図書紹介
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ユニクロ
(杉本 貴司著、(株)日経BP、2024年4月23日発行、第2刷、493ページ、1,900円+税)

デニマルさん : 10月号

今回紹介する本は、カジュアル衣料メーカーとしてテレビCM等でも有名な「ユニクロ」の成長を詳細に調べて書かれ、話題になっていた。本書が発売された当時のWEBでの声を拾ってみると、「小説よりドラマティックなノンフィクション」「日本から世界に打って出た意地と矜持に脱帽」「プロジェクトXみたいなストーリものとして楽しく読めます」「柳井氏とユニクロの歴史がたっぷり詰まっていてかなり読み応えのある1冊」等と評判の高かった本である。そこで、本書から企業としの「ユニクロ」とその成長過程から成功のポイント等を紐解いてみたい。先ず「ユニクロ」とは、どんな会社なのかを調べてみよう。今から50年前の1974年、社長であった柳井正氏が紳士服専門店(広島県広島市在)を親から引き継いだ。その10年後、カジュアル衣料店「ユニーク・クロージング・ウエアハウス」を開店したのが「ユニクロ」の始まりである。この衣料店名は、柳井氏がアメリカ出張時に大学キャンパス内の衣料ショップ販売現場を見て、閃いたという。“学生が好きな服を安く自由に選んで気軽に買える。色々な服が倉庫の棚に置かれ、勝手に購入できるセルフサービス・スタイル”である。この販売方式は、これからの衣料販売の姿ではないかと直感して「ユニーク・クロージング・ウエアハウス」を商売に導入した。そして販売店名として命名した。しかし名称が長目で分かりづらいので“ユニクロ”と分かり易く省略したという。更に、このユニクロのロゴであるが、英語「UNIQLO」とカタカナ「ユニクロ」の2つがある。英語の「UNIQLO」は、当初「UNICLO」と登記する予定であったが、間違って「UNIQLO」となってしまったらしい。1988年、香港で実際にあった話であると書いてある。もう一つ、ユニクロと並んで(株)ファーストリティリングという会社がある。この会社は、(株)ユニクロや(株)ジーユー(低価格衣料ブランド「GU」を展開する子会社)などの衣料品会社を傘下にした持株会社である。従って、ユニクロの会社全体を把握するには、(株)ファーストリティリングを見れば、その全貌が分かる。参考までに(株)ファーストリティリングは、資本金:102億円、従業員数:約6万名(2024年2月)、支店店舗数:国内810店、海外1,700店、合計2,510店舗を展開、売上総額:2兆3千億円、経常利益:3千億円の大会社である。因みに、世界のカジュアル衣料品企業の中での売上ではZARAを擁するインディテックス(スペイン)、H&M(スウェーデン)に次ぐ第3位で、時価総額規模ではユニクロが世界1位であると資料にある。現在、ユニクロは世界的なカジュアル衣料のトップメーカの地位にある有名企業になった。その成長の概要は後述するが、本書の著者である杉本貴司氏をご紹介しよう。1975年生まれの大阪府出身。京都大学経済学部卒、同大学院経済学研究科修士課程修了。日米で産業分野を取材。2020年より日本経済新聞編集委員。著書に『ホンダジェット誕生物語』(日経ビジネス人文庫)、『ネット興亡記』(同)、『孫正義300年王国への野望』(日本経済新聞出版)。共著に『ものづくり興亡記』がある。本書は「どこにでもある寂れた商店街の紳士服店が、どうして世界的なアパレル企業に成り得たのかの『ユニクロ物語』を地道に書いた」と語っている。

ユニクロの発展(その1)       金の鉱脈を掘り出す
本書のユニクロ物語は、(株)ユニクロの誕生から現在の世界的アパレル・ブランド企業に成長した50年の過程を描いている。だから主役は、社長である柳井正氏の成長と苦悩の記録でもある。しかしこの話題の本では、企業「ユニクロ」にスポットを当てて、柳井氏の個人的な側面は極力省いている。従って柳井氏に関心がある方は、本書を求めてお読み頂きたいと思います。先ず、ユニクロが飛躍的に発展したキッカケは、「ユニーク・クロージング・ウエアハウス」を開店して爆発的に成功を収めたことから始まる。その成功のポイントは、①カジュアルシャツやパンツが安価であり、②好みの色の商品が豊富にあり、③店員に気兼ねすることなく自由に商品が選べる。これらの要素を消費者は歓迎して、多くの顧客がユニクロ製品を買い求め、商品は売れに売れた。その結果、ユニクロは金の鉱脈を掘り当てたと評価した。更に1990年代に入って大量生産、大量消費の時代となり、ファミリーレストランからファストフードが社会に広まって、ファション業界もファストファッションと呼ばれる成長産業となった。その後、広島から世界へと発展するには、多少の時間が必要であった。

ユニクロの発展(その2)       製造小売業(SPA)への挑戦
ユニクロの急成長ベースに「安価な商品を豊富に並べて、顧客のニーズに素早く応える」が基本にある。その為には、商品を如何に“安く・早く・大量に・タイムリーに”製造して市場に送り出すかの仕組みが必須条件となる。従来の製造・物流・販売を個別企業が行うのではなく、販売業者が一括して製品の企画・製造・物流を自社で独自に実施する方式が効率的である。1980年代の世界のアパレル業界では、SPA(Speciality store retailer of Private label Apparel)が注目を集めていた。所謂、サプライチェーンの新しいスタイルで衣料製造・販売を一体化し、日本では製造小売業と称されていた。商品寿命が短く、頻繁に流行が変化してスピードの速い業界(特に、アパレル関連)では、不可欠な要素である。本書では、香港での業者(ジョルダーノ創業者)のジミー・ライ氏と出会って生産業者とした経緯がある。ユニクロの生産拠点が中国から東南アジアへ広がってグローバル化が推進されたのだ。

ユニクロの発展(その3)        新素材で売上を大幅拡大
1998年、ユニクロは念願の東京進出を果した。同時に新素材のフリースを使った新規商品を大々的に売り出した。フリースとはポリエステル系であるが、羊毛に似て柔らかい起毛仕上げの繊維素材である。だからフリース素材で作られた製品は「保温性が高い」「速乾性がある」「軽量」「簡単に洗濯できる」「肌触りが柔らかい」且つ「安価」なのである。その新商品“夏に涼しい『エアリズム』”“冬に暖かい『ヒートテック』”が安価で多種のカジュアル衣料が店頭に陳列された。これらの商品は現在でもユニクロの人気商品として存在する。ユニクロの成功要因は上記以外にも沢山あるので、本書から発展の本質を探って頂きたい。

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