PMプロの知恵コーナー
先号   次号

「エンタテイメント論」(193)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :4月号

エンタテイメント論


第 2 部 エンタテイメント論の本質

7 本質
●日本のベンチャー企業への低い投資流入額
 表記の問題は本稿の187号(2024年3月号)で解説した。

 2021年のベンチャー投資流入額は、1位が米国の3761億ドル(約49兆円)で、2位が中国の611億ドル、3位がインドの477億ドル、日本が11位の35億ドルで、日本より上位の国が英国、独国、仏国、スエーデンなどである。

 日本の事業~産業~経済の発展を牽引する「ベンチャー企業」への日本の投資流入額は、米国の100分1である。日本はベンチャー事業分野で世界の潮流の「蚊帳の外」に置き去りにされた。これでは日本の事業~産業~経済の発展が危うくなる。

●ユニコーン企業数の国際比較
 ベンチャー企業の成功性と発展性を国際比較する場合、最も象徴的且つ具体的な方法の1つは、当該国がユニコーン企業を何社生み出しているかを比較する事である。

出典:ユニコーン(一角獣)
出典:ユニコーン(一角獣)
wikipedia.org/wiki/
出典:ユニコーン企業数の国際比較(2021年)経産省内閣官房資料(令和3年3月)&CB Insights
出典:ユニコーン企業数の国際比較(2021年)
経産省内閣官房資料(令和3年3月)& CB Insights

 ユニコーン企業とは、時価総額が10億ドル(1兆4000億円、1ドル140円換算)を越えた未公開企業を云う。

 日本のユニコーン社の数は米国の100分の1である。日本の投資流入額が米国の100分1である事と呼応している。

 世界でユニコーン企業に成長した企業は、業種、業態、業容など様々である。しかし共通する事は、新しい事業の「夢」を持ち、「優れた発想(アイデア)」をした事である。此の優れた発想を特許化し、それを武器に事業化に挑戦し、失敗に挫けず、成功させた事である。更にその成功に国や民間から多くの事業資金が投下(流入)された結果、更なる成功を積み重ね、拡大・発展した事である。まさに「成功連鎖反応」に依ってユニコーン事業が生まれた。従って米国の成功連鎖反応力は日本の100倍と云う事である。

●日本と米国の上位10大学の特許取得数と特許に依る収入額の比較
 日米で「優れた発想」がどれだけ生み出されているか? 生み出された発想がどれだけ「富」を生み出しているか? この国際比較をする方法はイロイロある。分り易い比較方法の1つとして内閣府の資料を基に日経が行った日米の上位10大学での実例を紹介する。

出典:日米の上位10大学による特許数と特許に依る収入の比較
出典:日米の上位10大学による特許数と特許に依る収入の比較
内閣府資料 & nikkei.com/article

 日米の上位10大学の特許取得数は、日米格差で2倍以下に拘わらず、特許から得た収入は、50倍以上の格差になっている。日本の上位10大学は、研究成果を出すが、収入成果を殆ど出していない。これでは更なる新たな研究に繋がらない。他の大学も殆ど同じ実態の様である。
  1. 1 日本の大学で「起業支援プログラム」があるのは全体の8%。実態は無いに等しい。
  2. 2 日本の大学で「弁理士の配置」があるのは全体の5%。実態は無いに等しい。
  3. 3 日本の大学で「スタートアップ支援ファンド」があるのは全体の3%。実態は無いに等しい。

●特許数と特許収入額の低い原因
 多くの学者や評論家達は、この問題を惹き起した原因が特許内容を事業化する専門組織、専門人材、事業支援資金が「少ない」からだと指摘する。この指摘は正確でなく、危機意識も感じられない。「少ない」のではなく、実態は「皆無」である。筆者が約30年前から主張し続けてきた日本が直面した「構造的危機」が齎した結果である。

 そもそも日本の大学も、官庁も、国も「優れた発想(アイデア)」と「優れた発想の実現化と成功化」の必要性と重要性を声高に主張する。しかし「実行動」を伴っていない。その結果、優れたアイデア、研究成果、特許などは、陽の目を見ず、忘れられ、消え去っている。

出典:記憶から消え、捨てられる。
出典:記憶から消え、捨てられる。
出典:記憶から消え、捨てられる。
bing.com/images/searc
view=illust.com=detai.illust-box0

 以上の事は民間企業ではどうか? 社長以下の全階層で「優れた発想」を「本心、本気、本音」で求め、「発想の実現化と成功化」の為に「汗と涙と血」を流す実行動をしているか?

