グローバルフォーラム
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「グローバルPMへの窓」(第177回)
ODA研修統括講師任期を終える

グローバルPMアナリスト  田中 弘 [プロフィール] :3月号

 研修を行なう縁で、元JAXA理事 長谷川義幸氏と協働の機会を得た。長谷川さんは著名人で、PMAJでも数多くの名講演を聞かせていただいたが、これまでは日本語の講演であった。今年度最後の研修となった一般財団法人 海外産業人材育成協会(AOTS)の2週間グローバル研修の最後の方の一日を長谷川さんに講師をお願いし、午前のレクチャーと午後のJAXA筑波宇宙センター見学の講師をお願いした。もちろん英語での講義であるが、大変上手で研修生から高い評価をいただいた。長谷川さんの専門性の高さはさておき、英語の質が高く、講演のピッチが安定しており臨場感がある、日本有数のプログラムマネジャーの風格が滲みでている。
 
 筆者が長谷川さんに託したことは1)研修生に、日本を代表する本物のプロジェクトマネジャーからインスピレーションを与えていただく、2)ISS(国際宇宙ステーション)という多国籍プログラムを日本側からどのように纏めたのかを教えてもらう、3)宇宙開発プロジェクトは我々の生活の向上とどのように結びついているのかを教えもらう、ということであったが、すべて叶えていただいた。長谷川さんとは、講演内容の詰めや、つくばセンターの下見などを行いながら、氏のエンジニア、プログラムマネジャーの本質を理解できるように努めた。
 
JAXAつくば宇宙センター展示館「きぼう」模型前にて長谷川先生(前列左から2人目)と研修生
JAXAつくば宇宙センター展示館「きぼう」模型前にて長谷川先生(前列左から2人目)と研修生
 
 上記のAOTS PPTP研修は、私の15年間に及んだODA(政府開発援助)研修コースディレクターとしての最後の舞台となった。この研修の井戸を掘った鮫島千尋先輩やPMAJ担当として、共に苦労をしてき古園豊氏、歴代の講師の皆様に感謝あるのみです。
 
 PPTP2023研修は、定員20名に対して105名の応募があり、5倍の競争率から選考された14ヵ国25名の研修生が参加して1月17日から30日まで実施され、コース総合満足度4.75(95点)で無事終えることができた。研修環境は決して一定ではなく、今回の研修で次のようなトレンドを認識できた。
 
  1. 1) 製造業からの参加者が24名中16名と過半数となった。彼らは生産活動、工場建設や新製品開発に従事するのではなく、経営者で、経済の急速な動きに対応した市場の開拓に資するために会社の体制をどのように整えたらよいかを念頭に研修に参加した。概論では、彼らのニーズにぎりぎり答えられるが、各論では、各業種のビジネス形態がわからないと対応できない。このことは研修実施を難しくしており、参加者に、自分のニーズを抽象化して講師や研修者同僚に伝える力があればよいが、そうでないと、講師との会話が成り立たなくなる。
  2. 2) 講師側のレンズを通してみると、プロジェクトらしいプロジェクトでプロジェクトマネジメント経験があるのは5名のみである。「プロジェクトマネジメントの失敗の頻度の最も高い原因は何か?」という5択の問題では、PMのプロはほぼ100%が、あるいはPM研修に来る研修生の90%が正解である「プロジェクト定義欠如・不足とそれに伴う不正確なプロジェクトスケジュール設定」を選ぶが、今回は正答は2名のみであった。
  3. 3) 全員部下がいる管理職者(CEOや副社長などシニアマネジメントであるが、研修にはほぼ問題なくキャッチアップできた。各セッションのグループ演習や一日ワークショップでは正答率が極めて高く平均90%以上のできであった。ただし、強いリーダーに誘導されて良い提案がでたとも言える。
  4. 4) チームビルディング力が非常に高かった。最初のセッションの演習から、各チームの協働力は素晴らしかった。強いリーダー達のファシリテーションが良かった。
  5. 5) 各セッションへの関心では、リーダーシップ論、アジャイルアプローチ、創造性を問う終日ワークショップが高かったし、良い評価がでた。通常のプロジェクトマネジャーの研修は苦手にする科目であり、興味深い。
  6. 6) 研修期間中の研修生とのコミュニケーションは、電子メールとWhatsApp(Lineのような国際版チャットSNS)を併用したが、後者のメッセージ量はすさまじく、一日100件くらいがアップされ、シェアされるスナップショットは合計千枚を超えた。
 
 総じて、聡明で決断力が高い参加者達に恵まれ、また参加者は人格者でポンコツの筆者にやさしく最終章を飾るにふさわしい楽しい研修であり、また。あたらしい時代の研修が必要であることを実感しているが、研修を実施する講師が受講者を選択できない環境では、また、参加申請やプレトレーニング・レポートでは判断できないような各研修参加者の実際のプロジェクトマネジメント知識レベルを把握できない状態では、ODA研修はまさにプロジェクトそのもので、ポケットを多く持ち、リスクマネジメントを駆使することが重要であると切に感じる。
 
修業式でメキシコの研修生と我が若き日の愛唱歌Mexico Lindoを歌う
修業式でメキシコの研修生と我が若き日の愛唱歌Mexico Lindoを歌う
 
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