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自分に投資する力

井上 多恵子 [プロフィール] :9月号

 2024年8月、自分への投資を行った。社会人となって以降の私の人生の中で、一番大きな投資。アメリカに研修で、7泊滞在してきた。滞在先は、テネシー州の州都ナッシュビル。カントリーミュージックで有名な都市だ。お盆休み中でアメリカへの飛行機代が高いことに加え、アメリカの物価高+極端な円安+マリオット系列のホテルでの週末を含む高額の費用を考え、行くのをやめようという気持ちに何度もなった。会社員だった時は、上司が承認さえしてくれれば、正直、金額が高くなろうが気にせず、海外に行くことができた。会社が払ってくれたから。しかし、今度は自腹だ。急速に進んでいた円安、一人で乗ることになる空港とホテルの間のタクシー代、現地での食費諸々考えると、100万を超える出費になる恐れがあった。以前にも、自分に投資したことはあった。しかし、それまでの最大の出費は、出版塾と研修講師養成塾への参加費用、各々20万円程度。贅沢をしない家庭で育った私にとっては、20万円は大金。申し込むまで、大いに迷った。今回は5倍以上になる100万円超で、金銭的な投資回収をするハードルは相当高くなる。
 迷いを見せる私の背中を夫が押してくれた。「これまで頑張って仕事をしてきたし、今も仕事をしているのだし、いい経験になるから行ってきたら。」そうだ!落ち込むことがあっても、自分なりに立ち直り、頑張ってきた。そんな自分へのプレゼントだ。英語で自分を励ます表現として、You are worthy.というのがある。「あなたには価値がある」という意味だ。そこを忘れて、投資回収のことだけを考えたら、行けなくなる。そもそも、複数の要因が揃わないと、家を一週間以上不在にすることはできない。母親の状況、仕事先の方々の理解、夫の理解、金銭面でのやり繰りなどなど。行けるチャンスがあるのならつかまないと、後で後悔するだろう。やったことの後悔よりやらなかったことの後悔のほうが大きいという。今回は、私が尊敬するエグゼクティブ・コーチのマーシャル・ゴールドスミス博士からの直々の声掛けがあった。皆に声掛けがあったわけではない。行きたいと願っても行けるものではない。彼が、私に期待してくれているのなら、それに応えるべきだろう。安いホテルに泊まるという選択肢もあったが、結局知人が予約したマリオット系列のホテルにした。せっかく高いお金を払って行くのだから、現地での時間を最大限活かしたほうがいい、という判断からだ。結果的に、同じホテルに滞在したのは、大正解だった。知人だけでなく、研修に参加していた人たちが何名も泊まっており、研修会場に一緒に行ったり、研修後、1Fのテーブルで共に仕事をしたりすることもできたからだ。
 この原稿を書く数日前に、帰国した。結論から言うと、「行って良かった」だ。金銭面での投資回収は相当チャレンジングだろう。一方で、グローバルなネットワークの構築をはじめ得た、無形資産は多い。例をあげると、
  1. 1.エネルギーの吸収
     私は一般的な日本人より成長に貪欲だと思っているが、グローバルの人たちの熱量には劣る。マーシャルさんと共著本を書くのだとはりきっていた人、自国でマーシャルさんの学びを広げていくのだと、はりきっていた人、などなど。今回参加した最高年齢の方は78歳。学び続ける人生100年時代を体現している。
  2. 2.積極性
     グローバルコミュニケーションのコーチングをする際に、「もっと積極的に」というアドバイスを私はよくしている。今回の研修で、自分自身の伸びしろを発見した。その場で、リンクドインでスピーディーに繋がりを広げていく。一方の私は、スマホではリンクドインを使っておらず、ログインのためのパスワードも忘れており、対応が帰国後になった。スピード感を高める余地が多いにある。
  3. 3.アメリカ人の良い面
     以前は、不愛想に接する担当者がいる空港のセキュリティーを通るのが憂鬱だった。今回は、私を笑顔にしてくれた担当者がいた。バッグから取り出したノートパソコンを重ねてトレーに乗せていたために、再チェックになった。その際、とがめるようなことは一切言わず、I got you! (大丈夫) と言って、再検査が終わったバッグを手渡ししてくれた。質の高い一瞬の触れ合いだけで、人の気持ちは明るくなる!
  4. 4.日本の良い面
     日本の洗面所でのセンサーの感度の良さを今回実感した。アメリカでは、手を水栓の一定のところに向けてちゃんとあてないと、機能しない。普段何気なく使っているものの中に、日本の高い品質がある。また、ゴミ分別に対する意識も、アメリカと比較すると、日本はずいぶん進んでいた。

 言語化することが上手な人達から、私をほめる表現を複数もらった。自分に投資したご褒美としてそれらをありがたく素直に受け取ると同時に、それらによりふさわしい人になりたいと思う。

 あなたは、自己投資をしていますか?

ゴールドスミス博士と筆者
ゴールドスミス博士と筆者

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