関西例会部会
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第163回関西例会報告

関西KP 喜野 聖 : 12月号

世界自動車電動化(EVシフト)の実態
~日本と世界のEV市場を比較しその実情に迫る~


静岡スバル自動車株式会社
橋本 靖

1. はじめに
 大学で国際経済論を専攻された橋本様は総合物流会社での従事を皮切りに楽器・オーディオ・電子部品・医療機器等国内外でのサプライチェーン構築を経験された後、文書の電子データ化事業の立ち上げに携わり、現在では静岡スバル自動車でEV車などの代理店業務をされている。
 講演当日にはBYDの静岡県内代理店としてオープン初日を迎えたばかりであり、現在のEV市場がどのようになっているか生きた情報を講演いただいた。

2. 概要
2.1 SDGsGoal13「Climate Action」

 自動車における2酸化炭素の削減目標と照らし合わせてSDGsのゴール13は5つの目標が設定されている。
 13.1全ての国々において、気候関連災害や自然災害に関するレジリエンス、問題について対応能力の強化、13.2で国別に政策計画を立てて取り組む。13.3で計画を具体的に進めるための教育や啓発、人的能力の開発・仕組み作りと定義している。
 3つの目標を具体的にするため、13.aで2020年までにあらゆる供給源から年間1000億ドルの資本を投入できる具体的に資金を出す目標があり、13.bとしては後発開発途上国や小島嶼開発途上国(領土が狭く低地の島国)を対象に、南の島で温暖化により沈んでしまいそうな島の確認と支援の推進を目標ターゲットとしている。これら5つがSDGsゴール13の目標となる。
 環境問題への対応ではSDGsゴール13が設定されているものの、SDGsより先に取組みが始まった国連気候変動枠組条約を優先することが決められている。国連で環境問題を明確にしたのは1992年6月のリオデジャネイロで地球サミット国連環境開発会議であり、ここで国連気候変動枠組条約(UNFCCC: United Nations Framework Convention on Climate Change)の署名が開始され、締約国会議(COP)が開催されるようになった。1995年ベルリンにて初回のCOPが開催され、1997年京都での第3回COPにて「京都議定書」が採択され、それを引き継ぐ形で2015年パリ協定へとバージョンアップされた。
 京都議定書は1977年に採択され、対象国は38カ国で目標達成の義務はあるが長期目標は無く2020年までの目標だった。パリ協定は2020年以降の枠組みとして2015年に採択され197カ国が参加し目標提出が義務付けられた。世界の平均気温の上昇を2°より低く保ち、1.5°に抑える努力をする。温室効果ガスの排出と吸収のバランスをとる(カーボンニュートラル)という考え方で長期的な目標が設定された。また、5年ごとに計画を各国が策定し、その取組み結果を国連に報告する形でPDCAサイクルを回すと定義されている。

2.2 世界の二酸化炭素排出量と世界主要国の削減目標
 世界のCO2排出量は1970年代で139億トンであったものが、増加し続け2019年333~335億トンとなっており、日本で1年間に排出されるCO2は40年前の2倍以上となっている。世界で排出量が増加しているのは、中国・インドなどアジアの主要国である。世界でCO2排出が多い国の1位は中国で全体の3割、続いてアメリカ、インド、ロシア、日本となる。日本は全体の3.2%排出している。日本の2020年の実績は直接排出量が40%で火力発電などのエネルギー発電。間接排出では1位は産業部門の34%、2位が運輸17%となる。運輸部門の半分ぐらいが乗用車による排出と言われている。すべての乗用車がEV化してCO2を排出しなければ約1億トン弱の削減が見込めると推測される。(CO2の1トンの容積は約25mプール1つ分)
 パリ協定では各国が削減目標を定めており、日本は2030年までに2013年比、26%の削減を目指している。

