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言い換える力 ~英語上達の秘訣~

井上 多恵子 [プロフィール] :12月号

「言い換える力」が「英語上達の秘訣」となる理由
 「言い換える力」を「英語上達の秘訣」と提示しているのは、なぜなのか?疑問に思われた方もいらっしゃるだろう。この考えは、私が昨年本を書いた際のベースになったものだ。本を出版した昨年の10月から1年間、4月から約30名の方々に対し、グローバルコミュニケーション力の向上を支援してきている中で、このことをより明確に意識するようになった。
 ここでお伝えしたい「言い換える力」は、「日本語」を対象としている。「え?日本語を言い換える力が、英語力の向上に関係するなんて、ますますわからない!」と思った方もいらっしゃるのではないだろうか。でも、よく考えてみて欲しい。英語ネイティブ並みに英語を話すことができる方でない限り、多くの日本人は、言いたいことをまず日本語で考えてから、それを英語に翻訳している。考えた日本語は、難しい表現になっていることが多い。母国語だから、難しくなるのも当然だ。少し、もったいぶって話したい場面では、なおさらその傾向が強くなる。
 しかし、グローバルコミュニケーションの観点から考えると、これは問題だ。「〇〇は英語でなんて言うんだっけ?」と、考えた日本語に該当する英語表現をなんとか考えようとしている間、沈黙の時間が続いてしまうからだ。誰かと会話をしている場合は、会話が途切れてしまうことになる。英語を話せなくて苦労する人の多くに、この傾向が見られる。
 そこで、大事になるのが、平易な言葉に言い換える日本語力だ。「えー、もっと恰好良く英語で言いたいのだけれど。」と思う方もいらっしゃるかもしれない。もちろん、洗練された英語表現で話せれば、それにこしたことはない。しかし、それは英語がもっと上達してからでも遅くはない。まずは、できるだけ中断させることなく、会話を続け、意思を通じさせることが大事だ。

言い換えの事例
 「言い換える力」のイメージを持って頂くために、私がレッスンをする中で遭遇した事例をいくつか、紹介したい。

  1. 1, 彼らは多くの組織に所属している。
    難しい単語:所属する    英語で言うと:belong to
    平易な言葉で言い換えると?:働いている: work for

  2. 2, あなたと仕事ができることにワクワクしている。
    難しい単語:ワクワクしている  英語で言うと:excited
    平易な言葉で言い換えると?:幸せを感じている happy

  3. 3, 私はいいアイデアを思いつくことができない。
    難しい単語:思いつく     英語で言うと:think of
    平易な言葉で言い換えると?:ない 英語で言うと:don’t have any

  4. 4, 私は彼らから報告を受けた。
    難しい単語:報告を受けた  英語で言うと:received a report
    平易な言葉で言い換えると?:報告を聞いた listened to their report

  5. 5, 有名になればなるほど、より注目を集めることを望む。
    難しい単語:有名になればなるほど、  英語で言うと:The more famous they become
    平易な言葉で言い換えると?:有名人は Famous people

  6. 6, お手入れをご用命の際は
    難しい単語:ご用命 英語で言うと:order
    平易な言葉で言い換えると?:必要とする need

言い換える力が効果的なのは、上記のような例にある用語の置き換えだけではない。日本語で文を長く繋げる傾向がある方は、短い文に言い換える力を磨くといい。例えば、

  1. 7, たくさんの点を議論しましたが、その中でも面白かったのは、
    短い文に言い換えると?:たくさんの点を議論しました。その中でも面白かったのは、
    言い換えたことによるメリット:
    最初の文をそのまま単純に英訳すると、butという接続詞を使うことになる。しかし、butは前に言ったことを否定する際に使う接続詞であるため、聞いた相手が戸惑ってしまう表現になる。日本語で我々が話す際は、「~ですが」を文と文とを繋ぐ際に多用しがちなので、要注意だ。

 言い換えることで、元々伝えたかったことが、100%同じように伝わっているわけではない。言い方によっては、少しぶしつけに聞こえることもあるだろう。それでも、何も言わず黙ったままでいるよりは、良い。英語が流暢でないことをプラスに利用して、簡単な文でどんどん話すことが大事。少なくとも、「こんなことを考えている人なんだ」ということは伝わる。また、7.の例にあるように、言い換えないと、誤解を生じかねない表現になるリスクを避けることもできる。

今後実現したいこと
 どこかのタイミングで、こういう事例を集めて本にしたいと思っている。平易な言葉や短い文で言い換える力を磨くことで、日本語で何かを伝える際にも、より伝わりやすくなるからだ。本を書くことができる日が来るまでの間、まずは私が直接影響力を与えうる生徒たちが、「言い換える力」を身に着けることができるよう、支援していきたい。

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