グローバルフォーラム
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「グローバルPMへの窓」(第181回)
パリオリンピック開幕、フランスは遠くにあり

グローバルPMアナリスト  田中 弘 [プロフィール] :8月号

 パリオリンピック2024が開幕した。2002年から2019年までフランスの経営大学院で国際教員をしていた筆者は、新型コロナ前であれば、血が騒いで、駆け付けていただであろうが、今は、フランス、それは遠い思い出である、という感情しか出てこない。
 
 フランスには1980年代に社業で4回ほど出張し、教員としては、フランスのグランゼコールである旧ESC Lilleに2002年から9年間、大学院がニースESCと統合され名称がSKEMA Business School となってから9年間、国際教授(客員教授)として通い、フランス渡航回数は50回くらいに達した。キャンパスは、最初の4年はリール本校に通い、授業と毎年8月の世界のPM専攻教授と学生を招待して実施する世界博士セミナーのファカルティ―を担当し、次の4年は授業のみパリキャンパスで行い、2012年からは博士課程生の指導専門になったのでリール本校に戻り、5人の博士課程生のPh.D.取得を指導した。2018年の世界博士セミナーの最終コマで最終講義を行ってSKEMAを辞した。
 
 かつて、世界のプロジェクトマネジメント学のハブ校であった同学では、現在、修士課程にはプロジェクトマネジメント専攻は残っているが、博士課程のPM専攻はかつて100名の学生が在籍した面影はなく、Ph.D. in Sustainability に統合されている。
 
 この教員としてのフランス滞在は完全に英語の世界であり、街でフランス語の勉強をと思ってフランス語で話すと、当方のアクセントを瞬時に見抜き、すぐに会話は英語に切り変えられることを繰り返したし、フランス国の勉強をしていないので、フランスを語れるほどにはならなかった。
 
とはいえ、電車の旅と街を観察するのが大好きな筆者には、北フランスの素敵な町リールの石畳の道、ユーロトンネルの入り口のカレーなど北フランスの大西洋岸の町、パリ郊外、シャルル・ドゴール空港近くの村ムニール・アムロ、スペイン国境近くのTGVの終点の町パルピニョン、そして大学院の研究科長であり、研究者として最後のリサーチを共同で行った先生が住むニースなど、こちらは楽しい思い出である。
 
 フランスが偉大であるのは、農業国として高い技術を持つ一方、工学も超一流、文化やエリート教育も世界一流という点である。しかし、社会闘争意識や政治的な対立も激しい。この多様性には、日本の同調性が嫌いな筆者は触発された。
 
 パリオリンピックの開会式は、フランスならではのプロダクションで、大変面白かった。大会組織委員長のプレゼンテーションが素晴らしかった後、開会宣言を行ったマクロン大統領の表情が憂いを帯びているように見えたのは、現下のフランス政局運営の不透明性の故であろうか。 

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