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「エンタテイメント論」(188)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :11月号

エンタテイメント論


第 2 部 エンタテイメント論の本質

7 本質
●先月号での解説された疑問と重要問題
 先月号で以下の事を解説した。なお「作曲の解説」は数号先になる。暫く待って欲しい。
  1. 1 日本の多くの会社が実施中の社長教育、社員教育、リカレント教育は、主催会社が期待した成果を挙げているか? 受講者が期待した効果を得ているか? 筆者は疑問を提示した。
  2. 2 筆者は上記の疑問の「背景にある日本が抱える重要問題」の一部を例示した。
    1. 2-1 日本の人材への投資額のGDP比で日本は、主要国で最低。
    2. 2―2 日本の社員の平均賃金は、過去30年間のほぼ変わらず、主要国で最低。
    3. 2-3 日本の高度専門人材の平均年収は、主要国で最低ではないが低い。その結果、日本に世界から高度専門人材が来ない。日本人の優秀な高度専門家が日本から脱出している。
    4. 2-4 日本の時間当たり労働生産性は、主要国で最低。
    5. 2-5 日本のベンチャー企業への投資流入額は、米国の100分1。主要国で最低。
    6. 2-6 適切な意思疎通、契約交渉等を左右する日本人の英語力は、主要国(競争相手になる新興国を含め)で最低。

●日本は世界の潮流の「蚊帳の外」に置き去りにされた。その原因は?
 「或る物事」で世界の何番目か? その占める割合は何%か? などの国際比較をする場合、日本が国際競争の真の相手でなく、競争もしていない相手国を含めた基準(スタンダード)で比較しても意味がない。重要な事は国際競争の相手となる主要国と比較し、議論するべきである。

出典:世界標準比較
出典:世界標準比較
出典:世界標準比較
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 主要国の中で日本は「数多くの事」で「最低」又は「最低に近い」と云う「蚊帳の外」になっている(別の機会で解説)。ショックである。日本を指導する立場の政治家、官僚、学者の他に、大会社や著名会社の社長にも「もっとしっかりしろ!」と言いたい。

●日本の主張する構造的危機と予言
 世界の激速の激変の時代、日本は多くの分野で世界の潮流の「蚊帳の外」に置き去りにされた。この「蚊帳の外」が筆者の「疑問」や「背後の重要問題」を惹き起こしたのである。更に日本が直面し、今も脱出できない「構造的危機」は、「蚊帳の外」だけでなく、もっと「深刻な問題」を日本に齎している。

 本稿で何度も解説した通り、筆者は約30年前から日本が明治維新や幾多の戦時を除き、現代史上で初の「構造的危機」に直面した事を主張し、今も主張している。この事を主張した当初、厳しく批判され、時に「お前は学者でも、研究者でもない一介の企業人。生意気な事を言うな。バカ野郎」と罵倒された。

 筆者は批判や罵倒にひるまず、あらゆる機会を捉え、主張し続けただけでなく、自身の著作本、論文などで此の主張を書き続けてきた。しかし最近は批判される事は全くなくなった。

 日本の政治家、官僚、学者、企業人、そして多くの人は、「自己改革(一種の革命)」の重要性と必要性を自覚し、夫々の役割の中で危機脱出の為の自己改革を断行すべきである。この自己改革を「自己変身」、「自社変身」、若しくは「本物のDX(後述)」と言い換える事ができる。もし自己改革をせず、「今のまま」で推移すると、日本は益々傾き、将来、アジア諸国の「小国」に凋落するだろう。此の「暗い予言」も以前から「警告」として主張してきた。

 しかし「警告」としての予言は、極めて残念な事に、その後、「正しい予言」となりつつある。何故なら予言を証明する様々な「兆候」が次々と出現しつつあるからだ。その兆候の例として、インドはGDPで極めて高い確率で近い将来、日本を追い抜く。またドイツも日本を追い越す。なお隣国の中国は、とっくの昔、日本を追い抜いた。しかし中国のGDPの数値は本当に正しいか? 大いに疑問である。IMF(国際通貨基金)が発表した2023年の世界のGDPのランキングは以下の通り。

