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AIと共存する力 ~英語指導の観点から~

井上 多恵子 [プロフィール] :7月号

 「英語力向上にAIを活用する力」について、今年の2月号で紹介した。その時に取り上げたのは、「あるトピックについて説明する文章を書いてもらう」ことと、「自分が書いた英文の訂正と間違い箇所についての解説」。今回は、2月号に続ける形で、その他のAI活用法を紹介すると共に、実際に試してみて感じた「AIと共存する力」について、語ってみたい。
 先日ある英語セッションで、お気に入りの英語学習方法を各自に共有してもらった。それらと、私自身も探索をした中から、特に効果的と思われる方法を3つ紹介したい。

 AI活用法
  1. 1. English news in levels
    あるニュースを三つの異なるレベルで、学ぶことができる。自分にあったレベルの文章を読むことができると共に、自分が書いた文章を単語や構文を変えることで洗練させたい、という時に参考にできる。レベル1の読み上げ音声は、比較的聞き取りやすいものになっている。ニュースだけでなく、子供向けアニメなども、三段階のレベルで学ぶことができる。

  2. 2.Natural Reader
    英語のリスニングで苦労することの一つが、異なるアクセントへの対応だ。一般的に言って、我々日本人はハリウッド映画などの影響もあり、アメリカ人が話す英語に慣れている。しかし、実際の英語の発音は多様だ。ネイティブでも、例えば、イギリス、オーストラリア、ニュージーランドで話される英語は、アメリカ人が話す英語とは異なる。アメリカの中でも地域によって、発音に特徴がある。加えて、ネイティブより圧倒的に人数が多い非ネイティブが話す英語がある。
    自分が聞き取る必要のある相手が誰かによって、その人が話す発音の特徴に慣れる必要がある。そういう場合、今までは、Youtubeの動画などで、インド人の英語の特徴を理解したり、可能な場合は相手が話しているのを録音したりして、対応していた。本人の音声を聞くことが今でも最も効果的だが、それを入手することは通常容易ではない。そんな時に次善策として使うことができるのが、自分が指定した文章を読む話者を選ぶことができるNatural Readerというソフトだ。複数用意されている話者はAI音声だが、Naturalという名前の通り、かなり自然に聞こえる。

  3. 3.ChatGPTを使った英会話練習
    ChatGPTを使って英会話を練習することができる、ということは以前から知っていた。しかし、実際に試してみて、その質の高さに驚かされた。かつて、何度言っても正しく聞き取ってくれずイライラしたことがあったことが夢のよう。今や、スマホを使うと、全く問題無く聞き取ってくれ、自分が話したいテーマに合わせて、話をしてくれる。文法上の誤りの指摘や、より自然な表現の提案をお願いすると、瞬時に教えてくれるだけでなく、会話の内容がすべてリアルタイムで文字起こしされているので、後で見直すことができる。会話にぎくしゃく感も無い。
    もちろん改善の余地はある。Natural Readerのように複数の話者は用意されていない。せいぜいイギリス人の発音を真似て、一文を発音してくれたぐらいだ。しかし、これも時間の問題だろう。

 AIと共存する力
 AIをうまく活用することで、一人でも十分英語学習ができる時代になった。そんな時代において、英語指導を仕事の柱の一つとしている私の未来に一瞬不安を覚えた。「来年は仕事の依頼が来なくなるのではないか。」と。考えた上での私の現時点での結論は、こうだ。「進化を止めれば、仕事の依頼は確実に減る。だから、進化し続けよう。」
 AIは、言語情報を扱うのは極めて得意だ。しかし、表情や声のトーンや姿勢といった様々な非言語情報をリアルタイムで理解することは、まだできない。共感を示す教科書的な表現は使うことができるが、目の前の相手に全身全霊で寄り添い、非言語も含めて相手と対峙することはできない。そこが、私の進化ポイントになる。実際に、大手英語教室も、英語を教えることから、コーチングに変化して成功している。現状と目指す姿のギャップを明確にし、何をどう学んだらいいのかというアドバイスを与え、実際に時間を割いて学ぶことができるよう支援し、進捗を確認し、滞っている場合は、モチベーションを高めることができるような関わり合いをしている。
 私の場合は、何ができるか。ビジネスコーチ、キャリアコンサルタント、研修の企画者と講師、そしてグローバルで仕事をしてきたビジネスパーソンとして培ってきた様々な実践知を総動員して、その瞬間に最も適した言語と非言語表現を選んで、関わる。何度も挫折を繰り返し立ち直ってきた経験をもとに、相手に期待し、相手を信じ切るという姿勢で接する。セッションの時だけの関わりではなく、一人ひとりのことを常に念頭におく。グループセッションで、グループの安心な学びを促進する。日々進化を続けるAIの力を借りつつ、こういった進化を続けていくことで、AIと共存し続けることができる人でありたい。

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