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「エンタテイメント論」(189)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :12月号

エンタテイメント論


第 2 部 エンタテイメント論の本質

7 本質
●日本はGDPで「世界4位」に転落。「今のまま」では先進国でなくなる?
 筆者は先月号で日本がドイツにGDPで追い抜かれると書いた。そう書いた同時期に、IMFは、定例の「世界経済見通し」で日本がドイツに追い抜かれ、世界4位になると発表した。

 同発表で日本の2023年の名目GDPは、ドルベースで前年比0・2%減の4兆2308億ドル(約633兆円)。日本の人口の約3分の2であるドイツは、8・4%増の4兆4298億ドル。1位の米国は26兆9496億ドル、2位の中国は17兆7009億ドルである。

 日本は1968年、GDPで西ドイツを抜いて世界第2位になった。それ以来40年以上、その地位は不動であった。しかし2010年、中国に抜かれて第3位となり、2023年の今年10月、55年振りにドイツに抜かれた。日本は数年後にインドにも抜かれ、10年以内に英国にも抜かれるかもしれない。情けない国になりつつある。しっかりしろ!

出典:GDPの個人消費、政府支出、企業投資、輸出入
出典・GDPの個人消費、
政府支出、企業投資、輸出入
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 日本はGDPの規模の国際比較で世界第4位に転落しただけでなく、「一人当たりのGDP」の国際比較ではG7の中で最下位。しかも韓国や台湾とほぼ同水準のレベルにある。しかし10年前の2012年の日本のGDPは、G7で中位、韓国の1.9倍、台湾の2.3倍だった。益々、情けない国になった事が分る。「今のまま」で推移すれば、日本は「先進国の地位」を失うと指摘する某経営学者が最近になってやっと現れた。

●日本が直面した「構造的危機」と「近未来予測」
 筆者が約30年前から主張してきた「構造的危機」とそれに基づく「近未来予測」は正しかった事が証明された。しかし少しも嬉しくない。

 もし日本が「今のまま」で推移し、「構想的危機」を脱する為の「自己改革(革命的自己変身)」を断行しないと、日本は「先進国」でなくなるどころか、筆者が予言し続けてきた「日本はアジアの小国に凋落する」と云う「予言」は「現実化」する。

出典:危機
出典:危機
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 然らば日本は如何にして構造的危機を脱するか? 此の危機脱出策の「在り方(基本的考え方)」と「やり方(具体的方法論)」を本稿の「エンタテイメント論」の中では書き切れない。

 しかし此処で1つだけ筆者からハッキリと主張したい事がある。其れは、この危機を脱出させ、日本を復活に導く「モーゼ(救世主)」は誰か? である。その人物は、過去30年間、日本をダメにした政治家、官僚、学者、識者などではなく、企業人(社長&社員)であると云う事だ。

 筆者が現在、連載中の此の「エンタテイメント論」は、それ以前に長期連載した「夢工学」も含め、PMAJ本部(田中・元理事長と渡辺・元編集長)からの要請で寄稿を開始し、今日に至っているものである。

 もしPMAJ本部から「構造的危機脱出論」と「輝かしい日本再生論」に関する連載を筆者に要請されたら、喜んで連載させて貰う。

 しかし「エンタテイメント論」は、現在、第2部で「本質」を連載中で、当分の間、続く。来年以降で「第3部」となり、それ以降で「エンタテイメント論」が完了する予定である。完結は可なり先になる。それではいつまで経っても間に合わないので、エンタテイメント論と並行して連載してもよいと考えている。

 その場合、国家的な観点からだけでなく、企業人(社長&社員)の観点から、言い換えれば、既存事業や新規事業を如何に成功させるか? P2M、PMを如何に成功させるか? などの身近な観点からも解説したい。なお筆者は、「構造的危機脱出論」と「日本再生論」に関する講演や研修会などは既に多くの官庁、企業、研究団体、大学などで実施してきている。

●多くの日本人のDX(Digital Transformation)への誤解(混乱)
 日本の多くの学者、評論家、経営コンサル、企業人(社長&社員)、そして多くの日本人は、DXに対して誤解(混乱)している様に思う。その内容を今後、順次解説したい。

出典:yahoo.usa.com
出典:yahoo.usa.com
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 この「誤解説(混乱説)」を主張している人物は、筆者の知る限りでは、欧米の学者を別にして、筆者だけの様である。困ったことである。これでは「本物のDX」が成功しない。

 更に困った事がある。過去にあれだけ日本で騒がれた「ビジネス・イノベーション」と今、流行りの「DX」とは何が違うのか? どの様な関係にあるのか? などを論じる学者、評論家等は、筆者の知る限りでは、欧米の学者を別として、筆者だけである。益々「本物のDX」は成功しない。

