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全体像を把握する力

井上 多恵子 [プロフィール] :11月号

点でしか理解できなかった京都のお寺
10月頭に、京都に遊びに行った。天気にも恵まれ、平等院鳳凰堂や東寺や相国寺などを堪能することができた。森林浴もでき、気持ちも穏やかになった。でも、何かが足りない。。「何が足りないのだろう?」と考えて、わかったことがある。私は、結局のところ、点でしか観光をしていなかったのだと。「相国寺は臨済宗相国寺派の大本山。室町幕府三代将軍の足利義満により創建されたんだ。」という説明文を読んでみるものの、長い日本の歴史の中で、相国寺がどこに位置づけられているのかがわかっていない。他の時代やお寺などとの繋がりがわからない。高校時代に学んだはずの日本史の知識が、完全に抜け落ちている。その後、学生時代に通訳ガイドの資格を取るために、再度勉強した日本史も、一夜漬けに近いものでしかなかった。なんていうことなんだ!年表すら、頭の中に入っていない。だから、それぞれのお寺を点でしか理解できず、興味も深まらない。方や、記憶力がいい夫は、年表が頭に入っているらしく、私より断然深く理解をしていた。

点でしか理解していないパソコン
日本史に限ったことではない。多くのことについて、私は全体像を把握できていない。典型的な例がパソコンだ。会社にいた時はパソコンのセットアップや修理はすべてヘルプデスクに頼んでいた。自宅用に新しいパソコンやスマホを購入した際は、すべて夫に依存していた。ヘルプデスクの方や夫から質問される必要最低限のこと、パスワードなどの情報のみインプットしていた。退職後社外のある団体のメンバーになり新しいメールアドレスを発行してもらった際も、よくわからないままやっていたら、トラブルになり困ったことがあった。一つの作業が他の作業とどう繋がっているか、わからなかったことが事態を悪化させた。最近は少し反省をして、トラブった時、ネットでまずは調べてみる、と言う行動を取るようにはしているが、理解は不十分なままだ。

全体像で理解している領域
社内外で研修講師をするようになり、担当する領域のことは頑張って勉強し、何度も説明をしたり関連することを調べたりする中で、マネジメントやリーダーシップや思考法やプロジェクトマネジメントなどの領域では、全体像が把握できるようになってきている。一度全体像を理解できると、点の理解も、記憶の定着も、大いに捗る。全体像の中の該当する箇所にそれぞれを置いておきさえすればいいからだ。そうすると、知識も関連して把握できるようになり、記憶しやすくなる。そうなると、楽しくなって、新しい知識をどんどん吸収しようという気になる。コンサルタントの資料が分かりやすいのは、全体像と、その中のステップだったり領域だったりを示したりしているからだろう。
全体像の大事さを痛感した今、私が企画する研修ではできるだけ、全体像を一番わかりやすいであろうタイミングで伝えることにしている。最初に全体像を示して、それから個々の部分について、全体像の中での位置を示すこともあれば、個々について少し説明した後で、「俯瞰して見ると、こんな形になります。」と言って全体像を示すこともある。全体像を示すのと示さないのとでは、受講生の理解度が異なるように感じている。

全体を見ながら取り組む効果
アメリカのCrucial Conversations(大事な会話)と言う名前の研修会社が、影響力を高めるための研修を刷新したとして、先日紹介していた。影響力の高め方を個人のモチベーションと能力に分け、それぞれについて、個人、社会的、構造的という3つの枠を設けている。合計で6つのドライバーができる形だ。影響力を高めるために彼らが推奨しているのは、それぞれのドライバーに順番に取り組むのではなく、全体を見ながら、6つのドライバーすべてに同時期に取り組むやり方だ。よくありがちな思いついた施策に次々とトライする方法ではなく、どんな手を打ちうるのかを最初に考える。そして、一度にすべてをやることができなかったとしても、どこまでは手をつけられるのか、その後どんな順番で行うのかを考えて進める。
部屋の掃除の際も、その部屋の中でしまってあるものを一度全部出してみることがいいと聞いたことがある。これも、まずは全体像を把握する、ということと、一緒なのだと思う。

全体像を捉える取り組み
全てのことについて全体像をとらえることができたら、理想的かもしれない。しかし、それは現実的ではない。私の場合、引き続き、研修講師として携わっている領域では全体像を維持・更新し続ける必要がある。それ以外については、自分が最も興味を持っている領域について、全体像を把握できるようにしてみたい。今は、仕事で関係がある音楽シーンについて情報を収集し、せめて点の状態から短い線がいくつかできる状態を目指してみたい。

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