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【令和時代に実行すべき課題と覚悟~デジタル・イノベイター①~】

P2M研究会 芝 安曇 : 2月号

第4章 デル・コンピュータ
◎価値連鎖の逆転という戦術

▼1)変化の名手
  1. ① 1984年にマイケル・デルが設立したデル・コンピュータ・コーポレーションは、エンドユーザーの要求に応じてデザイン、カスタマイズされたコンピュータ・システムや製品を提供する世界最大の直販メーカーである。同社は顧客を選択する上で大小の企業、政府機関、学校、そして消費者市場に重点を置いている。今日、デルの全製品の半分近くはインターネット経由で購入されている。
  2. ② デルがこの業界で成し遂げた財務実績は驚異的である。
    株式公開から2年後の88年、デルの評価は10億ドルだった。その後3年後には20億ドルとなり、更に5年後の96年に40億ドル拡大した(コンパックの半分)。
    そして99年には価値が100憶ドルを越えた(コンパックの2倍以上)。

  3. ③ デルはどんな企業よりも戦略的な変化のパターンを上手く活かしている。
    優れたビジネス・モデルを構築し(直版)、それをリインベントし(受注生産)、96年には従来型の企業からDBD企業へと変化した。

  4. ④ デルは、実質的にあらゆるプロセスー販売、マーケティング、外部調達、製造、サービスなどーをデジタル化することで、
    1. ⅰ)自社の顧客に対する強力なバリュー・プロポジションを開発し、
    2. ⅱ)本質的にプロフィ・ゾーン(企業に高い利益をもたらす経済活動領域)でなくなった業界においても機能する価値獲得メカニズムを作り出した。
    3. ⅲ)本章では、デルがいかにして、そのユニークなビジネス・モデルを生み出し、リインベントしたかを探り、困難さが付きまとうであろう将来において、デルが直面する戦略上の選択肢について考察する。

▼2)デルの事業課題
 デルが直面する中心的な事業課題は
  1. a.非プロヒット・ゾーンでいかに利益を上げるかということである。デルの創業以来、パソコン事業は絶えず進化するテクノロジーを基礎とする、ほとんど差のないコモデイテイ化(日常的に使われる製品に差別性がなくなり、価格のみが競争の基準になること)した製品を販売する競争企業でひしめき合っている。その結果、売れ残った在庫は忽ち価値を失い、利益率に壊滅的な影響を及ぼす。こうした環境下では、利益を上げることは極めて難しい。

  2. b.今日、自動車や家庭用電化製品から家具、事務用機器、計測器に至るまで、多くのメーカーが同様のジレンマに直面している。どの企業も、価値連鎖の階段の過多、値引きの過多、需要予測の過多など、利益を消してしまう共通した一連の特性を持っている。デルの物語は、直販モデルに始まってDBDへと見事に移行する一連のリインベンションによって、一に企業が如何にこのジレンマを解決してきたかを描いている。

▼3)ダイレクト・モデル
  • デルは当初から、自社でダイレクト・モデルと呼ぶもの――中間業者を介さずに顧客にパソコンを販売することを基礎としてきた。
    IBMパソコンのコピーを製造する業界に大半の企業と同様、デルもその製造プロセスの大部分をアウトソースし、外部のサプライヤーがデルに向けて製造した部品を用いて、コンピュータの最終組み立てだけを行っていた。
    だが、1980年代末から90年代初めにかけて、北米のパソコン市場が成長し、成熟すると、デルのダイレクト・モデルは、ほとんどの競合企業より有利な点をいくつか持つことになった。

  • 顧客と直接結びついていたため、デルは製品、サービス、競合企業に関するリアルタイムのフィードバックを得ていた。デジタル化以前、このフィードバックは主に電話によるものだっだ(87年時で顧客からの電話は1日1400本以上によるもので、顧客からのしかし有利な条件で部品構成を図っていた。(本件は詳細な内容がかかれていたが、有利な構成、有利な規格等が含まれていた。(詳細は本から読み取ってください)