●DXを最初に提唱したスウェーデン・ウメオ大学:エリック・ストルターマン(Erik Stolterman)教授
 同教授は、Information Technology and the Good Lifeの著書でDXを最初に提唱(2004年)。

出典:Erik Stolterman教授と著書の図
出典:Erik Stolterman教授と著書の図
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上記の図の矢印は筆者の追記
上記の図の矢印は筆者の追記

  1. 1 同教授はDXに関して述べた。
    “The digital transformation can be understood as the changes that digital technology caused or influences in all aspects of human life.”
    “DXは、デジタル技術が引き起こした「変化」として若しくは人間の生活の全ての観点に於ける「影響」として理解される事が出来る(筆者翻訳)“。
  2. 2 同教授はそもそもデジタル技術を活用してBusiness Transformation(BT=ビジネス・トランスフォーメーション)を引き起こす事がDXであると述べていない。
  3. 3 同教授は説いた。伝統的結合事業サービスを核とし、それを取り囲む付加価値サービスが形成され、更にそれ等がBTを齎し、事業大団円を形成していると説く。この事業大団円を、デジタル技術(一部アナログ技術)が引き起こした各種の「変化(上記の図のIOT、AIなど)」が取り囲んでいるとしている。
  4. 4 同教授は事業大団円の中でBusiness Transformationと定義している。しかしDigital Transformationと定義していない。
  5. 5 同教授は、情報システム研究(IS research)」の進め方を提唱し、情報システムが人間の生活を全て面で影響を与えるので、その実態や影響の過程を研究するべきであると主張し、DXの変化と影響を位置付けた。

●DXの世界的普及、DXへの期待、DXの定義、そしてDXへの誤解(混乱)
 同教授のDXの位置付け、そのネーミングは、世界の多くの分野の人々から注目を浴びた。その結果、多くの学者、評論家、企業人、そしてジャーナリストまでもがDXに様々な期待を抱き、いろいろな定義を加え、一挙に世界で広まった。

 現在、日本では、社会DX、環境DX、行政DX、事業DXなど「様々なDX」が定義され、それに関する取り組みが推進されている。しかもDX成功率は70%~80%と主張する学者や研究機関などが現れた。本当であろうか?
 
 そもそもDXへの誤解(混乱)が数多くあること、IT化とDX化の境界が曖昧であること、両者の曖昧さを基にIT化の成功例をDXの成功例に含め、成功の自己宣伝や自社宣伝に使われている可能性があること等から「本物のDX(後述)」の成功率は1桁代と言われ、正確な事は分らない。
出典:誤解
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出典:誤解
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●DXに誤解(混乱)を生む可能性にある「経済産業省のDXの定義」
 経済産業省は以下の様にDXを定義した。

 DXとは企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革すると共に業務、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立することする事と云う。

 経産省のDX定義は誤解(混乱)を生む可能性がある。そのため「本物のDX」への挑戦を阻んでいる。同省の官僚達だけでDXを定義したとは考え難い。同省の官僚達に日頃から忖度し、にじり寄っている「御用学者」の連中が同省からの相談に乗ってDXの定義に関する意見を具申したに違いない。

出典:経済産業省
出典:経済産業省
出典:経済産業省
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 その以上の結果、最近、多くの企業、特に大企業は、筆者が危惧する事に「力」を入れ過ぎている様に思う。彼らは、データサイエンス、最新デジタル技術、特にAI技術を活用する事が「DXの成功の鍵」と考え、データーサイエンティスト、AI専門技術者、DX技術者等の専門家を大量に採用し、起用する一方、社員へのDXマインド醸成にも「力」を入れ、ヒト、モノ、カネ、時間などを大量に投下している。

  1. 1 データサイエンティスやAI技術等を活用してDXを成功させる事に「力」の入れる事は間違いではない。しかしその効果は極めて限定的である事に多くの企業人は気付いていない。
  2. 2 その前に、もっと重要な事である「DXへの誤解(混乱)」を解くべきである。
  3. 3 此の誤解(混乱〉を解き、「本物のDX」を成功させる事に最も「力」を入れるべきである。
  4. 4 更にDXとビジネス・イノベーションとの関係を明確化し、DXの成功率を高めるべきである。

 誤解(混乱)の解消、本物のDXへの挑戦、ビジネス・イノベーションとの関係明確化などを解説する紙面の余裕はない。次号以降で解説したい。重ねて述べるが、作曲の「在り方」と「やり方」の解説は今、暫く待って欲しい。

つづく

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