グローバルフォーラム
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「グローバルPMへの窓」(第179回)
50年ぶりの南米向け研修

グローバルPMアナリスト  田中 弘 [プロフィール] :6月号

 
 5月は南米諸国とウクライナというユニークな国ぐにと向き合った。
 
 5月21日午後、日本プロジェクトマネジメント協会に、公的研修機関の研修プログラムの一つで、日本的経営の研究に関する南米5カ国研修団を受け入れ、プロジェクトマネジメントの現況と日本での活用というテーマで講演と討議を行った。
 
 筆者は約60年前の学生時代、大学のラテンアメリカ研究会に所属しており、ペルーほか南米4カ国に調査などで1年間滞在し、会社に入ってからもスペイン語を業務で使用するなど、スペイン語は真剣に学んできたが、1973年にアルゼンチンの顧客向けにプレゼンテーションをしたのを最後にスペイン語とは無縁の世界で生きてきた。今回AOTSから研修の要請が来て、50年間お蔵入りしていたスペイン語を引っ張り出してきて、3週間でさび落としを行って2時間半の研修を行なった。結果、レクチャーと質疑応答を自分で行うことができ、ゲームを無事作れた。研修生は、直接スペイン語で講義ができる人に出会ったことで大変驚いていた。
 
 研修参加者は、アルゼンチンを中心としてウルグアイ、パラグアイ、ブラジル、ベネズエラから13名であった。これらの国ぐには、地勢・文化的にはいわゆるラテンアメリカで、ブラジルがポルトガル語で、他はスペイン語の違いはあるが、文化的には似たような国ぐにであるが、経済で大きな差がついている。ウルグアイとパラグアイは農産品の輸出でかなり安定した経済成長を遂げており、国情は安定している。ブラジルも左翼政権のルーラ・ダ・シルヴァ大統領の復帰があり、世界の農産品争奪戦の中にあって農産大国で、また、産油国であり、経済はとりあえず順調だ。ベネズエラは極左政権で、米国の制裁が続いており、有数の産油国でありながら、経済不振、国情不安が続いている。
 
 アルゼンチンは20世紀はじめに加速度的な経済発展を遂げて世界の豊かな国10傑に入っており、ブエノスアイレスを始めとしてヨーロッパと変わらない美しい都市や立派なインフラを築いていたが、その後の凋落もまた加速度的であり、先進国から発展途上国に転落した唯一の国となった。現在国民の40%が貧困層であり、国の将来に希望を失った人々のヨーロッパへの移住も続いている。ヨーロッパからの移民がかつて豊かな大国をつくり、今、5世から6世がヨーロッパに新天地を求めて帰っていくというのは、ウォッチャーとしてセンチメンタルにならざるを得ない。
 
 スペイン語でレクチャーをすることは2度とないであろうが、筆者の彷徨える中南米魂を揺り起こしてくれた貴重な経験となった。
 
 24日には、オンライン参加であるが、所をかえて、戦禍のウクライナの年次PM大会で20分の基調講演を行った。報道のとおり、東部ウクライナのロシア国境に近い150万都市ハリキウ(旧ハリコフ)から東の国境沿いでロシア軍の越境侵略があり、大きな被害がでている戒厳下で、50名が参加して2時間(戦時下で本来6時間を短縮)の大会が実施された。戦後のウクライナ復興プログラムに向けたプロジェクトマネジメントが大会テーマであったが、実際の内容は産業におけるAI活用が主体であった。筆者がウクライナの大会に初めて講演をしたのは2009年であり、8回基調講演を出講しているが、この大会は世界のPM大会と異なり学者の大会、つまり実質学会であるので、研究者をやめた筆者には敷居が高くなったので、本年の出講を最後としたい。
 
 この大会を主宰するウクライナPM協会長であり、世界のPM研究の超名門大学の学部長であるセルゲイ・ブシュイェブ教授は77歳にして、大変困難な情勢下でも前進を続けており、最近ではポーランドの大学とダブル・デグリー科目で、AIベースのプロジェクトマネジメント・コース(修士レベル)を立ち上げた。また、以前からドイツの大学とユーロPMプログラム(修士レベル)を運営しているが、悩みはウクライナの修了生は、ほとんどが修了と共にEUに残り就職することだそうだ。
 
 5月末からは石油天然ガス産業のマネジャー達に向けた研修シリーズが始まる。🤍🤍🤍

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