▼4―1)失敗から学ぶビジネス・モデルの進化
  • 成功企業を後から考察すると、CEOの頭の中から優れたビジネス・モデルが完全な状態で現れたと想像しがちだ。しかし、そのようなことはなく、デルの場合も例外ではない。同社の歴史には、会社をつぶしかねない、大きな過ちもいくつかあった。だが、デルはそれぞれの過ちを、自社の中核的なビジネス・モデルについて学び、手を加え、再び全力を傾ける機会とし、あやまちを犯すたびに、強くなっていった。

▼4―2)オリンピックの教訓
1980年代末、デルは「オリンピック」という社内コード名を持つ製品ラインを企画していた。
それはデスクトップからワークステイション、サーバーにまで及ぶ、野心的な技術を搭載した製品群だった。しかし、デルのマネジャーたちからオリンピックの計画を聞かされた顧客は、敬意こそ示すものの、製品全体が人を引き付けるモノがなかった。冷めた反応しか見せなかった。それでもデルは試作品の開発を続けたが、「ある顧客から、①顧客の聞きたくなる話をしてほしい。そんなにすごいテクノロジーは必要ないよ」との提案であった。デルはその時点で自説を取り止めた。

・ オリンピックの教訓
  1. ① 顧客を製品開発のプロセスの一部にせよ。自分のためではなく、彼らのために製品を作ること
  2. ② 顧客の話、自分が聞きたくないような話を聞け。
  3. ③ 過ちはすぐに認め、直ちにそれを処理し、前進せよ

▼4―3)ヒット商品「ラテイチュード」
1988年、デルはノートパソコンの市場―当時、パソコン事業において最も成長が著しく最も収益の高い分野に参入した。
デルの最初のノートパソコンは申し分のない設計で、販売実績もまずまずであったが、それ以降のデルのノートパソコンは、次第に複雑化していき、しかも市場の動きからは後れを取っていった。

93年、デルのすべての新型ノートパソコンの発売が予定より遅れた。その原因の大半は「フィチャー・クリーブ(顧客ニーズに応じるためでなく、単にその機能が実現可能性で魅力的だからという理由で製品を過剰設計するコト)」にあった。
  1. ① そこでデルは、アップル社でパワーブックの開発を指揮したジョン・メデイカをスカウトした。すぐに彼は、開発中のノートパソコンで競争力がありそうなのは一つしかないと判断した。
    コストがかかり、つらくもあったが、デルは正しい決断をした。競争力のない製品の開発をすべて中止し、部門全体を「ラテイチュードXP」として知られる唯一残った製品の早期完成に集中させたのだった。
    デルは、ラテイチュードにリチュウムイオン・バッテリーという新技術を搭載する冒険的な決断も行った。顧客のフィードバックから、ノートパソコンにおける最大の不満は、バッテリーの使用時間が短いことだと知っているからだ。リチュームイオン・バッテリーは、うまく機能すれば従来のバッテリーの二倍以上にも当たる5時間まで使用時間を伸ばすことができた。この新型バッテリーは機能し、ラテイチュードはデルにとつて重要な「ビイト製品になったのである」。が、問題もある。ここは整理が必要であった。

  2. ② 顧客に彼らが最も欲しいものを聞き、その答えに基づいて行動せよ」。

▼4―4)小売販売という回り道
ダイレクト・モデルによる成功の歴史の一方で、デルは自社のコンピュータを従来の小売店経由で販売する試みを行っている。
1990年から94年まで、デル製品はコンプUSAやサーキットシティーなど、いくつかの小売店チェーンでも販売されていた。小売店販売は比較的急速に伸び「年間20パーセント」で商売的には健全そうに見えた。やがて就任した新しいCFO(高等財務責任者)は、小売事業だけの損益計算を行い、小売チャネルについての正確なコストや収入をはじき出した。彼は、デルが――どうやら競合企業も――小売店販売では全く利益を上げていないことに気が付いた。
デルはこの市場には、販売利益の核らしきものがみつからなかったのである。
デルは三度目の、困難だが適節な決断を行った。小売店販売を一切打ち切ったのだ。

