「第290回例会」報告
例会部会長 枝窪 肇 : 2月号
【データ】
開催日時: |
2023年12月22日(金) 19:00~20:30 |
テーマ: |
個人の感性に即したAIによる自動作曲とその応用 |
講師: |
大谷 紀子 氏/東京都市大学 メディア情報学部 教授 |
~はじめに~
ChatGPTに代表される生成AIが広く利用される時代になり、AIはますます我われの生活から切っても切れない存在になってきています。
今回の例会では、大規模なシステム・蓄積データではなく、小規模なシステム・よりコンパクトなインプット情報から個人の感性に即した作曲をAIに自動で行わせる研究を続けていらっしゃる大谷先生に、研究内容と今後の可能性についてご講演をいただきました。
~講演概要~
- ■ 進化計算アルゴリズム
制約条件を満たしながら目的を達成するための最適解を求める方法の一つに、進化計算アルゴリズムを用いる方法がある。その代表例に遺伝的アルゴリズムというものがある。簡単に言うと、生物の進化を模倣した最適解探索アルゴリズムであり、環境に適用できる遺伝子を残すために繰り返される交叉(突然変異を含む)の仕組みを用いている。現実的な時間内で最適解を探すため、必ずしも最適解が得られる保証はないが、準最適解の導出が可能である。
進化計算アルゴリズムの応用例 :
- SYMBOL MAKER/ユーザ好みのシンボルマークの一覧を出力
- 工業製品設計/新幹線N700系の頭部形状の設計
- 自動作曲/音楽理論と聴者の感性で特定の個人が良いと感じる曲を作曲
- ■ 自動作曲システム
(2017年のNHK「おはよう日本」の生放送で「銀河鉄道999」「どんなときも。」「ラジオ体操第一」の3曲を元に自動作曲した楽曲を披露)
どことなくラジオ体操感が出ている気がすると思われたのではないでしょうか。
(大学の学園祭イベント「想い出曲創作」を神奈川新聞が取り上げてくださった際に、応募者の思い出の3曲「別れのブルース」「星の流れに」「リンゴの唄」から自動作曲した楽曲「よあけまえ」を披露)
応募者にこの曲をCDに録音してプレゼントしたところ、1週間後にお手紙をいただき、繰り返し聞いている、思い出の言葉をつないで黙読しながらこの曲を聴くことで想い出にふけっているとのお言葉をいただいた。また、後日お電話でお話ししたときには、この曲のおかげで夫婦喧嘩が減ったとのご報告もいただいた。このことから、この自動作曲が社会貢献にも役立つと思う事例となった。
自動作曲システムの活用方法 :
- 自分のディジタルコンテンツに付与する著作権フリーの楽曲の生成
- 自分の感性に合う楽曲の生成
- 使途・イメージを指定された楽曲生成依頼へのアーティスト支援
- ■ アーティストとのコラボによる楽曲制作
(赤い羽根共同募金運動70周年記念応援ソングを作ってほしいという、社会福祉法人 奈良県共同募金会からの依頼に、ワライナキさんとコラボして制作した応援ソング「akaihane」を披露)
ワライナキのボーカル高田志麻さんからは「自分たちでは思いつかないようなメロディ」という感想をいただいたのに対し、ワライナキファンからは「ワライナキらしい」との感想が寄せられた。また、楽曲を実際に募金活動時に利用(akaihaneを流しながら募金の呼びかけを)したところ、児童数はほとんど変わらない中で、前年の約2.8倍の募金額が集まるという結果となった。
その他、「AIとぼく」制作、洗足学園音楽大学生とのコラボ、PUFFYとのAI子守歌プロジェクトでの成果を紹介した。
- ■ サウンドロゴ制作
サウンドロゴとは、企業名や商品名などをメロディや音声、効果音で表すコーポレートサウンドである。
フコク生命100周年プロジェクトで社員みんなの気持ちを込めたコーポレートサウンドを制作するということで、自動作曲システムの技術を応用したサウンドロゴを自動生成する手法を提案した。
制作手順 :
- 社員みんなに気持ちを込めて「フコク生命」と歌っていただく
- それを楽譜化してシステムに入力
- 特徴を学習してメロディを作る
- 出来上がったメロディに人間のアレンジャーがアレンジをして完成
1週間で集めた160の音声データから長調×3と短調×2の計5つのサウンドロゴを生成し、記念事業メンバーに選考していただいた。その結果、短調のうちの一つが最適となった。ちなみに、部外者に同様の評価をしていただいた結果は、短調には票が入らず長調の3つに票が集まった。
この活動の付加的効果として、社員の満足度向上と社内活性化への効果が確認できた。 |
- ■ 日常生活のルーチンワークへの応用
コーヒー抽出は知識や経験が必要なため、難しく面倒な作業である。
音楽には感情の誘導、運動効果、脳の活性化などの効果がある。
コーヒー抽出の知識や経験の有無にかかわらず、愉しみながら美味しいコーヒーを抽出できるようにするため、コーヒー抽出時に流す楽曲の自動生成をすることを考えた。
コーヒーソムリエの抽出の様子と素人の手順を比較し、ポイント解析を行い、うまく抽出するための所作とそれぞれにかける時間の長さを特定した。それぞれの所作で楽器の音を変えるなどして、コーヒー抽出のための楽曲を数種類作成した。また、元にする楽曲にはコーヒーに関連する音楽を選定した。
音楽に合わせて抽出したコーヒーは音楽を使わなかったときと比べておいしいという評価結果を得た。
こうした取り組みは、インターバルウォーキング、はみがき、インスタントのカップスープ作りなどにも応用できると考え、現在研究を進めている。
~筆者所感~
今回の講演では、自動作曲で実際に作られた楽曲を色々と聞かせていただく中で、個人の趣味・し好にマッチする楽曲が実際にAIによって作曲されているということと、それらが、聴く人の感情を落ち着かせるなどの効果を生んでいるということを理解できました。
また、サウンドロゴの制作や、日常のルーチンワークへの応用など、このAI自動作曲システムの将来性について伺い、非常にワクワクした気分になりました。
例会という機会を通じて貴重なお話しと楽曲をお聞かせいただけたことに、心より感謝を申し上げます。
ご講演の資料は協会ホームページの「ジャーナルPMAJライブラリ」の月例会開催資料にアップロードしていますので、個人会員の方はダウンロードして閲覧いただければと思います。
なお、我われと共に部会運営メンバーとなるKP(キーパーソン)を募集しています。ご興味をお持ちの方は、日本プロジェクトマネジメント協会までご連絡下さい。
以上
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