例会部会
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『第286回例会』報告

中前 正 : 9月号

【データ】
開催日: 2023年7月28日(金)
テーマ: 「プログラムを成功に導くチェンジマネジメント」
~イノベーション、DXプログラムの障害を乗り越える実践的アプローチとは~
講師: イノベーションマネジメント株式会社 代表取締役社長
(チェンジマネジメントSIG 代表)
芝尾 芳昭 氏

◆ はじめに

ビジネスを取り巻く環境がめざましく変化する今日において、私たち各種プロジェクトに携わる個人やプロジェクト組織はその変化に対応していくことが求められます。しかし、いざ何かを変えようと思ってもなかなか上手くいかない、あるいはそもそも何をどのように変えれば良いのか分からない、といった状態に陥ってしまった経験のある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そこで今回の例会では、コンサルタントとして数多くの業務変革や組織変革をリードした経験を持ち、PMAJのチェンジマネジメントSIGでも変革プログラムの方法論の整備やノウハウの普及に努められている芝尾芳昭氏を講師にお招きし、「チェンジマネジメント」と言われる取り組みの意味合い・本質について、各種資料や実践事例などを交えながらご説明いただきました。以下、要点を抜粋して紹介します。

◆ 講演内容

1. チェンジマネジメントとは
縦割り組織へのプロジェクト制導入の意味合い
  垂直的な組織構造(縦割り)に水平的な業務(プロジェクト)を導入する変革においては、公式な権限の流れ(縦割り)から非公式な権限の流れ(プロジェクト)という大きなチェンジが生じる。この時多くの関係者の反感を買うことが多い。
  何でもそうだが、何かを大きく変えようとすると大きな反発が生じる。これをどう乗り越えていくかが重要なテーマである。

グローバルにおける認識
  チェンジマネジメントとは、組織を「ありのままの姿」から「あるべき姿(状態)」へと移行させ、期待するベネフィットを達成するための変革推進手法である。欧米では組織変革のディファクトスタンダードとして認識されている。
  日本では変更管理(Change Control)と混同されやすいが全く異なるものである。

チェンジマネジメントの重要成功要因
  Prosci社のレポートによると、下記の7項目がチェンジマネジメントを成功に導く重要な要因である。
  1. ① トップマネジメントの関与
  2. ② 適切なチェンジマネジメント方法論の適用
  3. ③ オープンで積極的なコミュニケーション
  4. ④ 現場関係者の積極的な参加
  5. ⑤ 十分なチェンジマネジメントリソースの投入
  6. ⑥ プロジェクトマネジメントとの統合
  7. ⑦ ミドルマネジャーへの積極的な関与と支援

2. チェンジマネジメントの必要性
時代の背景(大航海の時代)
  社会のグローバル化、複雑化が進む現代は、行き先が決まっておりレールを辿れば目的地に辿り着く「鉄道の時代」ではなく、ニーズが次々と変化する中で大海原を航海する「大航海の時代」である。
  「大航海の時代」では古いものにとって変わる新たなパラダイムが生まれる。このパラダイムを理解した戦い方が求められる。

プログラム文脈の中での存在感
  受注者と発注者のいるプロジェクトを受注者側の視点で見ると、プロジェクトの立ち上げ~計画~実行~終了という過程を経て成果物を生み出し納品するまでの活動ということになる。一方、発注者側の視点では、プロジェクトの前に構想を練る過程があり、プロジェクトの後に成果物を運用して利益を上げる過程がある。
  納品して終わりの世界ではチェンジマネジメントの有用性は見えてこない。納品の前後を問うプログラム文脈で見たときに存在感が出てくる。つまりプログラムマネジメントとの相性がいい。

3. 変革の実態
変革プロジェクトの促進・阻害要因
  ある調査によると、変革プロジェクトの促進要因の上位1~3位は「オーナーの十分な支援」「ステークホルダー対策」「従業員の積極的参加」となり、阻害要因の上位1~3位は「セクショナリズム」「情報システム機能の制限」「スキル不足」となった。つまり、変革内容よりもそれに関わる人や組織にどう対応するかが重要である。

4. 変革の推進
効果的な変革推進
  チェンジマネジメントは、ステークホルダーの抵抗や混乱を最小限に食い止めて協力を得ることにより、変革プロジェクトを成功に導くことを目的としている。

