今月のひとこと
先号   次号

 丸善の早矢仕ライス 

オンライン編集長 深谷 靖純 [プロフィール] :10月号

 いつまで続くのだろうと言いあっていた暑さですが、朝などはだいぶ涼しさを感じるようになってきました。青々と茂って日陰を作っていた桜の葉にも黄色茶色が目立ち、掃除をしないと道が枯葉で埋まるようになってきました。雲が高い位置に見えるようになり、秋の空らしくもなってきました。いよいよ収穫の秋を迎えますが、全国各地を襲った異常気象の影響が心配されます。先月、ご近所の直売所からお手頃価格で入手した栗の実は大粒で甘味もしっかりありました。サンマもやや回復しているとの嬉しい報道もあります。秋の味覚で店頭が溢れるというところまではいかないかもしれませんが、小さい秋に出会えたら嬉しいでしょうね。

 書店の丸善(株式会社丸善ジュンク堂書店)は明治2年の創業だそうです。豊富な専門書籍以外にもセンスのいい文具や装身具が揃っており、見て回るだけでも楽しいのですが、店内の喫茶コーナー(マルゼンカフェ)で提供する「ハヤシライス」も有名です。
 1980年代頃は勤務地が丸善日本橋店に近かったこともあり、月に一度くらいは店を覘いていました。情報処理試験の参考書を入手したのも丸善でした。システムエンジニアに関する専門書籍がまだ少なくて探し回った覚えがあります。当時もハヤシライスが有名だということは知っていたのですが、食べないまま40年以上を過ごしてしまいました。やや高めの価格だったことや、書店のカフェでのお茶や食事が気障だという思い込みのようなものもあったためと思います。先月のことですが、偶々お昼時に日本橋界隈を訪れていた時にふと思いついてマルゼンカフェに立ち寄ることにしました。
 マルゼンカフェは日本橋店3階のフロアの奥にあります。テーブルの間隔が広いということでもありませんが、ゆったりとした感じがします。早速ハヤシライス(メニューには早矢仕ライスとなっていました)を注文し、購入したばかりの文庫本を取り出しました。隣の席では、昼食に来たらしい会社員風の3人連れが「これも有名ですよ。」などと編集子同様に丸善の有名メニューを探っている様子です。
 確かに味はよかったです。至高」でも「究極」でもありませんが、場所の雰囲気を邪魔しない味でした。書店の雰囲気を楽しみつつ食事も楽しめる、丸善のハヤシライスからは出しゃばらず美味しすぎずの「程よさ」が感じられます。マルゼンカフェでは、この「程よさ」を受け継ごうとしているのではないかと思います。
 実は、ハヤシライスを食べている時は別のことを思っていました、「ライス(ご飯)が柔らか過ぎるうえに旨味があまり感じられない。過去の高評価に胡坐をかいて改善に取組んでいないのではないか」とです。店を出た後に、誤解していたことに気づきました。さらに先日のPMシンポジウム2023で講演された司牡丹の竹村社長とお話している際に、大変失礼な誤解だったと気づかされました。竹村社長は「変わらぬ味を今に伝えるための工夫努力はとても大変で難しい」と仰っていました。マルゼンカフェの工夫努力を疑っていた訳で、大いに反省しています。ご飯の固さは食べる人の好みの問題ですし、酸味の効いたソースが掛かったご飯の旨味を切り分けられる人は希です。全くの言いがかりでした。店の方に何かを申し上げたわけではなく心の中で思っただけですが、申し訳ありません。お詫び申し上げます。
 酸味が効いたソースが苦手な方はハヤシライス以外のメニューを選べばいいので、まだ訪れたことのない方はぜひ一度お寄りください。サラリーマンのランチとしてはお手頃とはいえないかもしれませんが、プチ贅沢するにはお手頃だと思います。
以上

ページトップに戻る