順位 単位(百万US$)
1位  アメリカ合衆国 26,854,600
2位  中国 19,373,586
3位  日本 4,409,738
4位  ドイツ 4,308,854
5位  インド 3,736,882
6位  イギリス 3,158,938
7位  フランス 2,923,489
8位  イタリア 2,169,745
9位  カナダ 2,089,674
10位  ブラジル 2,081,235

出典:未来予想
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●中国の経済はヤバイ。日本より深刻な構造的危機
 中国では、現在、中国恒大集団の経営危機を初めとして多く不動産会社が傾き、次々と倒産している。しかし不思議な事に中国では「倒産の法的手続制度」がない。多くの債権者は倒産会社の債権回収をどうするのか?

 中国の不動産事業はGDPに占める割合が極めて大きい。此の事業が劇的に傾き、益々縮小しつつある。従ってGDPは伸びるどころか益々縮小する。にも拘わらず、中国の国家統計局は、2023年10月18日、同年7月~9月の国内総生産のGDPが実質前年比で4.9%増と発表した(日経新聞の同日の夕刊第1面)。

 GDPが5%も一挙に伸びる事は有り得るか? 習近平に忖度した結果の発表であろう。そもそも中国は、ソ連が崩壊後も、ソ連と共に実施してきた経済統計手法を続け、全くのインチキな統計を当初から現在まで実施し、発表し続けている。全く信用できない。この事は知る人が知る事実である。

 習近平が中国の指導者になってから中国は急速に変わった。経済音痴で部下を信用しない彼は、独裁者として中国共産党を意のままに操る。経済活動には「自由」が必須である。独裁の国には「自由」がない。中国の今後の経済はヤバイ。或る段階で発展が止まる。また中国は日本より遥かに深刻な「構造的危機」に直面している。「学者でも、研究者でもない、一介の企業人」の筆者でも、此れ位の事は分る。

出典:習近平
出典:習近平
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 余談であるが、筆者には昔から友人として親しくしている中国人の学者や企業人がいる。しかも彼等は共通して日本の大学や大学院を卒業し、日本で働き、生活をした事がある人物ばかりである。習近平の独裁下の彼等が気の毒で仕方がない。しかし筆者が彼等とメールや手紙等のやり取りをする時は、彼等自身の為に、また筆者自身の為に、気を付けている。何故か? 説明するまでもないだろう。中国は習近平に依って「恐ろしい国」に変質した。

●先月号で解説された「背景にある重要問題」に解決策はあるか?
 筆者の「構造的危機論」は本稿で何度か説明した。この「構造的危機」は、今も横に広がり、縦に深刻化している。此の「背景にある重要問題」は、「構造的危機」が引き起こした「数千の問題実例」のほんの僅かな数例に過ぎない。

 読者はこれ以上「暗い解説」を読みたくないであろう。ついては観点を変え、「背景にある重要問題」を如何に解決するか?
出典:問題と解決
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 此れについて日本の学者、識者など見解を交え且つ筆者の考え方も加えて、以下に順次、解説する。もし「前向きな話題」「明るい話題」に変換できれば幸いであるが?

●日本の人材への投資額は主要国で最低。この問題を如何に解決するか?
 日本の人材投資額を増やす確実な方法は、「投資で得られる効果が投資を上回ること」である。学者の見解を引用するまでもない。

 しかし「投資効率」を云々する前に、日本が人材投資で最低となった原因について筆者の見解を以下に述べたい。しかし述べながら正直、暗澹たる気持ちになる。今暫く、筆者の「暗い解説」を我慢して読んで欲しい。

