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リスキリングする力

井上 多恵子 [プロフィール] :8月号

 「日本人の社外学習は、世界の中でも突出して低い。」6月8日に開催されたエール(株)主催の『リスキリングと「聴く」』で聞いて、驚いた。パーソル総合研究所の方の講演で、同研究所の2022年度の調査によると、就業している人のうち、社外学習を何も行っていない日本人の数は50%を超えているという。それと比較すると、インド人で社外学習を何も行っていない数は、3.2%しかないらしい。確かに、仕事を通じて私が接してきたインド人は、学ぶことに対して、貪欲だった。それにしても、この差は大きすぎる。
 7月21日付日本経済新聞にも、「リスキリング 50代は一割」という見出しの記事が掲載されていた。学ばない理由として、「そのまま定年までいけるから。」などが挙がったとして、「年を重ねるほど、新たなスキルや知識を学ぶ意欲は薄れがちだ。」と記事には書かれている。一般的には、そうかもしれない。でも、私自身の経験を振り返ると、違う世界が見えてくる。学ぶための動機がしっかりしていれば、シニアになっても、学び続けることは可能だ。
 私が本当の意味で学ぶことに目覚めたのは、30代後半になってからだった。大学受験は頑張ったものの、大学入学後は遊び中心。入社後、20代前半こそは「いろいろ学ばなきゃ」と通信教育で少し学んだものの、30代は、ほとんど遊びほうけていた。会社で自分の強みを見いだせず、何を軸に会社生活を進めていったらいいかわからず、その日その日が楽しければいいと思っていた。
 そんな私が変わったきっかけは、父親の仕事を手伝ったこと。父親は、転職や留学を希望する方々に対して、英文履歴書の作成や面談の指導をするサービスをレジュメプロとして提供していた。自分の強みを活かして提供したサービスを顧客が喜んでくれることが嬉しくて、私はのめり込んでいった。より質が高いサービスを届けたくて、関連する学びに貪欲になっていった。その転換点をきっかけに、会社の仕事でも人材育成にかじを切り、コーチングの資格も取った。私が関わる人々により良い学びを届けることができるということが強い動機付けとなり、日々学び続けるようになった。今も、毎日学んでいる。
 学ぶ動機さえ強固であれば、今は、YouTubeをはじめ、無料の材料も含めて、容易に学ぶことができる。可能な限り仕事を続けたい、と思っている私は、独り立ちした今の方が、学びに貪欲だ。デジタル系には弱く、できることなら触らずに済ませたいと思っている私も、Chat GPTは、試している。新しいツールを使いこなすためのリスキリングをしないと、継続して仕事をもらうことが難しくなるかも、という危機感があるからだ。
 中高年が学ばない理由として、前述した記事は、「中高年向け研修は不足」と書いている。しかし、学ぶ材料は既にたくさん提供されている中、研修の数自体が問題なのではないと思う。研修の数をいくら増やしても、本人が取り組もうと思えるものでないと、効果は薄い。ましてや、「やりっぱなし」で、実践的でない研修も多い。実践で使えないもののために、多くの時間をかけても、研修事務局の実績づくりや、「受講生の学んだ気がする」満足感だけに寄与することになりかねない。私が以前受講した欧州の研修は、そういった効果が少ない研修を問題視し、ビジネスの結果に繋がる研修の作り方を指南していた。研修を受講した結果、何ができるようになっていて欲しいのか、どう行動が変わって欲しいのか、そこから設計する。私が企画提供している研修もできるだけ、実践を意識したものにしている。
 国もリスキリングを促進すべく、検討を始めているようだ。でも、このコラムを読んでいる方には、前述した私の経験も踏まえて、勧めたい。国や勤務先の施策を待つのではなく、自分自身のために、自ら前のめりに、リスキリングをしたらどうかと。自分ができるだけイキイキと働けることを見つける。それが、今のスキルでできて、これから先も仕事して存在しそうなら、今のままでもいい。しかし、もし、そうでないなら、自分の未来に役立ちそうなものを探す。一人で探せなかったら、コーチや知人など、人の力を借りればいい。
 以外なものも、リスキリングの対象になる。例えば、私が昨年上梓した「グローバルxAI翻訳時代の新 日本語練習帳」は、Yahoo Newsで「英語学習のために、日本語をリスキリングするための本」として紹介された。日本語で考えた文を英訳している人たちが、より意図が伝わる英文を書くための方法。それは、日本語をわかりやすく書くことと、いうのが伝えたかったことだ。プロジェクトを円滑に進めるために、コミュニケーション力の向上は、不可欠だ。日本語をグローバル仕様にするリスキリング。英語力の向上だけでなく、日本語でのコミュニケーションも誤解を減らすことができるようになる。良かったら、チャレンジしてみてください。

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