思考の穴 ―わかっていても間違える全人類のための思考法
(アン・ウーキョン著、花塚恵訳、ダイヤモンド社、2023年10月4日発行、第3刷、385ページ、1,600円+税)
デニマルさん : 6月号
今回紹介する本は、現在それ程大きな話題にはなっていない。しかし、筆者がこの本に注目した点を幾つか紹介してみたい。先ずその前に、この話題の本を毎月連載して20年余、多くの本を読みその中から年間12冊を厳選してご紹介している。その情報源は、芥川・直木賞や本屋大賞や種々文学賞の受賞作品や、ベストセラー本や出版社・新聞社等々が発表する売れ筋ランキングがベースとなっている。その中でもWebで図書紹介しているメルマガ(「松岡正剛の千夜千冊 (isis.ne.jp)」や土井英司氏の「BBM:「ビジネスブックマラソン」バックナンバーズ (eliesbook.co.jp)」や松山真之助氏の「Webook of the Day - メルマガ (mag2.com)」)は10年以上も定期購読している。実は今回紹介の本は、土井氏のBBMで取り上げられた情報をベースに本書を購入した経緯がある。そこで少しBBMのご紹介をさせて頂きたい。BBM(ビジネスブック・マラソン)は、元アマゾンのカリスマバイヤーで、日本を代表するビジネス書評家として雑誌、新聞、TV、ラジオ、インターネット等で活躍する土井氏が執筆する書評メールマガジン(無料)である。土井氏は、年間約1,000冊を読破する本の目利きとして、ビジネス書を中心に「仕事と人生に役立つ良書」をWebで1日1冊を紹介している。2004年7月より日刊で発行を続け、2024年5月20日現在で6480回であり、フォロアーは56,000人強とある。因みに、紹介の本が取り上げられたのは、2023年9月11日のVol.6314である。筆者も2010年頃から購読させて貰っている。このメルマガは毎日発行され、100号毎にBBM大賞を発表している特長がある。だから多くの発売される本の中から、話題の本を探すのに大いに参考にさせて貰っている。それと個人的には、土井氏が最初に書かれた「成功読書術、ビジネスに生かされる名著の読み方」(2005年4月10日、初版、ゴマブック(株)発行)を愛読している。さて、本題の今回紹介の本をご案内したい。表紙には、「イェール大学集中講義、思考の穴――わかっていても間違える全人類のための思考法」とある。そして本書のオビ文には「世界最高峰の大学で、大講堂が毎週大満員」となる程の講義を纏めた本であると宣伝されてある。イェール大学はアメリカのコネチカット州ニューヘブンにあり、1701年創設の名門校である。世界大学ランク9位で偏差値80とも言われ、最難関大学の一つである。本書の著者を紹介する。イェール大学心理学教授。イェール大学「シンキング・ラボ」ディレクター。2022年、社会科学分野の優れた教育に贈られるイェール大学レックス・ヒクソン賞を受賞。イェール大学の講義「シンキング」は1年で450名もの学生が受講、イェール大でもっとも人気のある授業のひとつとなり、その学際的なスコープと、専門知識に加えて日常での批判的思考スキルを養成できることが広く称賛された。米国心理学会および米国科学的心理学会フェロー。ハーバード大学、タフツ大学などで学術講義を行い、ニューヨーク・マガジン、ハフポストなどのメディア等々で注目を集めている。
思考の穴とは(その1) 認知心理学からの学び
本書は心理学に関する本であるが、著者の専門は認知心理学である。そこで少し認知心理学を紐解くと、人間が情報処理をする過程で認知活動がどう行われるかを研究する学問で現代心理学の主流である。更に、コンピュータの処理モデルや認知モデルを検証し、人間の意識や感情、感性も含めて研究されていると専門書には書かれてある。この一般的な説明では分かりづらい。本書では、人間の認知(脳での認識、著者はシンキングと書いている)とバイアスの関係を研究している。人間は成長する過程で、無意識のうちにバイアス(「偏向」「先入観」「データの偏り」等)に影響されている。それが認知や思考に大きな影響を及ぼすと書いている。学問的には、アンコンシャス・バイアス(無意識の思考)であったり、確証バイアスであるという。確証バイアスとは、自己の思考や願望にとって都合の良い情報ばかりを集め、逆に考えを否定するような情報を軽視することをいう。多様な情報があっても、最初の思い込みを支持する情報ばかりが目に付く傾向にある。それが結果として人間の思考の原点となっていることを認識する必要があると述べている。いわゆる思考のブラックホールとなっているので、自分自身や他人の思考も含めて冷静に見極めるべきだという。
思考の穴とは(その2) 誰にでもある思考(確証バイアス等)
本書には、先に述べた各種思考(確証バイアス等)=「思考の穴」の事例が種々紹介されているので幾つかご紹介するが、我々の普段の生活でよく“あるある”現象でもある。①何度も見ていると、なぜか「できる」と思ってしまう。②「直観」でテキパキと判断している。③「錯覚」だと分かっているのに錯覚する。④「計画」を甘めに立案するケースがある。⑤本能的に「楽観主義」が組み込まれている。以上は『流暢性効果』と呼ばれ、我々の思考に潜んでいる。その結果、“近親性・やりやすさ・流暢性”等となるが、バイアスを生む遠因ともなっている。次に確証バイアスの範疇に入る事例では、①「自分が正しい」と思える証拠ばかり集めてしまう。②「最初の考え」に固執しているから間違える。③信じたとたん、信じた行動に変わってしまう。④敢えて「リスク」を避けるが、「偶然」に期待する。⑤人は「自分のこと」がとても知りたい。他にも思考の原点は多々あるが、本書の副題にもある「わかっていても間違える全人類のための思考法」である点を考慮して読んでみたい。
思考の穴とは(その3) 本書が注目される理由は?
本書は、イェール大学での伝説的講義「シンキング」を纏めたものである。超優秀な頭脳の学生が理性でカバーしきれない思考の原点に迫り、更に知的武装を学んでいる具体的な講義内容である。それも先に紹介の通り「誰にでもある思考の穴」である。それも見方によれば、我々の“あるある”現象の思考である。そして大学では超人気の高い講義と言われる。その評判の理由は何であろうか。世界最高峰の学生が、論理的思考を更に上げる為に参考にし、チャットGPT等の最新AI(人工知能)に負けない思考を目指しているのであろうか。
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