その1 筆者の好意的な見解
  1. 1 政治、行政、司法、大学、企業などの指導者やその関係者達は、日本が過去に「人材投資」と其れに依る「人材育成」を熱心に実行し、数多くの成功を遂げた事を知らないため。
  2. 2 Japan as Number Oneと世界が日本の実力を当然視した評価とその背景を知らないため。
  3. 3 繰り返しになるが、日本を世界一の国に発展させた源泉は「優れた人材」であった事、その人材を育て第一線で活躍させた事、以上の為の「人材投資」と「人材育成」を当然の事として実施した事などを知らないため。
  4. 4 上記の「1」~「3」を知っていたが、人材投資と人材育成の重要性と必要性を忘れたため。
  5. 5 忘れていなければ、人材投資が投資に見合う効果を期待できないと思い込んだため。
  6. 6 忘れていなければ、実際に人材投資したが現実に期待する効果が無かった事を知ったため。
  7. 7 その他(割愛)

出典:好意的と非好意的な態度
出典:好意的と非好意的な態度
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その2 筆者の好意的でない見解
  1. 1 彼等は天然資源に乏しい日本で唯一無二の資源は「人間」である事を無視・軽視したため。
  2. 2 彼等は国際感覚に極めて乏しく、日本でしか生きられない連中であるため。
  3. 3 彼等は「平和ボケ」した「頭デッカチ」の「ひ弱」な連中であるため。
  4. 4 彼等は指導者に成り上がる巧妙な悪知恵に長けていた一方、彼等を陰で支援したクソ連中が居たため指導者になった。そんな彼等が人材投資と人材教育の重要性や必要性が分るはずがないため。
  5. 5 その他(割愛)

その3 人材育成指導者や経営コンサルタントに関わる問題
 「人材投資」をする企業は、人材育成会社や経営コンサル会社に「人材育成」の契約発注をする。契約受注した会社の人材育成指導員や経営コンサルタントは、当該会社で人材育成を行う。

 彼等は人材育成の場で厳しいシゴキ教育を避ける。労使関係、業務関係がないのに「パワハラ」と批判される事を恐れ、腫物に触る様な甘い、甘い育成をする。しかも彼等の中で夢工学が求める「夢・成功一貫達成」を成し遂げた人物は殆どいない。

 筆者の経営コンサルの経歴調査(個人的な調査+友人の協力調査)では、「夢・成功一貫達成者」は10~20%。彼らは既存事業の改善ではプロ。しかし新規事業の開発ではアマチャー。経営学者ドラッカーの説に立脚すると彼等は「半人前の経営者」に相当する。

 筆者は社員育成指導員の経歴調査はしていない。しかし経営コンサルと似た様な結果になるだろう。此れでは「本物の人材育成」は無理。従って人材投資効率はゼロに近づく。

その4 夢・成功一貫達成の真意
 「夢・成功一貫達成」とは何か? 本稿で何度も解説しているが、念の為、説明する。此れは、「夢」のゼロから新しい事業を構想し、企画し、建設し、新しい事業基盤(プラットフォーム)を完成させ(夢の実現)、その基盤で継続的な事業運営を成功(夢の成功)せるまで一貫して実行する事を云う。

出典 夢・成功一貫達成
出典 夢・成功一貫達成
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 「夢・成功一貫達成」こそが新規事業を成功させる事を意味する。既存の事業基盤の上で新しい商品、製品、サービスを実現し、成功させても、それは既存事業の改善の範疇に入る。新規事業の成功にはならない。例えばトヨタ自動車がEVを成功させても、新規事業を成功させた事にはならない。無責任な日本のジャーナリスト達がDX、DXと騒ぐのは論外としても、日本の多くの企業人だけでなく、学者、識者、経営コンサルまでがDXを誤解している。

 日本の企業の「国際競争力」が主要国どころか、競争相手になる非主要国を含め、「世界最低」になった最大の原因は、「夢・成功一貫達成」を成し遂げた実績があまりにも少ない為である。

その5 人材投資と人材育成に関して更に気になる事
 其れは、学者、識者、経営コンサルなどを含め、多くの日本人、特に企業人(社長&社員)がDX(Digital Transformation)を誤解している事である。

出典:yahoo.usa.com
出典:yahoo.usa.com
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 「本物のDX」でなく、「偽物のDX」を推進すると、「人材投資」と「人材育成」の「在り方」と「やり方」を誤った方向に向かわせる事になる。そしてDXの成功を期待できなくる。本号で書き切れない。次号で解説したい。

つづく

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