例会部会
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第285回例会報告

宮下 真 : 8月号

【データ】
開催日時: 2023年6月23日(金) 19:00~20:30
テーマ: 「群馬県みどり市の地域創生への挑戦」~交流人口増加を定住に繋げる取組み~

講師: 須藤 昭男 氏/群馬県みどり市 市長

今回の例会では、群馬県みどり市の現役市長、須藤昭男様にみどり市の紹介とともに、人口減少、少子高齢化の中での地域創生へ向けた、魅力づくりの取り組みについてご講演いただきました。

【講演概要】
みどり市の紹介
群馬県の東部に位置し、栃木県日光市を源とする渡良瀬川が流れ、栃木県日光市、群馬県桐生市、太田市、伊勢崎市などと隣接しており、総面積のうち約8割を森林が占める。
東京からは100km圏内で浅草からは東武鉄道特急で乗り換えなしで市内の赤城駅まで行き来ができる。
平成の大合併で2町1村が合併して誕生した群馬県で一番新しい市で、誕生から17年目となる。

みどり市の人口
合併前の平成7年までは人口は増加、その後もゆるやかな増加状況にあったが、平成18年以降は人口減少に転じており、合併時5万人強の人口は現在49,000人へと減少している。このままの状況での推計人口では、2045年には38,000人まで減少するとの予測が示されている。
市内の地区別では、市南部に位置する笠懸地区は人口増加しており、生産人口も年少人口の割合が高い。大間々地区は平成2年以降減少傾向が続き、60代後半~70代前半がもっとも多い。北部の東地区は人口減少率が10%となっており、高齢化率も51%を超え、持続可能な地域づくりが求められている。

みどり市のいいところ
わたらせ渓谷鐡道
足尾銅山があったときの足尾線を第3セクターで運営しており、トロッコ列車、ディーゼル機関車が鉄道ファンに人気が高く、休日にはカメラ愛好家も多く訪れる。
岩宿遺跡
岩宿遺跡は、昭和21年に相沢忠洋氏が発見した遺跡であり、その後の明治大学による発掘調査で、それまでは縄文時代からと言われた日本の人類の存在が旧石器時代からであることを証明した、日本の歴史を塗り替えた遺跡である。
ながめ余興場
昭和12年(1937年)に建てられた回り舞台、花道もある本格的劇場で昭和30年代に非常に賑わっていた。市の重要文化財に指定されており、公演のないときには見学もでき、花道、回り舞台、奈落の底などを体験できる。
富弘美術館
みどり市の北部、草木湖畔に面しており、24歳で手足の自由を失った星野富弘氏が口で筆を咥えて描いた絵と詩が展示されている。作品には素朴で美しい詩と透明感ある水彩画が調和し、命の大切さ、生きる大切さを感じられる。
小平の里
「自然と人とのふれあいの里」をテーマとしており、憩いと安らぎを体験するみどり豊かな場として、キャンプ場、鍾乳洞、親水公園を中心に様々な体験ができる複合観光施設である。
草木湖
渡良瀬川の上流に位置し、湖畔は桜、花桃、新緑、紅葉など四季の美しさが楽しめる。カヌー、SUPなど水上のアクティビティーも楽しめる。
ひまわり畑
笠懸町吹上地区にあり、種蒔きの時期などの調整により、10月に20万本のひまわりが満開を迎え、ひまわり花畑まつりも開催される。
カタクリ群生地
毎年3月下旬から4月上旬にかけて可憐な薄紫の花を咲かせる。岩宿遺跡がある稲荷山の北斜面一帯が保護地域にもなっており、2.4haにおよぶ関東地方でも有数な規模の群生地となっている。
小夜戸・大畑花桃街道
北部東地区の地元の人々が30年以上かけて育てた花桃が4月上旬から中旬にかけて2kmに渡って咲き誇る様子は現代の桃源郷とも言われている。
小中大滝
駐車場から少し歩いて、最大傾斜44%のけさかけ橋を渡って辿り着く、落差96mの景色の素晴らしい滝で、特に紅葉、新緑の季節の景色が楽しめる。
鹿田山フットパス
ひまわり畑、岩宿遺跡からほど近い丘陵地で、里山ハイキングを楽しむことができ、全長4kmのフットパス(歩道)は、ウッドチップを敷き詰められている。群馬県を代表する赤城山の眺めも楽しめる。

4つの重点取組
みどり市の総合計画として位置付けたみどり市の魅力づくりの4つの取り組みを紹介する。
移住/定住
人口減少対策についてはみどり市の最重要課題と位置付けており、市民には住み続けたい、市外の人には訪れてみたいと感じていただける魅力あるまちづくりを目指して、移住/定住を推進して行く。
豊かな自然環境、東京からのアクセスの良さ、地域の魅力の発信により、交流人口、移住者の増加に努めていく。
子育て環境の充実
18歳以下のすべての子供の医療費を無料化し、一定条件を満たす移住者には、世帯あたり100万円に加え、子供3人まで1人あたり100万円の移住支援金を交付する。
魅力の発信
移住情報誌TURNSのプロデューサーである堀口氏をアドバイザーとして迎え、事業戦略を策定中である。
住環境の向上
空き家の利用促進、まちのまとまりの形成などで、住みやすい、暮らしやすいまちを目指して、地域に合わせたまちづくりを行う。
協働まちづくり
企業や市民との協働推進
市と連携する企業、団体との包括協定によるWin-Winの関係構築など、市民、団体、企業、大学と連携し、協働をしながら、持続可能なまちづくりを進めていく。
公民連携による観光まちづくり
市の観光課から独立した観光協会の設置による観光施策の展開、空き家、空き店舗などの遊休不動産を有効活用するリノベーションまちづくりにより、民間の活力を導入して、まちづくりを加速していく。
企業誘致の推進
群馬県企業局から新規産業団地の候補地としてみどり市が選定され、早期事業化に取り組むとともに、産・官・金・農の連携を図っての企業誘致をして行きたい。
5つのゼロ宣言
2050年の宣言達成に向けてロードマップを作成して5つのゼロに取り組んでいる。
自然災害による死者ゼロ
温室効果ガス排出量ゼロ
災害時の停電ゼロ
プラスチックごみゼロ
食品ロスゼロ
デジタル推進
市民生活の利便性向上、地域の活性化、行政の効率化・省力化を図るため、デジタル化を推進する。
デジタル技術を活用した業務改革
デジタル格差対策
マイナンバーカードの利活用

