今月のひとこと
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 兵法者 

オンライン編集長 深谷 靖純 [プロフィール] :6月号

 いよいよ梅雨を迎えます。公園だけに限らず、街並みの其処此処に紫陽花の花が咲き始めました。季節に律義な花だと感心していたのですが、最近、梅雨の雨が自分を一番美しく見せるのを知っているのだという話を聞いて、そんな見方もいいなと思うようになりました。紫陽花のことを無視するような、大雨など情緒のない天候不順が増えているのが気にかかります。

 兵法と書いて「へいほう」と読むと兵士を扱う方法ということで戦術とか軍略という意味になります。有名な「孫子の兵法」は戦争に勝つための方法が書かれていますが、現代の企業経営・国家運営にも通じるマネジメント書だといった評価もあります。
 「ひょうほう」と読むと「兵士を」が「兵士が」に変わり、兵士が扱う方法という意味になります。宮本武蔵のような剣術家のことを「兵法(ひょうほう)者」と呼ぶのはこれにあたります。ただ、ややこしいのは宮本武蔵が書いたとされる「五輪書」は「兵法(へいほう)書」に分類されているようなので、実は、へいほうとひょうほうの区分はかなり曖昧なようです。
 兵法というものが誕生した時代にも、王の墓や宮殿の造営といった大規模なプロジェクトがありました。個別の施設に関する設計書は断片的なものなど見つかっているようですが、プロジェクトマネジメントのような概念を文書化したものは見つかっていません。プロジェクトとは呼べませんが、大量の人間や武器を投入する戦争に関する概念を文書化したのが兵法です。王墓の造営などと違って、戦争は頻繁に行われていたので標準ガイドとしての兵法書ができたのではないかと推測します。孫子の兵法にある「兵は詭道」など有名な言葉が多くありますが、戦争絡みは解説付きでも難しいので、兵法書についてはここまでにさせてください。
 編集子が気になっているのは、兵法者という言葉です。武芸が優れていて、さらに戦場においては部隊(チーム)を率いて大きな戦果を上げるリーダーになるような人が兵法者です。プロジェクトマネジャーはプロジェクトチームのリーダーとして、プロジェクトを成功に導く使命を負っています。優れたプロジェクトマネジャーは正に兵法者ではないかと思いついたのですが、どうも具合が良くないのです。プロジェクトマネジャーの実践力を測るとき、P2Mでは10のタクソノミー(能力要素とその評価基準)を用いるのですが、その中に、武芸に相当するものが入っていないのです。
 兵法者は、武芸に優れているので戦場では部隊の先頭に立って戦うことになり、自ずとその部隊の指揮を執るようになるのでしょう。プロジェクトにおいても、プロジェクトの中核となる技術に通じた者がリーダーになるというケースは珍しくはありません。なのに、10のタクソノミーには技術力が入っていないのは何故でしょうか。
 賢明な読者諸兄には、既にお判りでしょうから、もしも後輩たちから質問をされたら、上手く回答してください。
以上

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