アイヌ文化を読み解く「ゴールデンカムイ」
(中川 裕著、(株)集英社、2024年1月15日発行、第14刷、254ページ、1,000円+税)
デニマルさん : 5月号
今回取り上げた本は出版物の話題からではなく、映画の評判から本書に到達したのです。これは今までになく初めての変わったアプローチで紹介するので、その経緯について触れてみたい。先ず、本書『アイヌ文化を読み解く「ゴールデンカムイ」』の初版発行は2019年3月20日であるから、今から5年前の出版である。そして筆者は、今年の2月に映画「ゴールデンカムイ」(2024年1月公開、主演は山崎賢人と山田杏奈のダブルキャスト、監督:久保茂昭、主題歌:ACIDMAN「輝けるもの」、配給:東宝)を鑑賞しました。その映画の面白さに心が動き、更に詳しく「ゴールデンカムイ」について調べてみたくなり、本書を探し求めたしだいです。その概要は北海道の開拓史とアイヌ文化の関係に加えて、アイヌ民族の埋蔵金と言われる金塊を巡るスペクタクルな物語であった。この「ゴールデンカムイ」の原作(漫画)については後述しますので後程。その前に、原作が人気漫画で、テレビや映画等がアニメーション(以下は、アニメ)化されて、多くの観客を集めた作品は過去にも多々ある。中でも「ドラえもん」(藤子・F・不二雄著)や「ポケットモンスター」(田尻智クリエータ)や「鬼滅の刃」(吾峠呼世晴著)等々の作品は日本だけでなく世界的に人気があるアニメである。特に、宮崎駿監督作の「千と千尋の神隠し」(2001年)や「君たちはどう生きる」(2024年)はアカデミー賞の長編アニメーション賞の受賞に輝いている。昨年の人気アニメ映画の作品ランクでは、原作が人気漫画であるケースが目立っている。因みに興行収入ランキングでは、1位「THE FIRST SLAM DUNK」、2位「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」、3位「名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)」で、各々100億円超えとある。筆者は、この文章を書きながら“話題の本”のネタが書籍からでなく、漫画や映画等もありかと訝った。それでも“話題の本”の話題は、書籍類から出た方が自然であると頑なに思っている。そろそろ本題の書籍紹介に入ろう。本書は題名の通り「アイヌ文化を読み解く」のが主題で、今まで述べた「ゴールデンカムイ」は副題である。著者は本書を書いた経緯を雑誌インタビューで語っている。「ゴールデンカムイの原稿を読ませてもらって、“これはすごい”というのが一番の感想でした。伝統的なアイヌ文化の装束や道具を正確に描き表しているということばかりでなく、登場場面が非常にかっこよく、また展開がドラマチックで、これは絶対良い作品になると感じて、逆にこちらからぜひ関わらせてほしいとお願いした」と真意を述べている。本書の詳しい内容も後述するので、乞うご期待である。著者の紹介をしよう。1955年横浜市生まれ。1978年東京大学文学部卒業。現在千葉大学文学部教授。専門は言語学、アイヌ語学、アイヌ口承文芸学。1995年第23回金田一京助博士記念賞受賞。2018年「アイヌ語復興への寄与」などにより、文化庁50周年記念表彰授与。週刊『ヤングジャンプ』誌掲載の野田サトル氏の漫画「ゴールデンカムイ」のアイヌ語監修者。著書には「アイヌ語をフィールドワークする」(大修館書店)、「アイヌ語千歳方言辞典」(草風館)、「アイヌの物語世界」(平凡社ライブラリー)、「語り合うことばの力」(岩波書店)など多数ある。
ゴールデンカムイとは 原作「ゴールデンカムイ」(野田サトル著)
先にも触れたが、紹介する本書の原典は「ゴールデンカムイ」(漫画)を題材としている。そこで「ゴールデンカムイ」について少し紹介する必要がある。この本は、漫画雑誌「週刊ヤングジャンプ」(集英社)で2014年8月から2022年4月までの連載で、単行本化(全31巻)されて2700万部(2024年1月時点)も売れた人気漫画である。2018年4月からはテレビアニメ(TOKYO MX/Hulu)で放映され、2024年1月には前述の通り映画化されている。内容は、明治時代末期の北海道を舞台に、金塊を巡るサバイバルバトルのアクション漫画である。時代背景から北海道の開拓史や日露戦争などの時代史の他、狩猟・グルメ要素、アイヌなどの民俗文化の紹介も丁寧に描かれている。色々な要素が盛り込まれていて、「冒険・歴史・文化・狩猟グルメ・ホラー、和風闇鍋ウエスタン」のキャッチコピーが付けられている。物語は主人公の元陸軍兵・杉元佐一が、アイヌの少女・アシリパと共に、埋蔵金の地図が図示された「刺青人皮」(24人の囚人に彫られた刺青)を求めて旅をする。同時に埋蔵金を狙う大日本帝国陸軍第七師団や、戊辰戦争で死んだはずの土方歳三など歴史上の人物も登場し、歴史ロマン、狩猟、グルメ、アイヌ民族文化などさまざまな要素が丁寧に織り込まれている。この波瀾万丈の結末がどうなるか、これは本作を読んでのお楽しみとしたい。この人気漫画は派手なアクションだけでなく、少女・アシリパが語るアイヌの生活・文化を豊富に紹介している。そんな関係もありアイヌ民族博物館でも評価が高い。加えて、「マンガ大賞2016 大賞」(2016年)、「手塚治虫文化賞 マンガ大賞」(2018年)、「第51回日本漫画家協会賞 大賞」(2022年)等の多くの賞を受賞して、出版業界以外でも評判の高い良書である。
ゴールデンカムイとアイヌ 本書「アイヌ文化で読み解く」(中川裕著)
今まで色々と述べてきたのは、本書の前口上である。先にも書いた通り、本書はアイヌ文化を分かり易く紹介したものである。我々の日常生活とアイヌ文化とはチョット距離があり、認知度は低いと思っている。著者は、その点を考慮して我々の身近な話題からアイヌに関する話題を紐解いている。筆者も本書からアイヌ文化に関する認識が少し変わった様に感じる。先ず、アイヌ文化を知るには、アイヌの意味を理解したい。本書では「アイヌとは“人間”を指す言葉である」と云い、それに「カムイ」が加わってアイヌの伝統的な考え方の根幹を成している。因みに、「カムイとは“神”を意味するが、生きている物から人間が関係する家や舟や自然を含む万物が対象である」と書いている。その中でも“熊”は特別な存在で「カムイの中のカムイ」と位置付けている。アイヌの文化で、「イオマンテ」と呼ばれる儀礼は、「熊の霊送り」と訳され格調高く行われるとある。熊が神の如く扱われているが、アイヌは生きる為にその熊を食肉や毛皮等「クマなく利用」している。こうしたアイヌ文化を理解する本として分かり易く書かれてある。アイヌ文化の理解には、金田一京助氏(アイヌ語の研究者)の著書や「熱源(川越宗一著)」(2020年05月号で紹介)もお勧めである。
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