理事長コーナー
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プロジェクトマネジメントと私

PMAJ 理事長 加藤 亨 [プロフィール] :10月号

 「加藤さん、プロジェクトマネジメントの勉強会に参加しませんか?」と声をかけられたのは、C社全社を挙げて推進していた業務改革運動の、軽井沢合宿に参加した時のこと。もう、30年近く前のことになります。
 声を掛けてきたのは、その合宿でたまたま一緒のグループになったTさん。システムサービス部というサポート部門に所属していた私は、仕事柄、世話役のようなタイプに見えたので、声が掛けやすかったのかもしれません。
 新しもの好きの私は、特に躊躇することなく勉強会に参加することを決め、当時発行されたばかりのPMBOKの96年版を入手して、プロジェクトマネジメントを勉強することにしました。不思議なもので、それからの私の社会人人生は、「プロジェクトマネジメント」というキーワードを中心に回り始めることになります。
 勉強会に参加してすぐに、C社で「PMP資格取得者を、3年間で100人育成する」というプロジェクトが立ち上がり、勉強会メンバーがそのプロジェクトの事務局を務めることになりました。私も講師役としてC社の偉大なPMの方々を前にしてPMの講義をするなど、貴重な(冷や汗ものの)経験をさせてもらい、結局、このプロジェクトは、1998年に実施された日本で最初のPMP試験で、私も含めて100人以上の合格者を輩出し、成功裏に解散することになりました。
 私はその時の経験から、PMを普及したいという想いに駆られ、PMAJの前身の、JPMFのPMP試験対策講座の講師を務めるようになり、以来、20年以上にわたり、プロジェクトマネジメントに関する講師を務めてきました。そして、気がつけばPMAJの理事長という立場に立っていたということになりました。
 そういえば、C社に入社して最初に担当した業務も、ホストコンピューターのスケジュール管理ソフトを使って、C社が受注した中東のS国向け石油精製プラント建設プロジェクトのマスタースケジュールを策定するという業務でした。たぶん、日本で最初に、数千億円の実プロジェクトのスケジュール作成にコンピューターを使うというチャレンジングな試みだったと思います。私としては、大学のオペレーションズリサーチ(OR)の講義で学んだPERT/CPMの手法が、実際のビッグプロジェクトのスケジュール作成に使われている光景を目の当たりにして、「なんだかすごいことが起こっているな」と興奮していたのを思い出します。
 ただ、当時のコンピューターの能力は低く、4000枚程度のパンチカードに入力されたアクティビティを読み込ませると、計算結果が出てくるのは翌日の朝という状況で、結局、石油精製プロジェクトのスケジュールの確定まで半年程度掛かったと記憶しています。
 それから40年。今では、当たり前のようにパソコンの画面上にアクティビティを並べて、線で結べばスケジュールが出来てしまう世の中となり、本当に便利になったと思う反面、どんなロジックでこのスケジュールが出来上がっているのかを理解せずに結果だけを眺めているということで良いのだろうか、と感じます。
 2010年ごろに、エンジニアリング協会から「PM基礎コースの講師を担当してくれないか。」との依頼を受けました。そのころからそんな思いを抱いていた私は、ちょうどいい機会と思い、本当の基礎の基礎、CPMを使って自分でスケジュールを作る方法とか、簡単なプロジェクトにEVMを適用してコスト、スケジュールの状況を把握する方法とか、成果物品質とプロセス品質の違いとか、昔、私が習って、最近ではあまり教えなくなった本当の基礎知識や方法論の意味合いを盛り込んでカリキュラムを作って実施してみました。
 あまり受講者はいないだろうなと思いつつ開始したこのコースは、先月40回目を迎え、2010年に開始してから実に14年間続いたことになり、たぶん2000人以上のPMの実務家が受講されたのだと思います。
 「私は、人が成長することに貢献しています。」というのが私の人生のコミットメントですが、この基礎講座で学んだ皆さんが、その基礎知識の上に、自らの実践を積み上げて、大きく成長されていることを心から願っています。
 それと同時に、PMAJとしても、基礎を学ぶという事の重要性を広く伝えて行くような講座や講習を企画して行きたいと思います。

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