの任命はプロジェクト規模により任命権限者の持っている企業内の権限をPMに委譲することが必要となります。そしてPM 以下の要員についての管理はPMの権限によって全面的な管理義務を与える必要があります。

PM自身の資質
 
 PMに必要な資質についてはいろいろ意見が述べられているが、以下に示すものはIPA(情報処理推進委員会)のPM委員によって提起されたものです。例えば
  1. ① 適切な手段を使って、効果的かつ適切に意思疎通を行うことができるコミュニケーティング力
  2. ② チームの結集力、相乗効果、生産性を高めるリーダシップ
  3. ③ 目的達成を目途とした計画、リソース配分を適切に判断実行しその進行具合を適切に管理する能力
  4. ④ プロジェクト活動の効果を適切なツール及びテクニックを使用することのできる柔軟性
  5. ⑤ プロジェクトを俯瞰的に捉え問題を認識するとともに適切に与えられた課題を解決するソリューション力
  6. ⑥ 責任、多様性、公平、実直の考えをもって論理的行動に基づきプロフェショナルとしてプロジェクトをマネジメントすることのできる自己規律、すなわち邪念や不正に面した時、それらに打ち勝って自分自身に対して「ノー」と言うことができること

 しかし、ここに挙げられたPMの資質は多くの文献にも示されているが、いずれにしても基本的な資質は最初にものべたようにPMになる以前から“与えられたまたは考えた目標または目的を達成するため、それに沿って一緒に行動する人たちを満足させるような計画を立て、その旗振りをして、目標の達成をするといった一連の行動を自然体で行うことのできる性分を持っている“ということが最も大事なことと筆者は思っています。このことは上記の③と同じであり、PMとして最も大事な資質と考えます。しかし、PMの資質の基本は上記の通りだが、人の上に立って仕事をする場合最も気を遣うのは配下の自分に対する評価です。
 上記に示す①~⑥に示す資質をもっていてもPMや管理職が以下の①から⑨に挙げたようなコメントやクレームが多くの部下から出てきたら、真摯にその意見に向かい合い、自己反省をして大火となる前に手当をしておくことが必要でしょう。
 ちなみに下記の項目は筆者の講演時にアンケートを取ってまとめたものですが、中堅PMまたはPMを志す人たちへの意見としてまとめたものです。これはPMまたは管理職に対する部下たちの心からの不満でありやる気を失わせる言葉です。
  1. ① 部下からの提案や問題指摘をただ聞くだけで決断しない。
  2. ② 率先して仕事をしない。困難な仕事から逃げ腰になる
  3. ③ 思い込みや先入観が強く部下の話を聞かない、固定観念の強い人、自分の常識にこだわる人で絶対に妥協しない、柔軟性のない人、自己過信の強い人で人の意見を聞かない人
  4. ④ コミュニケーションの出来ない人、部下の指導育成の出来ない人
  5. ⑤ 総合判断力の低い人、場あたり的、現状分析のできない人、技術的思考が強くほかの分野に目が向かない、統率力のない人
  6. ⑥ 上にへつらい部下に厳しい、偏見をもって人を見る
  7. ⑦ 生意気な部下を嫌う
  8. ⑧ 細かく内向的で人を信用しない。やたら細かいことを気にするが解決策を持たない。
  9. ⑨ 洞察力がなくまた観察眼もなく徒手空拳の対応で交渉力のない人

 以上、これまでPMの発展段階において何をどうすればよいか述べてきましたが、上位になるほど多くの学びが必要であることが分かったと思います。このようにそれぞれプロジェクトへの向き合い方はPMレベルに関係なくそれぞれ千差万別です。しかし、顧客要望に合わせ自分なりのPMとしての知識、それに伴う経験、そして自分のPMとしての資質等を総合し、より難しいプロジェクトに自ら挑戦して行く気概も必要です。
 特に、プロジェクト規模に関係なく人使いといったものすなわち“人をうまく動かす”がPMに限らず人の上に立つ人には必要不可欠な資質と考えます。
 「人を動かす」とは”自ら動きたくなる気持ちを起こさせる“とDカーネギーも言っています。

以上で総集編は終わりとします。

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