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「エンタテイメント論」(195)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :6月号

エンタテイメント論


第 2 部 エンタテイメント論の本質

7 本質
●原因説 その2 日本の文化が英語力の習得の障害
 前号で「日本語は中国語や韓国語と共に英語と最も遠く離れた言語である為、その習得が最も困難な言語である」と公表した米国・国務省・米国外交官養成局の分析評価を紹介した。此の事は、言い換えれば、「英語は日本人にとって超難関言語である」と云う事を意味する。

 此の分析評価に加えて、各国の様々な学者が指摘している事がある。其れは日本が中国、韓国を含む諸外国と大きく異なる「日本独特の文化」を持っている事が日本人の英語力習得の障害となっていると云う指摘である。しからば「日本の文化」の何が障害となっているのか?

1 「恥の文化」の日本国と「罪の文化」の欧米諸国
 米国・文化人類学者・ルース・ベネディクトは、著書「菊と刀」で、日本人は世間体と云う他者から評価を気にする「恥の文化」を持つ。欧米人は自分の良心を気にする「罪の文化」を持つと著した。

出典:菊と刀 原本&邦訳
出典:菊と刀 原本&邦訳
出典:菊と刀 原本&邦訳
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 欧米人は一神教のキリストの絶対的規範を守ることを重視し、それを破る「罪」を意識する。日本人は多神教の神を信じる一方、万物に神が宿ると云う規範性まで待つ。その結果、世間体と他者の目を重視し、同質化を求め、違う事や間違うことを「恥」じる意識が強い。

 そもそも異なる言語を習得するには数多くの事を試し、数多くの失敗をする「Trial & Error」が日本人を含め、どの国の人物にも求められる。此の事は言語の習得に限らず、多くの事の習得に必須の事である。従って間違う事を恐れる事は、英語力の習得に極めて大きな障害になる。

 なお最近の日本には特に米国からの帰国子女が数多くいる。彼等の多くは帰国後、日本の小学校や中学校に通う。彼等は流暢な英語を話せるため、周囲から「のけ者」にされる場合がある。其の為、彼等は敢えて下手にカタカナ英語を発音し、周囲との同質化をする様である。

2 ハイ・コンテクスト文化の国民とロー・コンテクスト文化の国民
 米国・文化人類学者・エドワード・ホールは「ハイ・コンテクスト文化」と「ロー・コンテクスト文化」を主張した。日本人はハイ・コンテクスト文化の国民、米国人などはロー・コンテクスト文化の国民である事、しかしどちらの文化が優れていると云う事ではないと分析された。

出典:ハイ・コンテキスト文化と「ロー・コンテキスト文化
出典:ハイ・コンテキスト文化と「ロー・コンテキスト文化 images.search.yahoo.com/search/images=high+context+culture+low+context
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 ハイ・コンテキスト文化では、いちいち言葉で理論的に伝えなくても相手に此方の意図が理解され、感性的にも意思疎通(コミュニケーション)が成り立ち易い。ロー・コンテキスト文化では、いちいち言葉で理論的に伝えないと相手に此方の意図が理解されず、感性的には意思疎通(コミュニケーション)が成り立ち難い。

3 ハイ・コンテクスト文化の日本国内ビジネスとロー・コンテキスト文化の海外ビジネス
 日本国内ビジネスの世界では、イチイチ言わなくても意思疎通が容易である。しかし国内ビジネス界でも、誤解や曲解を防ぎ、適時、適切な経営・業務の成果を求める日本人の企業人(社長&社員)は、自分や自社の在り方ややり方をロー・コンテクスト文化で伝える様である。

 海外ビジネスでは、ロー・コンテクスト文化で推進されている事は言うまでもない。従って日本人の企業人は、海外ビジネスに参画する場合、実用的な「英語力」を体得し、活用できるだけでなく、自分や自社の在り方ややり方を相手に理解して貰う為、ロー・コンテクスト文化に従った意思疎通をする事が求められる。

4 自己主張が強くない日本人と強い中国人、韓国人、欧米人
 日本人は、ハイ・コンテキストの文化特性を持つ他に「相手の気持ち」を汲む気質を強く持つ。その為、相手の意見や思いをよく聞き、自己主張を余り強くしない。しかしロー・コンテキスト文化特性を持つ欧米人は、子供の頃から鍛えられたせいもあり、自己主張が極めて強い。またハイ・コンテキスト文化特性を持つ中国人や韓国人でさえも自己主張が強い。

 その結果、欧米人、中国人、韓国人は対話の相手が日本人の場合、「日本人は何を言いたいのか?」や「何を考えているのか?」がよく分からないと指摘する。日本人は彼等と英語で意志疎通する場合、英語力の問題以外に此の問題を抱え、意思疎通の障害を起こしている。「相手の気持ち」を汲む気質も「日本の文化」から派生した様である。この問題に関して次号で解説したい。