2.3 世界のEVシフト動向 『Global EV Outlook 2023』
 IEA(国際エネルギー機関)が毎年EVに関する白書を出している。EVの定義はBEA:完全にバッテリーだけで動く電気自動車と、PHEV(PHV):プラグインハイブリッド車の2種類となる。
 世界の車の総販売台数はコロナ3年間2020年から22年は7000万台からようやく8000万台だが、ピークは2017~2018年で9500万台だった。直近、2022年の中国は前年度比2.1%増で2,686万台となっている。アメリカと欧州は減っているがアジアは増加傾向である。
 世界の2022年度メーカー別自動車販売台数は、トヨタが1位1056万台、2位がフォルクスワーゲンで826万台である。3位がステランティス(フィアットクライスラーオートモービルズとプジョーシトロエングループが2021年にグループ合体した会社)。4位はゼネラルモーターズ、5位フォード、6位韓国のヒョンデ、7位ホンダ、8位日産、9位スズキで10位が中国の起亜自動車である。14位に中国のBYD、15位にテスラであった。
 EVの販売台数は2015年から増加し、2022年は1020万台で自動車全体の販売比率は12.5%となる。販売が多いのは中国、ヨーロッパ、アメリカである。2023年の世界EV販売は現時点で1400万台と予想されている。
 EVの世界累計販売台数は2015年~2020年で2600万台となっている。
 EVが2015年から増加した理由は2015年にフォルクワーゲン社が起こしたディーゼルゲート事件がきっかけと言われている。この事件を契機に欧州自動車メーカーはディーゼル車よりEVに戦略を切り替え、2022年世界EV販売台数は1020万台でEV比率12.5%となっている。
 中国は2022年にEV比率25.6%で689万台となっている。
 ヨーロッパではノルウェーが世界で最高のEV化率で2022年に79.3%となり、他にスェーデン、オランダ、ドイツでのEV販売費比率が高い。一方、日本はわずか2%である。
 世界での内燃エンジン車種は1300種類ぐらいあるが、EVも急増しており500種類となっている。日本のEVは国産10種類ほど、外車を入れても20種類程度と少ない。
 EV普及のため、各国政府は補助金を出しているが、1台あたりの購入補助金額は年々下がってきている。しかし、販売数が増えていることから補助金額全体では増加傾向にある。ガソリン車とEV車では一般的にEVの方が高いが、中国でのEV価格は同価格傾向という特徴がある。
 世界でEVを販売している会社は1位BYD、2位はテスラとなっている。なお、ハイブリッドを除くバッテリーEVだけの場合ではテスラが1位となる。世界のEVメーカーTop20を確認すると、中国系メーカーが12位までに10社を占めている。
 世界におけるEV新車販売比率は2022年12月単月で22%を超え、今後さらに伸びていくと想定されており、2023年上期実績でも同傾向である。2023年上半期の世界車種別販売はテスラのモデルY、モデル3、BYDの宋・清・元という車が売れている。BYDは日本市場でAtto3、Dolphinという二つのモデルを販売している。テスラは世界で4種類が販売されている。テスラのモデルYは564万円~728万円で販売されており、政府補助金(CEV補助金)65万円、東京都ZEV補助金45万円で計110万円の補助金が出る。加えて東京都では販売実績がある程度行くと10万円プラスされる。
 BYDは2022年世界EV販売第1位の会社で1995年創業、本部は中国深センにある。現在の従業員29万人、昨年の売上高は約8兆4800億円である。BYDはもともと携帯電話の電池メーカーからスタートしており、電池製造の技術を基に2008年自動車分野に参入しわずか18年で、新エネルギー車市場のトップになった。トヨタとも連携しており、トヨタ車がBYDのバッテリーを積載する話も進んでいる。その代わりに、プリウスのハイブリッド技術がBYDに供与されておりBYDの技術向上に寄与していると思われる。
 中国のEV販売では、「超小型EV:Wuling Hong Guang (宏光)MINI」というモデルがあり、価格は57万円となっている。ボディサイズは3m弱と小さく、航続距離も100キロ程度であるが、2021年の販売は42万台で世界車種別第2位、2022年は55万台で第1位である。中国では100万円前後の超小型EVの販売競争が激化しており、将来、日本の自動車メーカーにとっても脅威になると思われる。

