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グループ・コーチングの力

井上 多恵子 [プロフィール] :6月号

 先日、「世界で最も大きいコーチング・セッション」に参加した。主催者は、Coaching.comというアメリカの団体。コーチを支援するためのプラットフォームや、コーチがお互いから学びあうことができるコミュニティーの運営や、コーチが学びを深めるためのイベントを提供している。プラットフォームに参加することで、コーチとしての認知度を高めたり、コーチングのセッションを管理したりすることができる。先日のセッションは、コーチングの有用性をより多くの人に体感してもらうという目的で、開催された。
 経験豊富なコーチが約100名ボランティアで参加し、グループ・コーチングを実施。各グループに10名の参加者がいたので、計1,000人以上が参加したことになる。その数字からすると、確かに「世界で最も大きいコーチング・セッション」と言っても過言ではないのだろう。参加者は、複数のテーマの中から自分の関心に応じてテーマを事前に選択。そのテーマに沿って、事務局が、zoom用の小部屋をアサインしてくれた。私は、常日頃から自分自身でも課題だと感じている「フィードバックを与え、受け取る」をテーマとして選んだ。全体のイベントの長さは、全体での説明を含め、90分間で、その内実際のグループ・コーチングは60分強。開始時間は、日本時間の午後11時からと遅く参加するかどうか迷ったが、眠気をおして参加する価値のあるイベントだった。
 良かった点として、2つ挙げたい。一つ目は、超グローバルな環境を体感できたこと。ニューヨーク、アメリカのソルトレークシティー、チリ、アルゼンチン、メキシコ、ポルトガル、ムンバイなど、様々な場所からの参加者がいた。ムンバイの方は、話が長かったし、ニューヨークの方は、簡潔でポイントがわかりやすかった。ラテン系の人たちは、明るい感じがした。ステレオタイプ化するつもりはないけれど、その国の教育や文化や言語や風土からの影響は否定できないものがあるのだ、と改めて感じた時間でもあった。世界中の人たちが、各自がいる場所から同時に参加できるイベントを開催できるのは、テクノロジーの進化のおかげだ。我々は、恵まれた時代に生きている。日本にいながらにして、世界中の人たちと接点を持つことができるグローバルな環境を自らつくることができるのだ。
 二つ目は、複数の人たちの実践知から学ぶことができた点だ。これは、グループ・コーチングの大きな魅力だ。日本でのグループ・コーチングの認知度は、アメリカと比較すると、まだ高くない。しかし、複数の人たちの実践知から学ぶこと自体は、現場の草の根活動の中で、元々日本人が得意としてきた領域だ。そこに、話を引き出し対話が円滑に進むよう促進するファシリテーター、あるいはコーチと言われる人を入れて体系化したのが、グループ・コーチングだ。一人を相手にするコーチングだと、コーチから投げかけてもらった問をじっくり考えて、コーチングを受けている人が自分の思いや考えを言語化して気づきを得ることが中心になる。片や、グループ・コーチングでは、「同様な場面で、自分はこう行動して、こんな結果を得た」といった実際に体験したことの共有がなされる。そのことで、他の人も自分と同様なことで悩んでいるのだと知ってホットしたり、様々な人の意見を聞いて、異なる視点を理解できるようになったりすることができる。共有する人も、自分の経験をわかりやすく伝えようと工夫することで、経験自体を振り返り、「あの経験はこういうことだったのか!」といった気づきにつながる場合もある。また、同じメンバーとセッションを複数回、日をおいて繰り返す場合は、お互いを深く知ることにもなり、自己開示をしていく中で、コーチング・セッションを離れたところでもサポートしあう強い繋がりができたりすることもある。
 もちろん、そういう場をつくりあげるためには、ファシリテーターのスキルや、参加者自身が、グループに貢献する気持ちを持っていることが欠かせない。ファシリテーターのスキルの中には、グループの中で自己開示してもよいと思える場づくりや、内向的な人にも話をしてもらうよう促すといったことも含まれる。私が参加したセッションのコーチはそういったスキルに長けており、おかげで、私もファシリテーションの仕方だけでなく、フィードバックに関する気づきを得ることができた。例えば、きつめのフィードバックを受けた時に自分に投げかけたい問が見つかった。その問は、「知る方がいい?それとも知らない方がいい?」だ。腹が立つようなフィードバックだったとしても、自分が相手にそう映っているのだとしたら、改善の余地はある。たいていのことは、「知ったほうがいい」ことになる。
 今後もグループ・コーチングの機会があれば参加したいし、自分でもその場を提供できるようにしていきたい。

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