出典:自己主張が強くない人と強い人
出典:自己主張が強くない人と強い人
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●原因説 その3 日本の小・中・高の英語教育の問題が英語力の習得の障害
 英語教育の問題は、本質的には「教育の問題」である。従ってその範囲は広く、奥が深い。しかし本稿の紙面の制約から特に問題となっている事に限定して議論したい。

1 テスト対策本位の英語学習
 日本の多くの小・中・高の学生は、少しでも良い、少しでも有名な中学、高校、大学を目指して勉学に勤しむ。彼等は受験戦争で勝つため、入学試験の合格を左右する英語のテストスコアを重視する。その結果、日本における英語教育はテスト対策本位の学習となっている。

出典:受験戦争
出典:受験戦争
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 特に大学入試試験では、学生だけでなく教育機関(高等学校、中高一貫校、進学塾など)の関係者まで入試合格スキルの習得に注力している。実用的な英語力の獲得よりも英語テストで良い成績を取ることを最優先とする。文法や語彙の暗記力は伸びるが、英語会話のスキルは後回しどころか殆ど無視されている。

 中学、高校、大学の入試合格スキルで得た英語は、実際の日常会話やビジネスシーンで用いられる英語と異なる。其の為、彼等が中学、高校、大学を卒業後、実用的な英語を使う場面に直面すると、却って障害を引き起こす。

 そもそも彼等は、卒業前も、卒業後も、日常的な実生活の場面でネイティブな英語を話す人物と話す機会が極めて少ない。日本の中学、高校、大学の「受験科目」から英語科目が外されない限り、テスト対策本位の英語学習は今後も無くならないだろう。

2 日本の小、中、高の英語教師の実力と英語トレーニング・プログラム
 日本の小、中、高の英語教師の多くは、読み、書き、文法などの指導に長けてる。しかしスピーキング、リスニングが中心の会話能力の指導に不慣れである。更に英語トレーニング・プログラムでは日本人英語教師で英語をネイティブに話す人物は極めて少ない一方、英語を円滑に話せない日本人英語教師がかなり多い。

出典:英語授業
出典:英語授業
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 英語トレーニング・プログラムでは、発音指導や会話技術(コミュニケーションスキル)の指導が不足し、発音の正確さ、会話の正しさより表現構成や文法の正確さを重視されている。其の為、学生達は自然な英語会話を身に付けるのが難しくなる。

 欧米、中国、韓国などの学生は、長い文脈で、具体的に、自身の意見やアイディアを恥ずかしがらず、堂々と述べる事に慣れている。自己主張の強い事と相俟って、学生同士は日頃から意見を主張して合って戦う(DiscussionではなくDebate)。欧米では小~中~高~大学まで教育過程で学生は一貫してDebateの訓練を受ける。

 日本の学生は、たとえ母語であっても、短い文脈で、具体的に、自身の意見やアイデアを恥ずかしがり、堂々と述べる事に慣れていない。益して英語で述べる場合は、文脈が益々短くなり、具体性を欠き、面白味も、独創性も不足する。日本人の学生は英語トレーニングプログラムの訓練を受ける以前にDebate教育の欠如の問題を抱えている。この問題は次号で詳しく解説したい。

3 日本の中学校と高等学校での学習時間と学習量が圧倒的に不足
 米国・応用言語学者・ジェーン・マーレー(Joan Morley)は、子供が5歳までに約17,520時間の母語のインプット(聞くことと読む)を受ける事を発表した。既述の通り、米国・国務省・外交官養成局は、英語のネイティブ・スピーカーが日本語習得には2,200時間の学習が必要と分析した。

 従って英語力の習得に学習時間と学習量が決定的な役割を発揮する事が分る。しかし日本人は中学・高校の6年間、英語を学習したトータル時間は790時間である。5歳児のインプット時間に到底及ばない。外交官養成局の習得必要時間にも及ばない。

 心理言語学・応用言語学者・門田修平・関西学院大学教授は、2006年の中学・高校の英語教科書を調べた結果、学生が中高の6年間で触れる単語数のトータルは35,000語。此れは英語のペーパーバックの72ページ分にしかならないと主張。またベストセラー映画になったダン・ブラウン(Dan Brown)のダ・ビンチ・コード(The Da Vinci Code)のペーパーバックは597ページある。日本人学生は6年間でダ・ビンチ・コードのペーパーバックを1/8しか読んでいないと嘆いた。

出典 ダビンチ・コード ペーパーバック
出典 ダビンチ・コード
  ペーパーバック
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 日本の中学校や高等学校の英語学習は、テスト対策本位であるだけでなく、そもそも英語学習時間と学習量が圧倒的に不足している。この状況では日本人の学生達の英語力を向上させる事は極めて難しくなる。
つづく

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