理事長コーナー
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価値共創のプログラムマネジメント ~三方良しを世界へ~

PMAJ 理事長 加藤 亨 [プロフィール] :1月号

 皆さま、あけましておめでとうございます。今年も、PMAJをよろしくお願いします。
 2023年5月以降、新型コロナウイルスによる活動制限がほぼなくなり、経済活動も以前の状態に戻りつつあります。2024年は新しい未来へ向かう輝かしい年になって欲しいと願っています。
 しかしながら、世界の情勢を見ると、温暖化の加速度的な進行、国際紛争、激甚災害の頻発など、なかなか想い通りには行かないようです。今年は、我々はこれからをどう生きていくべきなのかを真剣に問われる年になるのではないでしょうか。
 PMAJでは、現在、P2M標準ガイドブック(以下、P2Mガイド)の改訂作業を進めていますが、P2Mガイドの初版は、21世紀が始まる2001年11月に発行されました。その冒頭に次のような一節があります。
 「今後、日本企業は『ものづくり』中心の発想から転換して『仕組みづくり』による再生に注力しなければならない。」
 これは、ものの販売により収益を上げるという交換価値の発想から、サービスを提供するための端末として製品を設計し、顧客体験価値(CX、UX)を提供することでベネフィットを得るという、サービス中心のビジネスモデルへの転換を促す提言と言えます。
 私は、P2Mガイドが、プロジェクトマネジメントの標準を目指しながら、最終的にはプログラムとプロジェクトを統合してマネジメントする、P2M標準になった理由はここにあると思っています。
 というのは、仕様の決まった成果物を作成するためには仕様通りに計画的に作業を進めるプロジェクトマネジメントで対応できますが、要件の定まっていない顧客体験価値を提供するためには、仮説を置き、プロトタイプを提供し、探索的にサービスを再設計し、本番サービスを実装した後でも、顧客のフィードバックを受けてアジャイルに新たなサービスを提供し続けるアプローチが必要となります。その際に、顧客や、関連する他のサービスを提供する組織体などのステークホルダーと、価値の共創・共有を図るというプログラムマネジメントが必要となるからです。
 P2Mガイドの改訂第4版では、事業戦略からプログラム~プロジェクトに至る一連の流れをP2M 事業モデルに沿って解説し、事例を含めて、読者が実務に適用する場合に分かりやすく、かつ、使いやすい体系として提供する事を目指しています。
 ところで、このプログラムマネジメントによる価値共創の実践を通して生じたビジネスサイクルは、多くのステークホルダーが参加することとなり、そのフィードバックを通して次の価値共創のサイクルにつながり、やがては地域社会全体を持続可能で豊かさを共有する社会につなげていくという傾向があります。まさに近江商人の標榜した三方良し(売り手よし、買い手よし、世間よし)の関係を築き上げる起点となります。そして、それを世界に広げていくことが出来れば、一部の企業や国が、価値を独占することから生じている多くの社会課題が解決に向かうのではないかと考えています。
 PMAJは、PMシンポジウムや各地域におけるPMセミナーを通して、各地域の企業、大学や地方自治体を中心とした価値共創・共有の事例を数多く紹介してきました。それは、価値の共創、共有による地域の産業の発展の事例を広く紹介することが、次の価値共創サイクルへつながり、やがては持続可能で回復力のある地域社会の発展につながって行くと信じているからです。
 「我々はこれからをどう生きていくべきなのか」という問いに対する答えは、ここにあると私は思っています。
 PMAJは、2024年もプログラムマネジメントによる価値共創の取り組み事例を広く紹介し、支援し、そのノウハウを共有することで、世界が豊かさを共創・共有できるようになることに貢献して行きたいと思って活動して行きます。
 今年も、PMAJをよろしくお願いいたします。

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