 研究成果や特許内容を事業化する事に苦悩し、苦戦している教授達が所属する大学には、多くの場合、「経営学部」が存在する。ならば苦悩し、苦戦中の教授達を経営学部の教授達は事業経営の観点から支援指導できるはずだ。しかし誰も支援してない様である。と同時に支援すべきであると主張する世の中の学者や評論家もいない。

 誰も支援しない理由は何か? 自説の経営理論は主張するが、経営・業務の支援指導には自信がない為ではないか。しかし自信がある教授達でも既存事業分野の運営実務経験だけではベンチャー企業の支援指導ができるだろうか? 新規事業分野の新事業プロジェクトを成功させるには、例えば、夢工学が説く「夢・成功一貫達成」の実務経験が必要ではないか。

 本稿で既に説明した通り、日本の著名な経営コンサルタント会社のプロ経営コンサルタントで「夢・成功一貫達成」を成し遂げた人物は、全体の10~20%に過ぎない。言い換えれば、経営・業務のアマチャー・コンサルばかりと云う事になる。この事を多くの企業人(社長&社員)が知らない事も大問題である。

 暗い話が続き、残念であるが、更なる暗い実例は「文科省の予算」である。同省は大学の研究現場に毎年数千億円の助成を実施している。しかし事業化には毎年たったの200億円程度の助成しかしていない。日本の多くの政治家、官僚達、そして多くの国民まで「研究」に関して思い違いしている事がある。其れは「研究成果を出しても、事業成果がZEROなら研究成果もZERO」と云う事である。兎にも角にも、事業化の予算を数十倍に増額させる事である。

●日本と中国と米国の研究開発費の比較
 更に更なる暗い話の実例は「日本の研究開発予算」である。以下に日本、中国、米国の3つの国の研究開発予算(2022年)の比較を概説する。

日本
中国
米国
 日本の研究開発予算は4兆円、中国は39兆円(1.8兆人民元=約2800億米ドル=1$140円換算)、米国は70兆円(5000億米ドル)である。

 中国の研究開発予算は中央政府と地方政府の予算で構成されている。国家自然科学基金委員会(NSFC)、国家重点研発計画(国家重点研究開発計画)などの機関が研究開発に資金を提供する。中国は常に米国を意識し、イノベーション投資を活発化させ、特に次世代人工知能(AI)、宇宙開発、半導体などの先端分野の研究に力を注いでいる。

 米国の研究開発予算は連邦政府と州政府の予算で構成されている。国立衛生研究所(NIH)、国立科学財団(NSF)、国防高等研究計画局(DARPA)、エネルギー省(DOE)などの機関が研究開発に資金を提供する。米国は世界の知能を集め、世界最先端の技術に挑戦している。筆者が米国で最も注目する技術の1つは「核融合技術」である。この技術は人類が最も期待すべき技術となるからだ。幸いな事に日本も挑戦している技術である。

 日本の研究開発の予算は米国の6%に満たない。中国の10%である。絶望的な数値である。この事を何人の日本国民は知っているのか? さて日本、中国、米国の比較で気になる事が中国の事。イロイロがあるが、中でも中国の経済実態と其れを表す政府の公表数値の事である。

●中国の経済実態
 筆者が勝手に作った方程式を見て欲しい。共産党一党支配主義×毛沢東思想回帰主義×終身独裁主義=習近平国家支配主義

 この方程式は、中国全土に浸透中しつつ、香港支配を実現させ、次は台湾支配に向かわせている。更に習近平の経済・財政・金融音痴と相俟って、数年前から発生した「不良債権」の問題の解決を放置させ、中国のGDPの30%を占める不動産事業分野で膨大な不良債権を発生させ、深刻な不動産不況を齎せた事である。不動産大手の「恒大グループ」だけで50兆円の不良債権を抱える。日本もバブル崩壊時、100兆円の不良債権を抱え、日本のGDPの20%に相当した。日本はこの解決に長い年月を要した。

