PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (168) (総集編―2)

向後 忠明 [プロフィール] :10月号

 前号にて“「ゼネラルなプロ」になるにはどうしたらよいか?を考えてみましょう” と言いました。非常に難しい命題であるが、筆者の経験やこれまでのいろいろな人の話を含め挑戦してみます。しかし、人によってそれぞれの資質や能力は異なり、いずれにしてもそこまでの道のりは険しいものになります。
 そこまで到達するには長い年月が必要となり、それも従事する所属企業の体制、業務内容、そして指導者としての先輩PMの有無等によって変わってきます。またPMI®(Project Management Institute )やPMAJ(PM協会)の実施しているPM資格試験に合格して一連のプロジェクトマネジメント技法やプロジェクト遂行手順に関する知識や使用方法を熟知しても経験なしにその分野のエキスパートななることはできません。すなわち、プロジェクトマネジメントの世界に興味を持ち活躍したいと思っていても机上の知識だけでは不十分ということです。
 むしろ、どのような人でもPMを目指す人の行動特性としては、PM知識よりあらゆる面において、決めたまたは決められた目標設定を達成するための計画、実行、進捗検証そして達成の確認と反省といったPDCAのマネジメントサイクルを自然体で回せる習慣または習性をもっていることが重要です。このような習性や習慣はプロジェクトマネジメントに限らず、あらゆるビジネス分野での基本です。
 このように仕事や普段の活動での姿勢がこれからプロジェクトマネジャ(PM)になろうとする人の基本的要素であり、その後プロジェクトマネジメント知識や関連知識体系を学んでいきStep By Step で実際のプロジェクト業務の経験を通してPMとしての実力を高めていくことになります。
 そこでPMの持つべき知識の種類とその程度レベルを示したものが下に示す図ですが、これは筆者が委員として参加したIPA(情報処理推進機構)のPM委員会にて議論されたもので、PM熟達度レベルに応じたレベル別知識の推移を示したものです。
 この図はIPA(情報処理推進機構)における各社のPM委員間で合意したもので、主に情報処理関連プロジェクトを中心とした知識量をベースとして考えられたが、筆者のエンジニアリング会社における経験からでも、情報通信以外の各種プロジェクトにおける知識の種類や量との違いはあるが参考になると思いここに示しました。
 なお、プロジェクトマネジメント実践スキルはそれぞれの段階で保持している知識を持って実際のプロジェクトを経験することによってさらに高度な知識を得ることになり、それが自分のノウハウとなり実践力として蓄えられることになるということです。
 この図で示す熟達度はあくまでも知識レベルであり、例えばレベル4の人の持つPMとしての知識レベルは熟達度4であり、そのレベルでいくつかのプロジェクトを経験することによって実際役に立つPMであり、達成度4のプロジェクトマネジメント実践スキルを持つということになります。
 すなわち、熟達度レベルに実践経験を積むことによって達成度レベルになるということを意味します。このようにPMとなった人がプロジェクトの経験の度合いによりレベルが向上することになるが対象となるプロジェクト案件の種類、規模、要件、国内外の違い等々により大きく異なってきます。
 なお、ここに示す知識レベルは前でも説明したようにあくまでも傾向でありその量的なものは各業界や対象となるプロジェクトの種類、規模そして要件や条件によって異なるので参考にする際は自分の対象とするプロジェクトで判断してください。

レベル別知識の推移のイメージ

 この図でもわかるが熟達度は上位になればなるほど関係する知識項目の量が増えるが、同時にPM知識よりもほかの知識がかなり多くなっています。これは上位レベルになるにしたがってPM知識よりパーソナル&組織マネジメントや適用業界技術&知識そしてビジネスマネジメント知識等を総合した知識量が必要であり、それをもとに多くの実践を積んだPMが真のレベル7の達成度を持つ人材ということになります。
 このことは前月号において一ツ橋大学の伊藤教授や富士(現みずほ)総研の福井氏が提唱している「ゼネラリスト待望論」に示される内容に近いものになっています。
 すなわち、この図での熟達度レベル7のすべての知識項目をクリアーしながら実際のプロジェクトをいくつか成功させた人が本エッセーで言っているところの「ゼネラルなプロ」と言えるでしょう。
 なお、ここで示されるPMの保持能力としての専門知識、関連知識についてはすでに「ゼネラルなプロ166号」までのエッセーにて詳細に述べているのでそちらを参考にしてください。
 プロジェクトは対象業務分野、適用技術、複雑さ、規模、海外案件等プロジェクトの種類とその難易差により千差万別です。また昨今の社会情勢の変化によるプロジェクトに求められるソリューション型案件においても上図に示す知識以外のものも必要となることもあるので、その都度PMに求められる知識も多く、複雑となってきています。
 そのため、前月号でも説明した多様でどの分野のプロジェクトでもその遂行にはエンジニアリング(複合技術適用手法)が図に示す各知識項目の統合利用を可能にすることができるのです。このようなことを整理するとプロジェクトマネジメントに従事する人は自分の現在の立ち位置を通年にわたってPMとしての自己保有知識としてのPM専門知識や関連知識を実際のプロジェクトを通して必要な知識と経験を積んでいくことも必要でしょう。
 しかし、プロジェクトマネジメントに必要な知識項目についてPMはすべての技術や知識を保持していなければいけないということではなく、関係する専門知識を持ったメンバーの協力とPM自身の態度やスタンスの在り方が必要となります。
 そこで必要なのが以下の項目をどのように活用し、生かしていくことができるかが重要なPMの役割となります。
  1. ① 人的資源の有効活用
  2. ② 人材の保持と指導
  3. ③ 組織と要員の効率的運用
  4. ④ そしてPM自身のPMとしての資質
等が重要となってきます。

 この部分はプロジェクト活動において知識をベースにしたPMの行動特性や態度といったPMの持つべき自己保有能力にかかわるものと考えます。本件についてはさらに次月号で深堀していきたいと思います。

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