収入に占める割合は比較的少なかったので、財務的な打撃もさほど大きくならなかった。それよりはるかに重要なのは、結果的にデルがビジネスの照準を改めて明確にできたことである。
デルの販売、製造、マーケティング、サービスの部門担当者は、次のクリスマス用にサーキットシティーとして何を取り上げるのか興味が湧いた。

・ 小売販売という回り道の教訓:
  1. ① 成長そのもののためではなく、収益性の高い成長に重点を置け。
  2. ② 他社の動向に振り回されず、自社のユニークなビジネス・モデルがうまくいつているかぎりはそれに専念せよ。
  3. ③ 自社の事業領域と最も得意とする事業を一致させよ

▼5)オンライン・コンフィギユレータの開発
 1996年という年は、デジタル・ビジネスにとって重大な転機となった。
  1. ① シスコ・システムズがオンラインでコンピユータ・ネツトワーク機器の販売を始めた。
  2. ② チャールズ・シュワブが「e-シュワブ」というオンライン証券取引システムを作り出した。
  3. ③ デルがウエブでのコンピュータ販売を開始していた。

90年代後半、ウエブで買い物のできる顧客が増え、インターネット販売は、特にパソコン・メーカーとって、必然的な次のステップとなった。
ここでデルは早急にデルのデジタル化は、一夜にして行われた訳ではない。しばらくの間は依然として取引の大半を電話で行っていた。この「ハイブリッド」なビジネス・モデルは、デジタル化過程にある賢明な企業によくみられるものであった。シュワブ、シスコ、セメックスもみな、オンラインと非デジタル・ビジネスという同様の組み合わせを用いたことになる。

ここでデルはその組み合わせを成功させるために、デルお気に入りのデジタル側へ急速に推し進める。重要転機は、顧客自身のパソコンをデザインするデジタル・システムを作るのではなく、これから起こる世界情勢を加味した組織を提案することであった。

・ デルのコンフィグレータの提案は、
  1. ◎ 今回の重要な転機は、世界初のチョイスボードの開発、顧客に自分が本当に欲しい選択肢を備えたパソコンをデザインさせること。
    1. ① 簡潔さ:提供する製品はラップトップ2機種、デスクトップサーバー2機種、違いは簡単に理解できる。機種の少なさはカスタマイゼイションによってあな埋めされる。
    2. ② カスタマイゼーション:様々な選択肢あり(メモリー量、ハードリスク容量、モデム形式など)から選ぶことでコンピュータを1600万通り以上の組み合わせのどれにでも設定できる。
    3. ③ 迅速なフィードバック:それぞれの選択に対する正確な費用(あるいは節約)が即座にわかる。
    4. ④ デジタル化されたヒュウマンタッチも提供している:意志決定に役立つ、追加情報を容易に請求できる
    5. ⑤ 完璧な正確さと速度:販売員や注文入力係が不要なため、注文の処理に遅延がなく、大きなミスや誤情報が生じる余地もない。
    6. ⑥ 売上げの増加:顧客は自分のマシンの能力や品質を向上させる付属品やオプションを購入しやすくなる。不要な機能に出費しなくて良いため増設が促される可能性がある。
    7. ⑦ 顧客情報の獲得:コンフィグレータは顧客の嗜好を瞬時に記録するので、デルは四半期ごと、月ごと、週ごとではなく、リアルタイムに購買パターンを把握できる。
    8. ⑧ 部品の徹底的な削減:他業界の多くと同様、パソコン業界では在庫管理単位の10~20%で顧客需要の90%になってしまう。デルはその致命的な部分に焦点を絞った。
    9. ⑨ 情報のデジタル化:ミスや誤情報を排除するため、注文の詳細や仕様はオンラインで電子的に伝達される。
    10. ⑩ デジタル化された供給ネットワークの管理:デルは多くの小規模サプライヤーと密接な関係を築いており、サプライヤーは変化する注文パターンや部品のニーズに関するあらゆる情報を常に電子的に伝えられている。彼らはジャストインタイムで部品を供給し、デルの在庫費用や在庫スペースを抑制する。
    11. ⑪ プロセスの簡素化:デルのエンジニアは常にこうしたプロセス改善と合理化の努力を進め、組み立てたパソコンの組み立て工程数を減らし、僅か60にした。

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