グローバルフォーラム
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「グローバルPMへの窓」(第176回)
グローバル研修を追い続けて

グローバルPMアナリスト  田中 弘 [プロフィール] :1月号

 コラムの新年号では、本年の抱負を述べることが多いが、筆者はその任にあらず。ロシアとウクライナの戦争は膠着状況となり、筆者が一昨年P2Mクラブ・ワークショップの話題提供で述べた、この戦争は10年は続くかもしれない、という予想も、あながち誇張ではないかもしれない。
 
 ロ・ウ戦争に、イスラエルとハマスの紛争が加わって、世界への石油・天然ガス供給の隘路が見えているが、日本が頼るサウジアラビアやカタールでは、中国や韓国の国対国のパッケージ・ディールによる存在感が大きくなり、明日の日本を考えると大変な懸念事項である。日本は何ができるのか?決しておめでたい新年ではない。
 
 かつて北陸先端科学技術大学院大学の東京キャンパスで社会人学生向けの科目を教えていたが、演習で一つのグループが家族合計年収300万円で暮らせる方式を提案した。筆者が永年タイムシェアリング教員を務めていたフランスの大学院大学で、Wellbeingの研究がPM博士研究の一部となっていると知ったが、いかにサバイバルを図るかが現実的な課題となっている。
 
 振り返って2023年は。グローバル研修を合計10回実施し、これは22年までの40%増くらいであるが、よく、こなせたものだと自分でも思っている。グローバル研修をやるには、実際の研修を行なう時間の最低5倍、戦略的な研修はそれ以上の準備が必要だ。体力的に限界に達しているので、今年は、稼働日数を減らすことを関係先と協議中である。ただし、研修のテクニックは自分の年齢と関係なく上がるので、投手でいえば「4コーナーぎりぎりを140キロ程度の球で突き、切れを重視する」ことをしている。
 
 そのような中で、23年に一番刺激的でチャレンジングであったのは、2月のアフリカのフランス語圏向けに実施したフランス語でのオンライン研修、4月のケニア電力公社向け来日研修、そして10月に実施したインド自動車産業向けの「製造業のプロジェクトマネジメント」オンライン研修で、いずれも、この地域向けはここまでと決めたのに、また呼びに来た例である。インドでは、一昨年引退宣言をした大会で、結局昨年(23年12月)もビデオであるが招待講演を行った。その演題は“Balanced Knowledge-based Project Management”。 要するに筆者は乗せられやすい。
 
 今年もチャレンジが続く。筆者が教えるPMは決してPMの基礎を外れない。DX、チェンジマネジメント、グリーン経済++、現象を説くのはPM実践家の仕事ではない。PMは新トレンドに対して何ができるかを説けないといけない。
 
 この一年、グローバル研修を続けてきて改めて感じたことは、世界全域の発展途上国で、研修生の英語力が飛躍的に上がっていて、マネジメントの基礎をマスターしており、また時間の観念が大きく改善していることだ。最近東京で開催のASEAN友好協力50周年特別首脳会議では、東南アジアの首脳から我が国首相が、「日本は何ができるのか」と詰め寄られるシーンもあったと報道されている。日本の栄光の残余期間は最早ほとんどなくなっている。国は成長を止めるとどうなるか。南米のアルゼンチンは戦前世界でトップ10を誇る豊かな国であったが、今は存亡の危機に立っている。
 
 世界を渡り歩いて自分の存在感を確認してきた筆者であるが、コロナ禍の間に膝の持久力が落ちて、コロナが5類に移行しても、再び海外へということはできない。そのような中で、嬉しいことは、かつて強い思いを寄せた国々の石油公社の方から日本での筆者の研修に来てくれることで、例えば世界の産業全体で第2位の企業サウジアラムコからの管理職者達が、筆者のかつての所属企業の名声と研修コースでの筆者の研修パフォーマンスの口伝で常に参加してくれること、同じように筆者がそもそもエンジニアリング会社就職を望んだ理由に関連するペルー石油公社から常にシニアクラスのプロジェクトマネジャーが参加してくれて、スペイン語を交えて盛り上がることができること、など。
 
 今年の研修の始まりは17日から2週間の一財海外産業人材育成協会のPPTPのコードネームを有するグローバル研修で、20名の定員に対して約5倍の応募があった。途上国の主流である製造業ではPM待ったなしの状態になっている。
 
 番外であるが、元教員として感心したことは、慶應義塾大学堀井哲也監督である。東京6大学野球の慶應の春季リーグは昨年の4年生の主力が投打共に抜けて、どうやって勝てるのかという状況であったが、夏を越えて迎えた秋季リーグでは完全優勝、2年生エースの外丸投手は6勝全勝、打線はチーム打率0.298と第2位以下に4分以上の差をつけた。そして続く明治神宮野球大会の大学の部でも、ドラ1投手を打ち崩して優勝した。ここでも外丸投手は2完封した。伸び盛りの学生の潜在能力もあろうが、どうみても堀井監督の指導力の賜物であろう。
 
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