魅力づくりに向けた今後の取り組み
地域おこし協力隊の活用
総務省の制度を活用して、都市部からの人材を地域おこし協力隊として委嘱、3年間の任期で地域産業の担い手、生活支援といった地域の協力活動を通して、現在は10名の現役隊員が移住/定住を目指している。これまでの任期終了者の定住率は96%であり、群馬県のトップクラスとなっている。
安心して子供を育てられる環境づくり
高校生世代までの医療費無料化、義務教育学校生徒の給食費無料化、博物館・美術館のフリーパスポート配布、生まれた子供へのみどり市産木材の積み木プレゼント、イングリッシュサマーキャンプによる英語能力向上などを行っている。
産業団地整備と企業誘致推進による雇用の場と税収の確保
移住、子育ての支援だけでは一過性のものになってしまうため、長い間住み続けるための雇用の確保、税収の確保に取り組んで行く。
また、関東地方に2つしかない世界遺産である日光の社寺と富岡製糸場を結び、その間に位置するみどり市を含めてゴールデンルート名づけ、インバウンド含めた観光客誘致に向けても広報等に取り組んでいく。
森林資源の循環利用と木質バイオマスの利用促進
豊富な森林資源を資材として如何に市場に回していけるかのサプライチェーンの改善、ペレット燃料の生産強化、ペレットストーブ、薪ストーブの利用促進にも力を入れている。
ジビエの利活用
原子力災害以降、野生鳥獣の食肉の出荷制限により、野生鳥獣が増え被害も多くなっているため、出荷制限の一部解除を目指して群馬県と調整中であり、野生鳥獣を地域資源として捉えてジビエの流通、商品化を目指す。
教育環境の整備
人口が増えている笠懸地域には小学校を新設、みどり市産木材を利用した校舎、LEDの採用、電子黒板の活用などの教育環境を整備し、子供が減っている北部では、小中一貫教育、ネイティブスピーカーによる英語教育、市内全域からの通学許可、わたらせ渓谷鐡道定期券補助などを行っている。
岩宿博物館改修、情報発信
3年後の2026年に岩宿遺跡発掘80周年、みどり市誕生20周年を迎えるため、記念イベントの開催を予定している。
花輪小学校リニューアル
日本鋼管(現JFEホールディングス)創設者の今泉嘉一郎氏、童謡「うさぎとかめ」等の作詞家である石原和三郎氏が育った地元である東地区の旧花輪小学校記念館のリニューアルを行い、展示内容の充実、集客を図るイベント開催などを行っていく。
大間々祇園まつり400年祭
2029年の400年祭に向けて、景観の整備・保全、伝統文化の継承などを行っていく。
ボートレース桐生のパーク化
売り上げ好調であるがネットでの舟券購入が主であるボートレース桐生をパーク化することで来場促進を図り、飲食店などの地域事業の利用へと繋げる。

最後に
財政状況は非常に厳しい中ではあるが、みどり市としては選択と集中を行いながら、予算編成、交流人口の増加、定住に繋げる取り組みをしている。
市外から移住/定住する方、子育てをする方、サテライトオフィスなどを検討中の企業の方について、これから様々な支援を用意していきたいと考えている。
興味を持たれた方には、個別に具体的な説明もさせていただくので、地域創生課に連絡をいただきたい。

【所感】
平成の大合併で誕生したみどり市は、一般的には周辺の桐生市、伊勢崎市、太田市、日光市に比べて認知度は低いと思いますが、講演前半で見どころとなるスポットを紹介いただき、受講者にとってのみどり市の現在の魅力を含めての理解度は向上したのではないかと思います。
4つの重点取組からは、①移住/定住を推進し、②移住/定住者がその後に暮らし続けるために協働・連携・誘致によるまちづくりを行い、③先々の持続的社会のために5つのゼロを目指すという流れ、④これらの取り組みを迅速かつ効率的に進めて行く手段、下支えとしてのデジタル化という関連性がある取組のように感じられました。
魅力づくりに向けた今後の取組は、重点取組に比べてより具体化されたもので、雇用の確保とともに行政としての税収確保、森林資源、木質バイオマスの利用と事業推進、ジビエの地域資源としての商品化、人口の増加地域・減少地域それぞれに合った教育環境の整備など、地域創生で一般的に考えられる施策から踏み込んだみどり市の状況、特色に合わせた取組であると感じました。

プロジェクトマネジメントの観点からは、今回紹介いただいた取組を体制、管理、調整など含めてどのように実行していくかが成否を左右する要因でもあるので、みどり市の今後の取組の実行・進捗状況、成果を共有いただければ、他の地域にとっても参考になるのではないかと考えております。
日本全体の共通的課題である人口減少、少子高齢化に対して、みどり市のこれらの取組が有効な成果をもたらすかは現時点では推し量れませんが、みどり市の「挑戦」を応援し、今後の状況を注視していきたいと思います。

須藤市長には公務でお忙しい中、群馬から東京のPMAJ講演会場まで移動、日帰りでご講演いただき、心より感謝を申し上げます。
以上

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