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「エンタテイメント論」(191)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :2月号

エンタテイメント論


第 2 部 エンタテイメント論の本質

7 本質
●リー・クアンユー首相のシンガポール国家戦略の概要(前号よりの続き)
 天然資源がなく、「水」まで不足する貧しい国:シンガポールは、昔、日本を見習い、世界も見習い、必死で頑張った。その結果、今日の大発展を成し遂げた。現在の日本の為政者、指導者、そして筆者を含む全ての国民は、今こそシンガポールを見習うべきである。

 リー首相の国家戦略を以下に概説する。その上で日本が抱える多くの深刻な問題の中の僅かな数例である「社員の平均賃金の低さ」、「時間当たりの労働生産性の低さ」、「ベンチャー企業への投資流入額の低さ」、そして「英語力の低さ」を如何に解決するか? 論じる。

リー首相の国家戦略:高給待遇による公務員の起用策と汚職防止策と実行
 中国を含めアジア諸国では政治家、官僚などの賄賂、汚職が実に多い。更に学者まで会社の役員や顧問を兼務して「裏」で多額のカネを稼ぎ、ベンツに乗り、優雅に暮らす。しかし彼等を批判できる立場に日本はいるか? 日本でも政治家、官僚などの賄賂、汚職は昔も、今も多い。

出典:賄賂、汚職
出典:賄賂、汚職

 リー首相は「汚職根絶」を宣言した。公務員の給料を突然、世界レベルに引き上げた。この高い給料でベンツを買え、優雅に暮らせる様になった。しかし賄賂を受け取ったら死刑になる場合がある。麻薬をシンガポールに持ち込めば、外国人でも死刑になる。死刑判決を受けた外国人の母国の首相がリー首相に助命嘆願しても死刑は断行された。この厳しい施策と死刑断行に依って賄賂、汚職は一挙に激減した。一方日本では賄賂、汚職をしても刑罰は「甘々」。其の為、犯罪抑止力が全くなく、今後も賄賂、汚職は従来通り、続くだろう。

リー首相の国家戦略:シンガポールに「豊富な水資源」を確保する施策と実行
 シンガポールは平地ばかりで貯水が出来ない。マレーシアから水の供給を得ている。リー首相は国家的水資源確保策を断行。この施策で約600万人の自国民だけでなく、その3倍の毎年シンガポール訪問の外国人に対応する事が出来た。同国の弱点は近い将来、完全に克服される。
  1. 1 貯水池化=マリーナバラージ巨大ダム建設と淡水の水かめ化
    >この建設で「ごみダメ」だったマリーナ湾をクリーン化。
    >マリーナ地区の川や湾を淡水の水がめ化中。そして国土面積の2/3を貯水池化する。
  2. 2 側溝ドレインの雨水と排水の一大集積化
  3. 3 集積雨水&集積排水の完全浄水化
    >New Water作戦:集積雨水と集積排水の再生&淡水化
  4. 4 海水の淡水化
    >シンガポールの象徴の「マーライオン像」の吐き出す水は海水でなく淡水。
出典 マーライオン2景
出典 マーライオン2景
出典 マーライオン2景
bing.com/images/search view Merlion-Fountain-Singapore-0.jpg&action=click
リー首相の国家戦略:シンガポールの新都市開発の施策と成功
 シンガポールは2005年、カジノを合法化。それを基に2つのIR計画を実現させ、成功させた。
  1. 1 マリーナベイサンズIR:
    >カジノ、会議センター、ホテル、博物館(高さ200m、57階建3つの超高層ビル屋上連結)ラスベガスサンズ出資(投資S$75億)
  2. 2 リゾートワールド・セントーサIR
    >カジノ、Universal Studio、水族館、ホテル群、ゲンティンGr(マレーシア資本投資S$66億)

出典:マリーナベイサンズ
出典:マリーナベイサンズ
veltra.com/article/marina-bay-sands/
出典:セントーサ島のカジノ
出典:セントーサ島のカジノ
sinpura.com/sentosa/sentosa-casino-howtogo

