理事長コーナー
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いま何故 P2Mか

PMAJ 理事長 加藤 亨 [プロフィール] :8月号

 PMAJの論理的基盤であるP2M標準ガイドブックの初版は、日本が「失われた20年」の真っただ中にいた2001年11月に発行されました。その冒頭に「今後、日本企業は『ものづくり』中心の発想から転換して『仕組みづくり』による再生に注力しなければならない」と、価値共創型マネジメントへの転換を提言しています。しかしながら、現在の日本の状況を見ると、その提言は必ずしも十分に浸透して来なかったように感じます。
 スイスのビジネススクールの国際経営開発研究所(IMD:International Institute for Management Development)は毎年、国際競争力ランキングを発表していますが、今年のランキングは6月18日に発表されました。そのランキングによれば、2024年の日本の国際競争力は、調査対象の67か国中38位と過去最低の水準に落ち込みました。
 IMDの国際競争力ランキングは、調査対象国・地域の競争力について、「経済状況」「政府の効率性」「ビジネスの効率性」「インフラ」の4カテゴリーの指標でスコア付けしています。
 日本のそれぞれのランキングを見ると、「経済状況」21位、「政府の効率性」が42位、「ビジネスの効率性」が51位、「インフラ」が23位となっていて、政府とビジネスの効率性が低迷していることが大きな要因となっています。日本は、今、改めて官民を問わず、「仕組みを抜本的に作り直す必要性」に迫られているということではないでしょうか。

 P2Mガイドブックの初版では、「『仕組みづくり』とは、簡潔に言えば経営者が率先して組織全体に『企業価値とは何か』を問いかけ、新しいビジネスモデルを再構築することである。」(「P2Mの開発と発刊にあたって」より)と定義されており、プログラムマネジメントを価値創造のマネジメントと位置づけたことに革新性があると考えています。このことが、プログラムマネジメントを「大規模プロジェクトの集合体のマネジメント」と捉えていた欧米のPM標準に大きな影響を及ぼしたことは良く知られています。
 同時に、価値創造のプロセスを「企画づくり(スキームモデルプロジェクト)」、「システムづくり(システムモデルプロジェクト)」、「利用づくり(サービスモデルプロジェクト)」の3のプロジェクト(3Sモデル)が結合してプログラムを構成し、そのプログラムが次のプログラムと循環し、連鎖波及的に価値を共創する」という価値共創のモデルを示し、プログラムと事業活動のライフサイクルとの整合性を明確に示し、事業活動でP2Mを適用することの有用性を示したことが大きな特徴となっています。
 ただ、2000年代の初めという時期は、まだ日本がモノづくりで国際競争力を激しく争っていた時期でもあり、2000年対応や内部統制対応など、内向きの対応に追われた時期でもあり、プログラムマネジメントへの大きな流れを作るには早すぎる時期であったのかもしれません。
 今、戦後の価値観が大きく変容し、インターネットを通したサービスビジネスが主流となり、存在感を失いつつある日本の産業界に対し、PMAJは、どのような貢献が必要なのでしょうか。「わが国産業の国際競争力の強化および活力ある経済社会の発展」をミッションとするPMAJがP2Mガイドブックの改訂版を発行する意味はここにあると考えています。
 今回のP2Mガイドブックの改訂では、もともとP2Mが提示した、「経営者が率先して組織全体に『企業価値とは何か』を問いかけ、新しいビジネスモデルを再構築する」プログラムマネジメントの流れと、「3Sモデルが結合して次のプログラムと循環し、連鎖波及的に価値を共創するモデル」の関係性を明確に示すため、両者を統合した「P2M事業モデル」を定義し、そのモデルの上で、実施すべきプロセスを明確に位置付けて解説することで、事業活動でP2Mを適用することの意義を明確に示し、事例解説も交えてP2Mを実務に適用する際のポイントを明確にすることに焦点をあてて実施しています。
 P2Mガイドブック改訂4版、VUCAの時代という先の見えない環境の中で、価値共創を目指す日本の企業人に対して、進むべき道を共に考える指針であると確信しています。
 なお、本書は、すでに出版社のサイト等での予約販売を受け付けています。

 また、9月5日、6日のPMシンポジウム2024の会場では、実際のガイドブックを展示する予定です。
 ぜひ、ご参加・来場の上、ご一覧いただきたくお願いします。

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