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偵察衛星は自動車のナンバープレートを読める?

PMマイスター 長谷川 義幸 [プロフィール] :8月号

〇ウクライナでの偵察衛星活躍
図1.偵察衛星が撮影したロシア軍の戦車や兵隊の動き  連日報道されるウクライナ情勢で、ロシア軍の戦車や兵隊の動き(図1)、建物の損傷、ダムの詳細な破壊状況など戦争の動きが衛星画像により説明されている。
 ウクライナの首都近郊で多数の遺体が発見された時も、メディアが衛星画像を分析することで虐殺を否定するロシア政府のウソを見抜いた。
 ウクライナは西側の衛星画像を元に戦況を有利に進めようとしている。
 戦術偵察衛星の目的は、偵察部隊を出す代わりに、リアルタイムに入手できる偵察衛星からの画像データを元に、個々の戦闘現場での作戦立案に使用し迅速な戦闘をサポートする事である。
 今回は、最近話題になっている偵察衛星について公開されている情報から、衛星から地上の様子がどこまで見えているのかまとめてみた。

〇アメリカの偵察衛星の性能 (*1) (*2)
 東西冷戦中、鉄のカーテンに阻まれて見えなかったソ連の軍事力や物資貯蔵拠点などを把握することは米国の最優先課題だった。2万個もの核弾頭をお互いに向けあっていたので当然だった。
 これらの事を主目的に米国は、宇宙から画像撮影に多くの人と時間と膨大な費用を投じてきた。観測気球や偵察航空機の開発・運用、宇宙望遠鏡や偵察衛星の開発などである。
 特に、偵察衛星については、北極と南極上空を通過する軌道を1日に16周する位置に打上、地球の自転を利用し、すべての地表を観測できようにした。ただ、希望の時間に狙った場所を撮影するためには、多くの偵察衛星を上げて配置する必要がある。
 このように、地上の偵察では不可能だった衛星画像の取得のため、近年では米軍は、ロッキード・マーティン社、ボーイング社、マイクロソフト社などの米国を代表する企業群が共同企業体を設立させ、開発と運用を促進していると伝えられている。
 この計画されているシステムでは偵察衛星の撮影情報を、米軍司令部だけでなく前線基地の兵士一人ひとりの専用端末までリアルタイムで届け活用できるようになっている。

〇偵察衛星の解像度~車のナンバープレートは見える?~
 軍事目的の偵察衛星の性能やどこを飛行するかは秘密にされていて、実際の性能はわからないが、我々に息をのむような非常に遠い宇宙の姿を次々に見せてくれるハッブル宇宙望遠鏡(図2)の元の技術は偵察衛星なので、そこから推察できる。
 両者は光学観測を行う点は同じで、違いは衛星が宇宙を向いているか、地上を向いているかである。
 ハッブル宇宙望遠鏡は80年代に建造され、1990年に打ち上げられたが、この望遠鏡と同じサイズで形状が似ている「ケナンプログラム」の偵察衛星KH-11(キーホール:鍵穴)ではないかと言われている。
図2.ハッブル宇宙望遠鏡  このプログラムは、1976年から1990年に15機打ち上げられており、解像度は約15cmとされている。
 このKH偵察衛星シリーズでは総重量20トン以上もの巨体を、必要に応じて500km~600kmの通常の軌道高度から150kmまで降りてきて撮影を行なう事で、自動車一台一台のナンバープレートを読みとることができる解像度10cm以下という世界最高レベルの解像度まで引き上げることも可能とされている。
 しかし、衛星の寿命は数年間であるので、定期的に衛星を打ち上げて偵察機能を維持している。
 画像の解像度だけでは、実際使用する画像の鮮明度を確保するには十分でなく、アメリカでは別な衛星や偵察航空機との組み合わせで精度を高めている。
 例えば、ウクライナでのロシア司令部や弾薬庫の位置特定は、ロシア司令部がたくさんの命令を無線で出すので、電波傍受をするSIGINT衛星でおおまかな位置を特定、同時に司令内容を解読して、偵察衛星で正確な位置を割り出し、ハイマースと連携して射撃する形をとっているようだ。アメリカは、20機以上のSIGINT衛星()を多数保有しているといわれる。
 ※SIGINT衛星(Signal Intelligence):地上から発せられる電波の情報を宇宙空間で受信・保管、地上に情報を送信する。

 さらに、情報分析は地上の偵察情報解析チームが行うので、訓練や経験によって解析・識別の能力が向上する。つまり、地上での解析チームの能力が向上すれば宇宙空間の衛星が変わらなくてもより価値の高い情報が得られる。
 また、近年、技術の進歩とともに地球観測衛星を打ち上げ、衛星画像を販売しているアメリカの民間企業が増えているが、その解像度も相当なものになっている。報道機関でよく見かける衛星画像世界最大のアメリカMaxar Technologiesの画像。ロシアの軍事侵攻が始まってから、報道機関から一日に200件ほどの画像提供依頼を受けているといわれる。

〇日本の状況 (*3)
 では、日本の偵察衛星の性能はどのくらいなのだろうか? 北朝鮮がミサイルを発射しているがこれらの情報はアメリカから提供を受けているのが現状である。
 独自の情報を入手するため日本は、2003年から打ち上げ始めた。最初の衛星の解像度は公称で、光学衛星が1m、レーダー衛星が1~3mで性能はまだまだだったが、2020年11月に打ち上げた最新の光学衛星「光学衛星7号機」は解像度30cm以上。さらに2023年度に打ち上げ予定の「光学衛星8号機」は解像度25cm以上と報道されている。
 性能的には、世界のトップクラスになってきたが、国の方針でSIGINT衛星(電波傍受衛星)を日本は保有していないので、米国のような運用はできない。

 国家安全保障の手段としての衛星画像の利用は、宇宙の衛星、航空機偵察、地上解析グループの総合的な技術開発のプロジェクトが統合して本来の目的にかなうものになる。これを成功させるには、多くのプロジェクトを総合的にマネジメントが出来る、プログラムマネジメントが必要となる。

【参考文献】
*1 「米国の偵察衛星。その進化の歴史」、GIZMOD、2013.5.1
*2  リンクはこちら
*3 偵察衛星 - Profilbaru.Com

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