例会部会
先号  次号

「第296回例会」報告

枝窪 肇 : 10月号

【データ】
開催日時: 2024年8月23日(金) 19:00~20:30
テーマ: PRINCE2‐スポンサーが関与するプロジェクト推進フレームワーク
  ~スポンサーの関与度がプロジェクトの成功を大きく作用する~
講師: 羽佐間 一潮 氏/
  TideONE株式会社 代表取締役社長
  かんぽシステムソリューションズ NEXTプロジェクト統括本部 統括補佐役
  PMAJ PM研究・研修部会

 日頃、プロジェクトマネジメントの実践、研究、検証などに携わっておられる皆様、いかがお過ごしでしょうか。今回は、8月に開催された第296回例会についてレポートいたします。

~はじめに~
 今回ご講演をいただく羽佐間様は、PMAJのPM研究・研修部会で、PMI®のPMスタンダードPMBOK®ガイドを中心に研究をされている、PMBOK®のスペシャリストです。
 また、講師の羽佐間様はPRINCE2®の日本語版テキスト発行にあたって、PeopleCert社の日本語翻訳品質管理を担当するPRINCE2®のスペシャリストでもあります。
 今回の例会では、PMBOK®第7版の付属文書X2で「スポンサー」の項が掲載され、スポンサーがプロジェクトの重要性好要因として紹介されたことを契機に、スポンサーがプロジェクトに直接関与するフレームワークとして英国政府が開発したPRINCE2®を題材にご講演いただきました。