2.4 中国の「製造強国」戦略
 中国のEV拡大の背景は「中国製造2025」計画という「製造強国」戦略に辿り着く。
 中国製造2025計画は2015年に経済戦略として打ち出され、「製造業の発展なくして国家なし」の考えで製造を強化する戦略である。きっかけは2012年、尖閣諸島問題にあると言われている。当時、中国で日本製品の不買運動が起こり、中国は自国生産に切替えようとしたものの、コア部品が日本製だったため日本製品を購入せざるを得なかった。そして、自国の技術力の低さを痛感したことから、対策として中国はこの戦略を策定した。2025年までに製造強国の仲間入りを目指す中国だが、既に技術力は高いと思える。2035年に製造強国の中位となり、建国100年の2040年には製造強国のリーダ的な地位を確立する戦略である。
 また、頭脳狩り「千人計画」が話題となっている。ノーベル賞を取れるほどの頭脳明晰者を中国に呼び研究開発をしてもらい、中国のものづくりの発展に貢献してもらうという形で、お金で知識と技術を買う動きである。
 中国の製造2025戦略の中核はITによる製造業の高度化と言われている。トップにくるのがまずEV電気自動車、次にスマートフォンなどのウェアラブルデバイス、そして通信規格「5G」の通信機器、そしてITOのインフラに必要となるセンサー類となる。
 中国製造でカギを握るのが半導体で、自給率を2020年までに40%、2025年で70%を目標としている。ちなみにウェラブルデバイスでシャオミーやOPPO、Huaweiなど日本で販売されているが、他にも沢山の種類がある。
 「5G」でも2025年には中国市場で80%、世界市場で40%を押さえようという計画である。
 半導体メーカーでは、サムスンやインテルが上位を占め、日本は3社が16位~17位に入っているが、中国メーカーはトップ20位に入っていない。ただし、半導体関係の雑誌では中国の半導体生産能力は既に世界3位で世界の生産能力の26%を押さえていると言われている。
 中国製造2025における、「重点分野における飛躍的発展の実現」の重点分野を深堀してみると1つ目が「5G」、2つ目は航空・宇宙装備である。3つ目はデジタル制御の工作機械やロボットであり日本は世界4強に2社が入っている。あとはABBとドイツのKUKAであるが、KUKAは2016年に中国のMidea Groupが買収し、既に中国資本傘下の会社となっている。今後、重点分野にあがっている企業が中国の買収対象となることを懸念している。

2.5 日産 軽EV「サクラ」の販売状況から見る日本のEV市場
 「サクラ」は2022年5月に軽EVとしてデビューし、2種類(239万円と290万円)ある。
国内のEVは長く日産リーフが首位だったが、「サクラ」が発売と共に首位となった。発売時、1年間の販売台数が5万台に行く勢いだったが、半導体不足で製造が追いついていない状況。国の補助金は1台100万円(東京都の場合)程度あり、実質130万円ぐらいで購入できる。
 日本のEV販売台数は2018年~2021年は5万台に届かなかったが、2022年に10万台、今年は8月で10万台突破となっている。日本国内のEV販売は2023年で月販1万台超が続いており、EV車シェアは4%を超える見込みである。

2.6 EVシフトの課題(バッテリーと充電インフラ)
 バッテリーの世界シェアは全体の4割が中国のCATL(日本のTDKが香港のATLを買収し、ATLの車載電池部門が2011 年に分離・独立して発足した会社)、2位がBYD、3位がLGES、4位がパナソニックであり、そのほかは韓国・中国の会社となる。バッテリーを製造しているのはアジア系メーカーしかないということが非常に特徴的である。ヨーロッパの自動車メーカーがEV販売を伸ばしたくても、実は儲かるのはアジアの電池メーカーであるという構図がわかる。そのため、欧州自動車メーカーは各社で電池を作る方向に動いている。
 バッテリーの中の非常に重要な材料の一つにレアアースであるコバルトがある。
 コバルトは埋蔵量710万トン、毎年10万トン使われるため、50~60年で枯渇する計算となり、極めて限られた資源である。現在、コンゴ民主共和国でほぼ半分が生産されているが採掘技術が未熟であり、かつ鉱山で子供が働いているという問題がある。コンゴ民主共和国は中国との関係が深いため中国による資源の独占が不安視されており、コバルトの調達が国際問題となる可能性がある。
 リチウムはオーストラリアや中国など、生産国が限られており、2022年にキロ1000円が9000円に急騰し高止まりしている。リチウム埋蔵量は1400万トンと言われており、400年は賄える計算であるが、生産国が限られていることと使用料の急増による価格高騰が懸念される。EV価格の4割がバッテリーの費用と言われており、レアアースの調達が大きな課題となっている。
 日本では経済安全保障の観点から、昨年2022年5月に経済安全保障推進法が制定された。
 4つの柱の中に資源の安定供給を目指し「サプライチェーン供給の強化」というものがある。これは特定重要物資の安定的な供給の確保を目的としており、コバルトやリチウムが特定重要物資と指定されれば、それについて国家として支援していくという動きである。
 2つ目のEVシフトの課題として充電インフラがある。
 日本での充電インフラは2009年から2020年までのデータでは、4万台未満となっている。東京都のゼンリン地図によるEV充電器調査でも横ばいの結果が出ている。そんな中、今年8月に「EV充電器2030年に30万台」という目標を経済産業省が発表した。現在3万台を、10倍に増やす目標であり、今後具体的な指針が出る予定である。
 世界のEV充電スタンドは、高速充電器と普通充電器の2種類あり、高速充電器は世界で2022年90万台が設置されており、その中の70万台は中国となっている。普通充電器は、世界で190万台、内中国が100万台、ヨーロッパが40万台である。中国は高速と普通充電器を合わせると170万台が設置済みである。日本は4万台にも届かないのが実態である。
 世界の予測として今後、高速充電器が2030年には500万台、普通充電器は800万台に増えると見込まれている。しかし、EV充電スタンドは、全世界で規格が異なるという問題がある。
 日本はCHAdeMO、中国はGDP、アメリカはテスラ独自方式とCCS1というコンビ方式、ヨーロッパはCCS2というコンビ方式となり全て規格が違う。アメリカとヨーロッパはコンビ方式で原理は同じだが、プラグの形状が違う。各国で規格やプラグの形状が違い、かつ普通充電と高速充電でも違うという状況である。そこで、中国と日本が連携し2030年を目標に統一規格CHAdeMO3.0で世界標準の獲得を狙っている。

