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ロケット開発は難しい
~ノウハウの伝承は定期的に~

PMマイスター 長谷川 義幸 [プロフィール] :9月号

〇スペースXのロケットファルコン9が失敗 (*1)
 H-3ロケットでの地球観測衛星(だいち4号)の成功の後、立て続けにロケットのトラブルのニュースが出ていた。
 7月12日、スペースX社のファルコン9ロケットが失敗した。さらに、H-3の競争相手である欧州のアリアン6ロケットの初打ち上げで小型衛星の軌道投入には成功したが、その後のエンジン再点火ができなかったというニュースが報道された。
クルードラゴン宇宙船  ファルコン9は、2016年から連続300回以上も打ち上げに成功しているロケットでありロシアのウクライナ侵略で有名になったインタネット通信衛星のスターリンクの打ち上げにも、使用されている。さらに、このロケットはISSに宇宙飛行士を輸送するクルードラゴン宇宙船(右図)にも使用されていて、8月中旬の有人飛行も当面中止となった。
 ファルコン9は、2010年6月には初打ち上に成功してから、現在数日に一基のペースで打ち上げが行われている世界でも最も多く運用されているロケットの一つである。
 トラブルは、第一段エンジンは正常に燃焼したが、第2段エンジンから液体燃料が漏れるトラブルが発生し、目標とする軌道に投入できなかった。原因は調査中とのこと。
 一方、欧州の新型ロケットアリアン6は、当初の目的である小型衛星の軌道投入は成功しているので、ロケットとしては成功であるが、使命を終えたロケットを軌道上のデブリにしないために大気圏に再突入させるためのエンジンに再点火する際に、燃料タンクの加圧装置にトラブルが発生し、大気圏再突入に失敗した。
 現在、ロシアのロケットが自由に使えない情勢から、アリアン6は先々まで予約が埋まっているので、今回の打ち上げは是が非でも成功させる必要があった。
 実績のあるロケットでも運用中にときたまトラブルは起きる。H-3ロケットのエンジンの開発はトラブルが続出し、当初の開発完了予定が延期になったことは記憶に新しい。
 ロケットの心臓部であるエンジン開発は非常に難しく、製造段階でもその品質の維持が難しい。

〇ロケットはなぜ宇宙まで飛び上がれるか?
ロケットはなぜ飛ぶことができるのか  ロケットはなぜ飛ぶことができるのか。原理は膨らませた風船を手から離したときに、中の空気を噴き出しながら飛んでいくのと同じです。
 外から力を加えるのではなく機体の中からガスを噴き出して、その反動で飛びます。
 ジェット機は、飛行しながら空気を取り込んでいるが、ロケットは空気のない宇宙を飛行するので、燃料を燃やすための酸素を積んでいて、酸素で燃料を燃やす装置をエンジンと呼んでいますが、そのエンジンからでたガスを噴射口からより多く噴出させれば、させるほど加速して上空に行きます。
 ロケットのエンジンは、重い荷物を宇宙空間に持ち上げるため、花火大会の十倍の火薬を一気に消費するくらい瞬時にエネルギーを放出します。その力は、東京―大阪間を約1分で飛行するくらいである。そういう複雑な構造のため、信頼性のあるエンジン(ロケット)を開発できる国は非常に少ない。

〇ロケットエンジンの開発はなにが難しいか (*2) (*3)
ロケットエンジンの開発はなにが難しいか  「ロケットを人間に例えると、エンジンはそのエネルギーを生み出す心臓。エンジンはマイナス200℃程度の極低温の液体酸素と液体水素を1秒間にドラム缶約5本分吸い込み、約3000℃の高温ガスへと燃焼させてそれを超音速で噴射し、宇宙に到達するために必要な推進力を生み出す。内部は極低温と極高温が存在し、超高圧、過酷な振動が負荷される。エンジン開発は故障との格闘の連続」とJAXAのロケットウエッブサイトに書いてあります。
 H-3のエンジンLE9の開発は格闘の連続だった。大型ロケットエンジンでは、大量の推進剤を燃焼室に流し込むために、ターボポンプが利用される。2020年5月のエンジン燃焼試験で燃焼室の壁に14か所の穴があいた。
 効率良くエネルギーを獲得するため燃焼室には、500本もの冷却溝を配置。内壁と冷却溝の間は0.7mm程度という薄さになる。不具合で出来た穴は燃焼室内が想定よりも温度が上がって内壁が変形し、冷却溝まで達する穴が開いてしまったと推測されている。このため燃焼室の温度の冷却強化を行った。
 また、ポンプは、1分間に約4万回転という高速回転するため、共振が発生しやすく、昔から多くの技術者を悩ませてきた。シミュレーション技術が発達したとはいえ、流体の挙動は複雑でまだ完全に模擬することは難しく、実機で試さないと分からないことが多い。
 開発途中に、やはり液体水素ターボポンプと液体酸素ターボポンプの「振動」問題が発生した。このため翼の枚数と形状を変えることで通常の運転で共振が発生しないようにした。
 開発が当初より長期間に及んだため、考えうる複数の案を同時並行で開発、試験を行っていくことによって時間の短縮を図った。まだまだカット・アンド・トライが必要な世界です。
 複数の開発・試験を同時並行で進めるには、人手が必要で、複数の設計チームを編成し企業の垣根を超えたチームを設置した。IHI、三菱重工、JAXAのマネージャクラスが同じ部屋に集い、試験結果を受けて技術的な決断を迅速に行っていく。その決断に基づいて各社が即座にアクションをとる。2020年3~6月の間に8回の試験を実施して開発を完了させ、打ち上げを成功させた。
 米国ではエンジン開発を現在NASAは行っていないで民間会社が行っており、また一部のエンジンは輸入している。2000年から軍事衛星の打ち上げに使用されているアトラスロケットの第一段エンジンはロシア製、世界で最も優れたエンジンである。ロケットエンジン開発には大量の手間と技術者、それに優れた設計の直感をもった人が必須です。
 最近まで国防総省はこのエンジンをやめることができなかったが、2023年このエンジンの使用を禁止する法案が米国議会で可決され使用できなくなった。これは、ロシアのウクライナ侵攻が影響しているのと自国で対応が出来るようになった事情がある。

〇技術継承のためには20年に一度は開発をすべき
 H-3用のLE9エンジンの元になったLE7エンジンの開発は、1993年から1994年まで行われ、30年も前になる。当時と比べるとシミュレーションなど試験の技術が格段に進んでいるが、ロケット開発におけるエンジニアリングセンスや様々な経験がない中で取り組むメンバーが多くなっている。20年以上開発期間があくと開発ノウハウが薄れる。伊勢神宮のように20年毎に式年遷宮を行って技術継承を図らないと技術が継承できない。ロケットの開発も国家の重要な基幹技術、20年に一度は開発をすべきであろう。先人のノウハウの伝承の知恵を生かすべきである。

参考文献
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