~講演概要~
PART-1:スポンサー(エグゼクティブ)の積極的な関与がプロジェクトを成功に導く課題
 ITシステム導入プロジェクトでは日常的に、現場のプロジェクトマネージャでは判断できない重要な課題が発生する。これらの課題を解決するために早期に決定しなければならない項目は
  • 組織内での追加予算決定
  • プロジェクト中止の決定
  • 納期延伸の決定
  • キーパーソン/組織のエース投入決定
  • 導入製品切り替え決定
  • 開発環境の大幅な見直し(分散開発の見直し)決定
などであるが、これらの決定をすることは、PM権限のスコープではなく、より上位の階層にて行う必要がある。
 こうした事項を決定し、早期に対処するためには積極的なプロジェクト・スポンサーの存在/介入が必要であり、そのことがプラスの成果を獲得するための重要成功要因となる。
 逆に言えば、スポンサーが関与しなければ、意思決定に時間がかかる、優先事項について対立が生じる、物的資源の獲得に影響が出るなど、プロジェクトのパフォーマンスが損なわれる。
  1. ○ カオス・レポート
     米国スタンディッシュ・グループが分析し1995年より5年毎に発行しているソフトウェア開発プロジェクトの分析結果レポートであるカオス・レポートでは、ソフトウェア・プロジェクトのパフォーマンス低下の本質的な要因は、意思決定に至る時間が長いことに起因している、としており、このことからもスポンサーの積極的な関与が重要であることが伺える。
     カオス・レポートでは優れたスポンサーの10の原則 (The Standish Group) を定義してスポンサーに必要な能力を明確にしている。また、プロジェクト・スポンサーは、「プロジェクトに関与する唯一の最も重要な人物であり、プロジェクトの成功または失敗に責任を負う」としている。
  2. ○ まとめ
     スポンサーの地位と視点から「ビジョン」「意思決定」「事業価値」「動機付け」「顧客重視」「説明責任」の領域でチームに有力な支援を提供できることから、積極的なプロジェクト・スポンサーの存在がプロジェクトからプラスの成果を獲得するための重要成功要因である。
PART-2:プロジェクトへのExecutiveの積極的な関与を組み入れたプロジェクトフレーム
      ワーク → PRINCE2®の紹介
  1. ○ PRINCE2®とは何か?
     PRINCE2®の手法では、ビジネスの意思決定者(エグゼクティブ/スポンサー)はプロジェクトを委託する組織に属する。
     意思決定は組織のビジネス戦略、目標、方針に基づく。
  2. ○ スポンサーがプロジェクトを制御するスキーム → PRINCE2®の原則
     PRINCE2®の原則とスポンサーのスキームは以下のとおりである。
原則 狙い
ビジネスの正当性の継続 プロジェクトが想定するベネフィットに整合し、ビジネス目標に貢献することを確保する
例外によるマネジメント プロジェクト、マネジメント、デリバリーチームに許容度を設定し権限を委任する。許容度を超えたら上位へエスカレーション
ステージによるマネジメント ビジネス、経営の重要な節目でプロジェクトの進行・停止・中止を判断する
役割・責任・関係の定義 プロジェクトを成功に導くため利害関係者を理解し強化するための継続的な活動
成果物重視 成果物に対するユーザの期待品質と要件を重視する
経験からの学習 プロジェクトの開始、進行中、終了の一連の活動を通じて教訓を活かす活動
テーラリング プロジェクトの環境、難易度、重要性、デリバリー手法、チームの成熟度に応じて管理手法を調整する
  1. ○ スポンサーが関与するプロジェクト編成 → PRINCE2®のプラクティス(組織化)
     PRINCE2®のプロジェクトフレームワークは、指揮 (Directing)/プロジェクト委員会、マネジメント (Management)/プロジェクトマネージャ、提供 (Delivering)/チームマネージャの3層構造である。
  2. ○ プロジェクト委員会の役割
     プロジェクト委員会は
  • スポンサー(エグゼクティブ)
    プロジェクト遂行上、唯一の説明責任を持ち、最終的な意思決定権を有する
  • シニア・ユーザー
    成果物を用いて組織が予想するベネフィットを享受する責任を持つ
  • シニア・サプライヤー
    サプライヤーから提供された成果物の品質に説明責任をもつ
    プロジェクトで求められるリソースを専門知識を提供する
で構成される。
 プロジェクト委員会のなかでも、スポンサー(エグゼクティブ)は、組織からプロジェクト遂行の権限移譲 (Empower/Mandate) を受け、プロジェクト組織を組成し、日々のマネジメントにおいて許容度を設けてプロジェクトマネージャへ委任 (Delegate) するといった、非常に重要な役割を担う。
 スポンサー(エグゼクティブ)に加えて、シニア・ユーザーとシニア・サプライヤーを加えたプロジェクト委員会は以下の役割を担う。
  • プロジェクトへの説明責任
  • 統一した意思決定の定時
  • 能力あるリーダ
  • 効率的な委任
  • 組織横断調整
  • リソース提供に対するコミットメント
  • 効果的な意思決定の保証
  • プロジェクトマネージャのサポート
  • 効果的なコミュニケーションの保証
  1. ○ PRINCE2®によるプロジェクト運営例
      ~省略~
  2. ○ まとめ
     PRINCE2®のプロジェクトフレームワークはプロジェクト委員会、マネジメント、デリバリーの3層構造である。このうち、スポンサー(エグゼクティブ)が属するプロジェクト委員会の役割が重要であり、とりわけ、例外のマネジメント(例外の要求・許可)を通じてプロジェクトをドライブすることによって、プロジェクトは成功に導かれる。

~筆者所感~
 レポートには詳細には記述できませんでしたが、今回のご講演の後半で説明のあったプロジェクト運営例により、スポンサーによるプロジェクトへの関与のありかたとその重要性を理解できました。
 私は日頃、P2MやPMBOK®は読み込んでいるのですが、PRINCE2®の内容についてはあまり勉強していなかったので、今回のご講演を通じてフレームワークの一端に接したことから、PRINCE2®についての勉強の必要性を痛感しました。
 講師の羽佐間様におかれましては、例会という機会を通じて貴重なお話しをわかりやすい例を用いてお聞かせいただけたことに、心より感謝を申し上げます。

 ご講演の資料は協会ホームページの「ジャーナルPMAJライブラリ」の月例会開催資料にアップロードしていますので、個人会員の方はダウンロードして閲覧いただければと思います。
 なお、我われと共に部会運営メンバーとなるKP(キーパーソン)を募集しています。ご興味をお持ちの方は、日本プロジェクトマネジメント協会までご連絡下さい。
以上

ページトップに戻る