2.7 「LCA」と「国境炭素税」への懸念
 LCA(Life Cycle Assessment)は製品やサービスに必要な原料の採取から製品が使用されて廃棄されるまで、全工程での環境負荷(CO2の排出量)を定量的に数値化して表現する考え方。すでに国際規格ISO14040シリーズとして2006年に規格化され、この規格に従って環境負荷を測っていく動きが始まっている。
 さらに、カーボンニュートラルを目指して金融業界を中心に各国の上場会社に対して気候関連財務情報の開示を促し、気候変動に係わる事業活動を評価する世界的な動きが進んでいる。日本においては東京証券取引所の改訂コーポレートガバナンス・コードが適応されており、プライム市場の上場企業にカーボンニュートラルへの取り組みの情報開示が義務づけられた。
 さらに、ヨーロッパでは輸入品に炭素税が課されることが決定した。
 欧州委員会にて2021年国境炭素税の概要が発表され2023年10月から輸入製品に対して、CO2の排出量の報告が義務化された。2026年にはそれに基づいて国境炭素税の課税開始が決定している。現時点では鉄鋼、アルミニウム、セメント、電力、肥料の5種類となっているが、今後自動車など、それ以外の製品に拡大される可能性は高いと考える。また、ヨーロッパはこの考え方を世界標準にしようと動いている。この国境炭素税で100億ユーロ(約1兆5億円)の年間税金収入が見込まれている。
 炭素税については、日本でも既にCO2排出1トンあたり289円が課税されている。しかし、他国と比較すると、スェーデン14,400円、フィンランド9,625円、フランス5,575円、イギリス2,538円と課税額が大きく異なる。一方で、アメリカや中国などはまだ炭素税を導入していない。このことから、米国やアジアの製品は価格が安くなる傾向にあり、欧州委員会として輸入品に炭素税を課税する動きとなっている。

3.まとめ
 EVシフトに関して日本政府への提言は以下となる。
 中国の小型EVが日本に入ってくると、令和の黒船来襲になると思える。100万円ぐらいのEV車が中国での実績を伴い日本に入ってくると日本の自動車メーカーはうかうかしていられない。中国の製造強国戦略についても、もっと徹底した深掘りと監視が必要と思う。日本でもようやく経済安全保障推進法が出来たが官民連携を強化し、早期に効果を創出して欲しい。またレアアースを使わない新電池の開発が必要で基礎研究を重視し技術開発の強化を政府にお願いしたい。充電スタンドはCHAdeMO3.0で世界の標準化を実現して欲しい。EVの増加に伴い、電力量の問題も発生すると予測され中長期の視点で発電所等の抜本的対策が必要と考える。EVの購入補助金はほどほどにし、まずは軽EVの普及を拡大させるべきと考える。また「LCA」「国境炭素税」等世界的ルールの変更に対し、政府主導で専門研究機関を立ち上げ、国家レベルでの準備と戦略の策定が必要と考える。

4.所感
 実際の数字での説明で、EV自動車の現状を知ることが出来る貴重な講演だった。世界各国の動きや、EVスタンドの課題やCO2に関する環境に関する税金の話など、今まで知らなかった多くのことを学ぶことが出来た。
 超小型EVが日本で増加していくと、使い勝手が良く活用できるようになりそうだと思った。ただ、マンションでは充電できないといった課題も日本固有でありそうだと感じた。これからの国内の車事情も興味を持って観察していこうと思えた。
以上

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