抵抗の意味合いを理解する
  人々は変化に対して抵抗するものである。
  「抵抗のピラミッド」では、その理由を下から「知らないから」「やりたくないから」「出来ないから」の3段で表現する。変革を推進するためにはそれぞれの理由に合わせたアプローチを行い、抵抗を最小化する必要がある。

計画的巻き込み
  「無関心」→「認知・関心」→「参加意識」→「当事者意識」というステップを踏むことによりステークホルダーを変革プロジェクトに巻き込む。
  多くの人は当初は変革に無関心であり、無関心のまま巻き込むと抵抗に遭いやすい。まずは関心を持ってもらうことが重要である。

体系的なコミュニケーション
  多くの人に関心を持ってもらい変革の受容性を高めるために各種コミュニケーション活動を体系的に行う。
  コミュニケーション活動の例として以下のものがある。これらに相当の時間を費やす。
  1. ◇ 「説明キャラバン」:活動の必要性をFace to Faceのコミュニケーションで説明する。
  2. ◇ 「トップレター&ホームページ」:活動周知用のホームページを用意。トップからのメッセージも載せる。
  3. ◇ 「オープンハウス」:説明パネルのようなものを設置してメッセージを発信する。
  4. ◇ 「研修、教育体制整備」:新プロセス移行時に混乱しないよう十分な研修・教育体制を整備する。

5. 組織カルチャーのPM成熟度への影響
PM成熟度モデル
  PM成熟度モデルは組織としてのPMの浸透・実践度を定量的に測定する指標であり、5段階の成熟度レベルで定義される。

組織カルチャー要因
  組織のカルチャーとは、その企業が長年積み重ねてきた価値観や考えであり、それに基づく行動の積み重ねであり、それが組織の暗黙の力となる。
  カルチャーを形成する要因には風土要因、価値要因、構造要因がある。これらが組織の行動基準や意思決定、さらには業績に影響を及ぼす。
  組織のカルチャーを直接変革することはできないが、カルチャー要因に対して手を打つことでその影響に変化を起こすことは可能である。

PM成熟度とカルチャー要因の相関
  製薬業界の各企業を対象に組織風土とPM成熟度の相関について調査したところ、2014年の調査では相関係数が0.77、2019年の調査では0.69となり、両者は強い相関関係にあることを確認した(相関係数は0.01で有意)。

組織環境調査カテゴリ別分析結果
  上記調査結果をさらに組織環境のカテゴリ別に分析したところ、PM成熟度の高い企業と低い企業の差に大きな影響を及ぼしたカルチャー要因として、「改善志向」や「リーダーシップ」(ともに風土要因)、「危機感」や「自由な風土」(ともに価値要因)といったソフト的な環境要素が挙げられる。
  一方、「責任権限」や「業績評価」(ともに構造要因)はさほど大きな影響がなかった。とはいえ、組織変革においてはハード、ソフト両面からの整備が必要である。

6. チェンジマネジメントSIG活動と成果
チェンジマネジメント方法論の体系化と成果物
  人の行動を変えるということについて体系化された理論は存在しないという認識に立ち、SIG活動を通じて「チェンジマネジメント方法論」と「変革に柔軟に対応できる組織モデル」の両面で体系化を推進した。

チェンジアジリティ成熟度モデル
  SIGでは、社内外の変化を捉えて変革・イノベーションを起こす活動を受容して推進する組織能力を「チェンジアジリティ」と定義し、その成熟度モデル、成熟度レベルを構築した。

※上記に加え、当日はチェンジアジリティ成熟度調査結果も紹介されました。詳しくは開催資料をご確認ください。またチェンジマネジメントSIGの活動紹介ページもご参照ください。

◆ 講演を聞き終えて
変化の激しいこの時代。私の身の回りでも、ビジネスに関する知識や仕事の進め方、あるいはビジネスマインドの持ち様など、何かとアップデートやブラッシュアップを求められることが増えてきました。変化を拒んで生きていくのはなかなか難しい時代になってきたと言えるかもしれません。

そんな中で当講演を聞くことができ、変化の必要性を理解して受け入れ、変革を実践していくことが自分や組織にとって大きな実りになるということに気付かされました。今後、革新的なプロジェクトやプログラムマネジメントに携わる際はぜひチェンジマネジメントの発想や手法を一部でも取り入れてみたいと思います。

当日参加された皆さま、何かヒントになることはありましたか。
例会では今後もプログラムマネジャーやプロジェクトマネジャーにとって有益な情報を提供してまいります。引き続きご期待ください。

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