今月のひとこと
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 高級品を選ばない 

オンライン編集長 深谷 靖純 [プロフィール] :12月号

 東京の近郊、市川市にある大町自然観察園を訪れました。北総鉄道の大町駅から徒歩で5分と便利な場所にあるのですが、祝日(勤労感謝の日)だったにもかかわらず人出はまばらでゆったりと散策できます。ちょうど「もみじ鑑賞会」が開催されていて、普段は立ち入れない「もみじ山」が解放されていました。まだ、早かったようで今月(12月)が見頃かもしれません。また、この日は空振りでしたが渡り鳥を始め野生動物に出会うことも多く、1年ほど前には、水辺でタヌキが遊んでいました。狸に手を出すと噛まれて危険だとの掲示板が出ていましたので、まだ生き延びているのだとほっとしています。

大町自然観察園「もみじ山」

 一杯飲んでの帰宅電車寝落ち対策、比較的有効なのが気楽な読み物です。特に荒唐無稽な時代小説は眠気が吹き飛びます。そんな中、作者自身の蘊蓄自慢なのかと疑いたくなるような比較的盛り上がりのないシーンで、考えさせられる箇所がありました。
 蘊蓄はともかくとして、それは主人公が暗殺に使う弓を選ぶシーンです。標的は主人公が属する国の友好国の重役で、ばれないように近づいて確実に仕留めなければなりません。主人公は和弓の名手ですが、2メートル以上もある弓を持ち歩くと目立つので、弓は暗殺場所近くで調達せざるを得ません。協力者の武器庫の中から3本の弓を持ち出して、1本を選ぶことになりました。3本のうち1本は弓に弦をセットしたところで、弓自体にゆがみがあり使えないと判断しました。残る2本のうち1本は藤を巻き漆塗りにした「重藤の弓」と呼ばれる最高級品、もう1本は竹と木を張り合わせた普及品です。主人公が選んだのは、普及品の方でした。なぜ主人公は、重藤の弓ではなく普及品を選んだのでしょう。今回の暗殺に使うという目的に照らすと普及品の方が合っているのだと判断したからです。試射したところ、重藤の弓はさすがに素晴らしく、使い込めばより正確に的を射抜けるようになるとの感触がありました。しかしながら、使い込めばよくなるということは、良くないところがあるということです。普及品も的には当たったのですが、それ以上に精度が上がるとは見込めませんでした。しかしながら、的を外すような感触もありませんでした。主人公にとってのミッションは的を射抜くことではなく、確実に相手の命を奪うことです。暗殺失敗の確率をゼロに近づけるためには、ど真ん中でなくても的には当たる率が高い普及品でなければならなかったのです。
 現代に置き換えると、例えば特ダネ写真を撮るのに高級一眼レフのカメラではなくスマホを選ぶというようなことです。一眼レフだとターゲットの細かい表情まで写るかもしれませんが、あらゆる状況で素早いカメラ操作を行えるかの保証はありません。特殊な状況も考慮すると、普段から使い慣れたスマホの方が操作性に優れているといったことがあるのです。荒い写真になるかもしれませんが、ターゲットを写し損ねる率は低いはずです。
 日本の工業製品は高い品質が自慢で、故障も少なく機能も充実しています。しかしながら、時々、望まない性能を備えているなど過剰品質ではないかと思うことがあります。プロジェクトに参画していると、より高いレベルを追求したいと思うことがあります。そのこと自体は悪いことではないのですが、誰が望んでいるのか、単なる自己満足ではないのかなど確認しておくことも無駄ではないように思います。
以上

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