今月のひとこと
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 足を引っ張る 

オンライン編集長 深谷 靖純 [プロフィール] :7月号

 夏果物の代表は何といってもスイカです。給水所にスイカが並ぶことで有名な「冨里スイカロードレース(千葉県冨里市)」は、上位表彰者の賞品もスイカだそうです。関東地区では千葉県産のシェアが高いと思っていましたが、暑さが本格化する7月からは山形産のシェアがグッと伸びてくるそうです。
 子供の頃、今は大好きなスイカが苦手でした。上品に食べる方は別にして、口の中で種(タネ)を選り分けてプッと出す食べ方が一般的ですが、この口の中のタネの感触が嫌いだったのです。何がどう嫌だったのか、今となっては説明できませんが、子供の頃は口内センサーの感度が相当に高かったのかもしれません。出された食べ物を残すのも嫌いだったので、嫌々食べているうちにセンサーの感度が鈍り、今では大好きな果物になっています。ひょっとすると、「スイカの種」センサー以外にもたくさんの感性があったはずなのに、大人になるにつれ塞いできたのかもしれません。

 6月の初め頃、国内の自動車メーカー5社で形式指定取得のための認証試験で不正が発覚したとしてそれぞれのTOP(会長・社長)による謝罪会見がありました。不正はあったが安全性に問題はないという訳の分からない話なので、その後の経過も曖昧です。
 コンプライアンス違反、制度の不備など様々な視点からの意見が出ていますが、問題の核は「国(行政)が産業(製造業)の足を引っ張っている」ということではないかと思います。
 さらにいえば、行政の不備を正す自浄作用が働かず、立法も行政をチェックできていません。芸能事務所のセクハラに関する報道の在り方を反省したはずのマスコミも、反省を活かすチャンスにも拘わらず、及び腰の報道姿勢のままです。

 認証試験がどういうものか一般には分からないのですが、自動車が衝突した際の安全性を確認する試験項目もあるそうですので、仮に「安全性能試験」とします。事故を起こした際に、例えば搭乗者が生存できるような自動車の強度について基準が定められていて、それを確認するための安全性能試験の手順も定められているそうです。今回各社TOPが謝罪したのは、試験の手順が定めどおりでなかったという点です。
 強度基準を満たしていても、定められたとおりの手順を踏んだ安全性能試験を実施しないと基準を満たしたことにならないというのが、日本における自動車の形式指定制度です。安全性を保障するためのしっかりした制度のように見えますが、自動車は日本国内だけで販売しているわけではありません。世界には、日本以上に厳しい基準を設けている国もあります。その厳しい基準に合わせた安全性能試験をクリアしたとしても、日本固有の甘い基準の安全性能試験を実施しなければ形式指定しないという制度でもあるのです。
 安全性能試験では、そのまま販売できるような完成車を使います。数万個の部品を組み立てて完成し、道路を走らせることなく安全性能試験に回されるのは1車種あたり何台になるのでしょうか。より高い基準を満たしているにも拘わらず、日本の国内基準に合わせただけの安全性能試験まで実施するならば1車種あたり破壊する完成車の台数は200台を超すという人もいます。正確なところは不明ですが、少なくとも1台、2台という話ではないはずです。1台数百万円の自動車を手順どおりの試験を実施するためにだけ破壊する行為を実施する意味が分かりません。行政が足を引っ張っているとしか言いようがないと思うのですが、いかがでしょうか。

 今回、日本の製造業を牽引する自動車業界に対する行政の「足引っ張り行為」が、明るみに出ました。本来、行政は、産業を振興し、製品の品質を保証する役割を担う立場にあるはずですが、何故か、平気で足を引っ張っているようで、自動車の安全性能試験に留まる話だとも思えません。問題が明るみにでたことをチャンスだと捉えて、立て直しに取組んでいただきたいものです。
以上

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