 中国の不良債権は、民間企業だけでなく、地方政府の子会社に相当する第3セクターが抱える不良債権も存在する。これ等を合算する3000兆円の不良債権となる。その数値は中国のGDPの200%に相当。この様な膨大な不良債権は世界の経済史に存在しない。

 同方程式は中国の経済をお先真っ暗な状況に落とし込んだ。中国は超膨大な不良債権の解決に極めて長い年月を要する。しかも壊滅的な傷を負った中国の経済そのものを立ち直すには更に長い年月が必要であろう。

 反論や抵抗を一切許さない独裁者・習近平は、中国の経済・財政・金融の運営を誤る危険性を強く持つ。もし誤れば「国家破綻」を招くだろう。世界の多くの学者、識者などが警告してしている事である。中国が抱えるこれ等の問題を知る米国の民間企業は、中国から続々と撤退中。しかし何故か、日本の企業の撤退は遅い。

●中国・国家統計局の発表数値
 「中国国家統計局」は今迄数多くの数値を発表してきた。しかし全く信用できないと世界の学者、識者などが主張している。何故か? 同局が時の支配者、現在は習近平に忖度する為である。一方日本の左巻きで親中派が闊歩する日本の多くのメディアは、以下の通り、中国の実態をキチンと伝えない。その結果、多くの日本人は中国の生の実態を知らない。

 信用できない数値はイロイロある。その中の1つが「中国のGDPの数値」、もう1つが「失業率の数値」である。この両者は密接な関係にある。

 「中国のGDPの数値」は世界中の様々な学者によって分析・研究され、インチキであると指摘されている。中でも宇宙空間から撮影された中国全土の「夜の明かり」を測定して中国の経済活動を分析・研究した極めてユニークな学者が現れた。下記の「夜の写真」を暫し見て欲しい。

出典:宇宙空間から見た中国、北朝鮮、韓国、台湾、日本などの夜の全体写真
出典:宇宙空間から見た中国、北朝鮮、韓国、台湾、日本などの夜の全体写真
bing.com/images/search=detail=blogspot.com-selectedIndex

 掲載した夜の写真で一番最初に目に付くのは、沖縄諸島まで含めた日本列島が際立って鮮明に見えることだ。次に隣国の韓国もくっきり浮かび上っている。しかし北朝鮮は真っ黒である。台湾も鮮明に見える。中国は上海など海側に近い地域が明るいが、内陸に向かう程、暗くなる。注目すべき事は経済発展が著しいインド全土がくっきり見える事である。インドは10年以内にドイツを抜いて世界第3のGDPの国になる予測論が多い。此の事は「夜の明かり論」からも分かる。

 中国の事は、「夜の明かり論」を含め、多くの分析・研究の結果、中国国家統計局のGDP予測には「30%インチキとする説」から「60%インチキとする説」まである。なお日本が発表するGDPは、「夜の明かり論」の分析・研究の結果、「100%正確」と証明されている。

 次に「中国の失業率の数値」も世界中の様々な学者が分析・研究中。中国国家統計局は、中国のゼロコロナ政策などの影響で都市部の16歳から24歳の「若者の失業率」は17.6%(2022年)、前年より3.3ポイント悪化と発表した(6人に1人が無職)。

 同局はこの事を発表した後、「失業率」の発表を突然止めた。中国の将来を支える若者達は、彼等の描く「夢と希望」の実現に深い関連性を持つ「失業率」、即ち「就職率」に強い関心を持つ。しかし同局は若者達の気持ちを踏みにじった。一方習近平の気持ちを忖度した。

 中国のGDP数値は30%~60%インチキ。中を取って50%インチキと仮定すると、中国の研究開発予算の数値は半分インチキとなる。それでも日本の研究開発予算は中国の20%となる。

 「今のまま」では日本の研究開発の将来がヤバイ。日本の企業も、大学も、官庁も、国も、「優れた発想」を「本心、本気、本音」で追求し、「発想の実現化と成功化」の為に「汗と涙と血」を流す「実行動」をする事である。そして「ベンチャー企業への投資流入額」を増やす事である。
つづく

ページトップに戻る