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相手目線の力

井上 多恵子 [プロフィール] :8月号

 「速報:高速旅客船自力で航行できなくなり。。。」外出先から戻り、テレビをつけた私の目に飛び込んできたお昼のニュース。「え?どういうこと?」専門家の解説が、難解で曖昧で、私にはよくわからなかった。すると、さすが、アナウンサー。解説に対して視聴者が疑問を持つだろう点を次々と質問していった。質問により、難解な言葉や曖昧な表現をわかりやすく明確にしてくれたおかげで、私もようやく理解ができた。
 専門家の説明がわかりづらいのは、仕方がないことなのかもしれない。事故や事件が起きると、その道の専門家が呼ばれてテレビなどで解説する。テレビにそれまで出たことがなかった人が突然呼ばれて、緊張感と共に話さないといけないこともあるだろう。とは言え、普段からもうちょっとわかりやすく説明する訓練ができないものだろうか。TBSの「ひるおび」という番組に出ている司会者の恵さんの話は、とてもわかりやすい。政治からスポーツまで、本当にわかりやすく解説をしてくれる。こういったプロの方のコツを、一般視聴者に説明する可能性のある方々にはぜひ学んでほしいと思う。
 上手な人のコツを見つけて真似ることが難しい人は、誰かからコツを教えてもらうのも一案だ。私も「わかりやすいコミュニケーション」を指導している。先日、ある協会で講演会を行った。タイトルは「より効率的、効果的に仕事をするためのコミュニケーション」。わかりづらいコミュニケーションが原因で、自分の意図が相手に十分伝わらないと、効果が下がる。また、誤解により、仕事の手戻りが発生し、効率が下がる。これらを踏まえて、「相手に合わせて、わかりやすく、かつ、誤解されるリスクを減らして伝えるためにどうしたらいいか?」という観点から講義を行った。結果、「目から鱗でした!」「今まで何十回と自分たちの協会のウエブサイトを見てきたけれど、わかりにくさには気づきませんでした!」といった感想をたくさんいただいた。協会が提供しているウエブサイトの中の一般向けのページ。門外漢の私が見た時、頭の中に何度も浮かんだ「?」を伝えたのが、一番響いたらしい。彼らがウエブサイトを何度見ても、わかりにくさに気づかないのは、理解できる。業界用語や業界で使われている技術のことを知っている彼らは、ウエブサイト上で不足している情報を無意識のうちに補っているからだ。「一般の人は、このウエブサイトからどういう情報を得たくてアクセスするのだろうか。アクセスした際、ウエブサイトをどう見るのだろうか?」といった問を持った上でまず見てみること。その視点を得た彼らの発信が今後どう変わっていくのか、楽しみだ。
 ユーザー側の視点に立ってくれる対応を受けると、どう感じるだろうか。「この度は、麹町郵便局社員の応対にお褒めのお言葉を賜り、誠にありがとうございます。井上様より頂戴いたしましたメールにつきましては、早速麹町郵便局並びに関係部署に申し伝えさせていただきました。井上様のお言葉を励みに、お客さまサービスの向上に努めて参ります。この度はご連絡いただきまして、誠にありがとうございました。」
 これは、先日日本郵便株式会社お客様サービス相談センターの方から受け取ったメールだ。ある大事な申請に必要な書類が見つからず、困っていた。「なんであんな大事なものが見つからないのだろう?どこにしまったのだろう?もしかして、誤って捨ててしまったのだろうか?整理整頓、なんでこんなに苦手なのだろう。申請ができなかったらどうしよう?相当嫌味言われそうだなあ。」そんな思いがグルグル頭の中を駆け巡っていた。憂鬱な気持ちを抱えて郵便局に向かった私に対し、職員の方が「神対応」をしてくれた。大事な書類を亡くしたことに対する叱責や嫌味の言葉は、一つもなく、これからどうしたらいいか、ということだけに絞って、話をしてくれた。それだけではなく、「システムで検索することで。他に認識していない申請対象のものがあれば、それも見つけることができます。」という追加の安心材料も提供してくれた。私の懸念は一掃され、心も軽くなった。実際に接していた時間は10分もなかったと思う。その10分で私の心をこれほどまでに軽やかにしてもらえるとは!何かと忙しく、仕事自体も遅れ気味だったが、ちゃんとお礼を伝えたくて、ホームページから日本郵便株式会社にメッセージを送った。その返事が上記に転載したものだ。返事を見て、嬉しくなった。神対応を受けて私の心が軽やかになり、本部からほめられたであろう職員たちが喜びを感じ、本部からメールをもらってそんな様子を想像した私が、嬉しさを感じる。
 相手目線に立つことができれば、こういう正の循環がまわる。私はコーチや講師として活動することが多く、相手目線に立てる機会はたくさんある。その機会を最大限活用していきたい。

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