 2つのIRは2010年に開業(約1兆円投資)。その効果 国全体で2009年と2017年の比較で観光客:968万人⇒1742万人、観光収入:130億S$⇒270億S$(約1.3 ⇒ 2.7兆円) *2017年の2つのIRの直接収入は54億S$、その内75%がカジノ分、残りが各種の収入。

 さて日本の大阪IR計画は現在、完成に向けて建設中である。是非、成功して貰いたい。

出典:大阪IR
出典:大阪IR
pref.osaka.lg.jp
/irs-suishin
/osakair/index.html

 筆者は下記の実務経歴(★)を持っていた為、大阪IR計画の関係者や日本各地のIR計画の関係者から当該IR計画に参画して欲しい旨の要請を何度も受けた。

 しかし筆者はそれ等の要請を全て断った。その理由は諸般の事情から詳細に開示できないが、要するに①本PJT開発の「在り方(基本的考え方)」に問題があり過ぎる事(Ex,当初、事業に成功しても、その後、大きく傾く)、②本PJT開発の「やり方(具体的方法論)」に問題があり過ぎる事(Ex.米国のカジノ事業に頼り過ぎ。カジノと双璧のエンタテイメント事業が不在)、③本PJT開発のコア人物達に問題があり過ぎる事(Ex,本開発の核のエンタテイメント事業に心底では無知、無視、軽視する人物が大勢。筆者が参画しても孤軍奮闘&四面楚歌で効果無し)

 ★筆者は新日鐡勤務時代、新日鐡MCAユニバーサル映画スタジオ・プロジェクト(PJT)の総括開発責任者として同PJTを開発。諸般の事情で中止(大阪USJ開園の10年前)。その後セガにスカウトされ、同社に転籍。同社の第1号館:横浜ジョイポリスを成功させ、日本全国多館展開も実現。此れを知った岐阜県梶原知事にスカウトされ、公務員試験を経て岐阜県庁3役(知事、副知事、理事)の岐阜県理事に就任。岐阜県バーチャル&リアル水族館、昭和村などを実現。

リー首相の国家戦略:その他の施策とその成功
  1. 1 シンガポール港の国際ハブ・コンテナターミナル化
    >世界のハブコンテナ貨物取扱量で世界Topの上海につぐ3687万TEU(2019年)。日本の京浜港(東京、横浜、川崎)の758万TEUの5倍。1980年代後半から世界に先駆け港湾業務のITインフラ化を進めた。その後西側の港に、より進化した全体を集約予定。
  2. 2 チャンギ空港の国際ハブ空港化
    >2017年にターミナル4完成、8200万人能力、
    >2019年旅客数6830万人(世界7位)
    >2019年大型複合施設ジュエル完成
    >2022年国際線旅客数3190万人(世界9位) 1位ドバイ6610万人、成田2656万人
    >2025年ターミナル完成予定⇒1億5000万人の能力

●シンガポールと日本の国際比較
  1. 1 世界競争力ランキング2023年:シンガポール世界3位。日本37位。
  2. 2 個人の豊さ:個人GDP2019年:シンガポール7位US$65833。日本27位US$40566。
  3. 3 貿易港ランキング:コンテナ取扱量:2020年:シンガポール港世界2位。日本の京浜港21位。
  4. 4 ビジネスのやり易さランキング:2020年:シンガポール世界2位。日本29位。
  5. 5 大学ランキング:2023年:シンガポール国立大学世界8位。東京大学28位。
  6. 6 デジタル競争力:2023年11月最新情報:シンガポール第3位。米国1位、オランダ2位、韓国デンマーク4位、スイス5位、韓国5位、日本32位。
  7. 7 世界の空港顧客満足度:2022年:チャンギ空港は世界ナンバー1、羽田空港の接客姿勢は高く評価されている。しかし日本の空、海のハブ化は世界の潮流の「蚊帳の外」。
  8. 8 外国人訪問客数/自国人口:2019年:シンガポール約2.7倍(1512/564万人)。日本約26%(3190/12500万人)

