図書紹介
先号   次号

シニアエコノミー  「老後不安」を乗り越える
(大前 研一著、小学館新書、2023年10月7日発行、第1刷、204ページ、900円+税)

デニマルさん : 3月号

今回紹介する本は、今現在それ程話題になってはいない。しかし、筆者は著者の大前氏の動向に関心があるので本書を取り上げてみました。紐解けば、雑誌ジャーナルの原稿を書き始める以前から氏の著書を継続的に読んでいた。過去の読書記録によると「企業参謀」(ダイヤモンド社、1975年発行)が最初の著者との出会いであった。思えばサラリーマンとなってマネジメントや経営に関心を持ち始めた頃からで約半世紀前からである。当時は経営コンサルタントが職業として黎明期であり、大前氏はマッキンゼー日本支社の社長で多方面に活躍していた。そんな関係から著者の動向に注目していた。このジャーナルがオンライン化する以前に「考える技術」(講談社、2004年11月発行)で、「知の衰退からいかに脱出するか?」(光文社、2009年2月発行)は2009年5月号に掲載させて頂いた。さてプロフィールをご紹介すると『「ボーダレス経済学と地域国家論」提唱者。マッキンゼー時代にはウォールストリート・ジャーナル紙のコントリビューティング・エディターとして、また、ハーバード・ビジネスレビュー誌では経済のボーダレス化に伴う企業の国際化の問題、都市の発展を中心として拡がっていく新しい地域国家の概念などについて継続的に論文を発表していた。この功績により1987年にイタリア大統領よりピオマンズ賞を、1995年にはアメリカのノートルダム大学で名誉法学博士号を授与された。(中略)2005年、「The Next Global Stage」がWharton School Publishingから出版された。本著は、発売当初から評判をよび、既に13ヶ国語以上の国で翻訳されベストセラーとなっている。経営コンサルタントとしても各国で活躍しながら、日本の疲弊した政治システムの改革と真の生活者主権国家実現のために、新しい提案・コンセプトを提供し続けている。経営や経済に関する多くの著書が世界各地で読まれている。』(大前研一のオフィシャルウエブから)とある。その著者が最新作として、今回紹介の本を出された。宣伝のオビ文には「超高齢社会を活性化させる“逆転の発想法”」としての「シニアエコノミー」とある。現在、高齢者が直面している「人生100年時代」と「老後の不安」の対処策を多面的に纏められ、高齢者以外にもお勧めの本である。著者の略歴は、1943年生れの福岡県出身。日本の経営コンサルタント、起業家。マサチューセッツ工科大学博士。マッキンゼー日本支社長を経て、カリフォルニア大学ロサンゼルス校公共政策大学院教授やスタンフォード大学経営大学院客員教授を歴任。現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長、韓国梨花女子大学国際大学院名誉教授、高麗大学名誉客員教授、(株)大前・アンド・アソシエーツ創業者兼取締役、(株)ビジネス・ブレークスルー代表取締役社長等を務める。「ボーダレス経済学と地域国家論」提唱者。著書は「企業参謀」他多数。

「衰え続ける日本」を考える        超高齢社会の「逆転の発想」を提言
本書の冒頭に「衰え続ける日本」の深刻な事例が列挙されてある。先ずバブル崩壊後の「失われた30年」以降の経済停滞と同時並行的に進む超高齢化及び少子化による国力の低下が現実化している点を指摘している。IMF(国際通貨基金)の統計では、2022年の名目GDPの国別ランキングで、1位アメリカ(25.5兆ドル)、2位中国(18.1兆ドル)、3位日本(4.2兆ドル)、4位ドイツ(4.1兆ドル)、5位インド(3.4兆ドル)である。日本とドイツの差は、僅か1,000億ドルで、5位のインドとは8,000億ドルである。ここ数年でインドにも追いつかれ世界5位の経済国に後退する状況にある。更に、日本の人口出生数が80万人を割り、出生率が1.26であると公表された。この数値は、現人口を維持するに必要な2.06を大幅に下回っている。加えて超高齢社会で、総人口(1.2億人)の65歳以上の高齢者の占める比率が28.6%の3,620万人と世界一の高齢化率が現状の日本である。以上から10年、50年先の日本を想像するのも恐ろしく暗澹たる気持ちになる。しかし、著者はこの本で“逆転の発想”があると、コンサルテーションをする様に具体的に細かに分かり易く書いている。以上の超高齢社会の日本の問題点は、日本だけでなく世界各国でもいずれ同じ様な問題に直面する可能性のある課題である。そこで日本が上記の問題を具体的に解決する方策を示せれば、大きな指針となる。即ち、日本は世界に先駆けた課題先進国となる可能性がある。
世界の高齢化率を例に見ると、1位日本(28.6)、2位ドイツ(22.0)、3位フランス(21.0)と続くが、韓国(15.8)や中国(12.6)でも高齢化と少子化問題が問題視されていると言う。

増え続ける高齢者をターゲット       シニアエコノミーをビジネス化
現在の超高齢化と少子化で衰退する日本を少し冷静に内容分析すると、多少将来を見通せる解決方法がある。それは増え続ける高齢者を日本衰退の元凶の様に見ず、もっと活用の可能性を考察する必要がある。現状では超高齢化の進行で、国家予算の医療・介護や年金等を含む社会保障費は増加の一途である。そこで高齢者の老後の生活から通院・介護・終末期等を含む各プロセスをシニアエコノミーのマーケットと捉えてビジネス化を積極的に進めることを著者は書いている。その重要な着眼点は、日本の個人金融資産は2000兆円以上に達し、その6割超を60歳以上が保有(総務省「家計調査報告」)していると言われる。金額にして約1200兆円である。そのお金は超低金利の銀行預金かタンス預金で眠っているのが現状である。そこで眠っているお金を活性化させれば必然的に金融市場に流れ出て、停滞した日本経済の起爆剤となる。現在の医療や介護、葬儀・埋葬等のビジネスは確立されているが、健康で活動可能は高齢者向けのマーケットで未開の「空白地帯」があるという。具体的には、「老後でも自由に使えるお金を持った」シニアーグループ(60歳から80歳代)の高齢層に着目し、著者は“アクテイブシニアー高齢者”と位置付け、現在のケアシニアー高齢者とは分けている。この高齢層は元気で時間とお金を持った有望なマーケット対象となると著者は指摘する。その解決策が「シニアを駆動力とする成長戦略」と具体策を書いている。この具体策が実現出来れば、高齢者だけなく40代、50代の現役層の人も老後の不安が解消されることになる。この超高齢社会での“逆転の発想”の実現化を本書から、多くの論議が成されることを期待したい。異次元の解決策と云う政府案と対比しながら本書を読んでみたい。

ページトップに戻る