●社員の平均賃金の低さは解消されるか?
1 日本が抱える問題
 日本の失業率は2022年は2.59%、2023年は2.45%である(IMFによる2023年10月時点の推計)。2022年の失業率の世界比較では、世界最悪が南アフリカ1位34%、スーダン2位32%、ウクライナ3位25%、中国58位5.5%、米国85位3.6%、独92位3.1%、韓国97位2.9%、日本98位2.6%である。最近、日本の失業率は低い。
出典:日本の失業率の推移
出典:日本の失業率の推移
IMF2023年10月推計
ecodb.net/exec/trans_country.
php?d=LUR&c1=JP

 しかし日本の失業率は過去約20年間は高かった。低い失業率が続けば必然的に社員の平均賃金は上昇する。

 また若年層だけでなく、ベテラン層の社員がリスキリングに励み、自己の能力を高めれば、より良い職務条件、給与条件等を獲得できる企業に転職が可能になり、その傾向が強まる。一方企業側も優れた人材を求めて、より高い給与を提供する様になれば、賃金の上昇は更に促進される。

2 円安の好影響
 現在の日本では「円安」である。しかし何故か? 「円安は良くない」との主張が学者、評論家、特にジャーナリストなどで起る。「円安」で輸入物価が上がり、インフレを招き、生活が苦しくなると云う理屈である。

 自国通貨安は「近隣窮乏化」を齎す一方、「自国繁栄化」を齎す。この事が多くの経済モデルで証明されている(内閣府、OECD、IMFの経済モデル)。従って海外から日本への「円安批判」が起る。しかし不思議な事に日本国内でも「円安批判」が、特に日本のジャーナリストから、新聞、TVなどを通じて起る。彼等は「円安デメリット」ばかり主張する。しかし日本のGDPが増加すると云う「円安メリット」を一切主張しない。その結果、国民は混乱する。

出典:為替(円安、円高)
出典:為替(円安、円高)
bing.com/images/search
viepivotparams=insights
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 「円安」に依って最も潤う企業は、厳しい世界競争に負けず、世界市場で自社の商品、製品、サービスを提供するエクセレント・カンパニーやそれに相当する世界競争力を保持した「優れた企業」である。またこの「優れた企業」は、世界の多くの国で多額の事業投資や金融投資をしている。その為、「円安」に依って膨大な為替収益も獲得する。

 この「優れた企業」は膨大な収益を基に、日本国内に膨大な経済効果を齎し、新たな雇用を生み、給与所得を増やす一方、企業収益増に依って国と自治体の税収まで増やす。その結果、「円安」に依る食料品の物価上昇は給与所得増に依って、一方「円安」に依る企業の調達原材料輸入高は企業収益増に依って夫々十分カバーされる。しかし輸入業者や輸出比率が少ない中小企業は「円安」による恩恵を得ず、コスト増、経営損失増となる。

 しかし国全体としてプラス・マイナス効果を合体するとプラスの方が大きい結果を齎し、自国のGDPは増える。一説に依ると10%円安になるとGDPは1%上昇するとの試算がある。

 「円安」で経営が困った輸入業者や輸出比率が少ない中小企業には国と自治体からの財政支援で彼等を救える。その財源は優れた企業の収益増に依る国と自治体の税収増で十分賄えるのである。

 この「円安の好機」に、日本の国や自治体は、積極的内需振興の財政政策を「断行」し、景気を一気に浮揚させる事である。一方大手、中堅、中小、ベンチャ―などの全て企業の企業人(社長&社員)は、「破壊的イノベーション(DX&AX=Analog Transformation=筆者の造語)」を「断行」し、自社を一気に発展させる事である。この国と民間企業の2つの「断行(決断&実行)」こそが、シンガポールに学ぶ事になり、「失われた30年」を取り戻す事になると確信する。
つづく

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