グローバルフォーラム
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「グローバルPMへの窓」(第171回)
ナレッジ基軸のプロジェクトマネジメント (Knowledge-based Project Management)

グローバルPMアナリスト  田中 弘 [プロフィール] :6月号

 広島G7サミットが無事終了した。岸田首相が作られた外交の「場」が立派に、華やかに機能した。参加首脳にとって近年稀なる質の高いG7サミットであり、日本の世界での信用は明らかに上がったと思う。岸田首相は永年外務大臣を務められたが、その経験が実によく表れていた。首相の決断力も感動的であった。
 なぜ広島で開催か、決議に実効性があるのか(玉虫色)との声もあるが、国際会議とはこのようなものだと理解している。外交は事務方の根強い折衝の結果で成果がでるものである。

 レベルは異なるが、世界のプロジェクトマネジメント界にも1995年から2005年まで、Global Project Management Forum (GPMF)という、この世界でのサミット・フォーラムがあった。筆者は6人のGPMF理事の一人(東アジア、東南アジア代表)であり、第三代目にして最後のチェアであった。
 GPMFは、PMI、IPMA(当時60ヵ国で構成)、JPMF(PMAJの前身)、AIPM(オーストラリア:現在はIPMA加盟)が母体であり、毎年PMI北米世界大会、IPMA世界大会、JPMF世界大会(2001年)のいずれかに併設で年次大会を開催していた。年次大会では、1)IPMA参加各国協会やアジアの独立系協会を含めて、参加協会の活動状況・ビジョン・課題(カントリーリポート)、2)PMスタンダードの共通化や資格の互換性、3)世界PM成長のための共通タスク、などの提言をまとめていた。各々の大会の場では、それなりに盛り上がったが、とどのつまり、GPMFはバーチャル・サミット機構であり、事務局も予算もなかったため、チェアも理事も年次大会の場以外では動ける余力がなく、年次大会での提言は、単なる「七夕の誓い」となっていた。外交は事務方の努力の積み上げがなく、各協会がアドバルーンを上げる場となったこと、そして、PMIとIPMAの各々のグローバル化が進んだためシェークハンド的な機構は最早不要とし、筆者がチェアである2006年に、GPMFの終結を宣言した。

 G7サミットではウクライナのゼレンスキー大統領の招待参加が急遽決まり、サミットはあたかもゼレンスキー劇場と化した感がある。
 ゼレンスキー大統領が広島に着いた5月20日の一週間前の5月12日に、ウクライナでウクライナ・プロジェクトマネジメント協会(IPMA-UPMA)の年次大会があった。戦時中であり、大会はオンライン開催であったが、冒頭の全体セッションには、恒例で、田中弘の10分間の基調講演枠があるため、ビデオ参加をした。大会のテーマは「戦後復興におけるプロジェクトマネジメントの役割」であったが、このテーマについては、昨年までに2度ほど発表を行っているため、当方メッセージとしては、日本政府のウクライナ支援は続き、当面JICAが窓口になって種々の支援策が展開されていることを述べたうえで、Knowledge-based Project Management というテーマで10分近い話をした。
 ナレッジベースのPMというと、グローバルPMスタンダードの知識に基づくPMととられそうだが、そうではない、むしろ逆で、PMプロセスではなく、プラグマティック・ナレッジと位置付けられるPMの対象のマネジメントが重要という話である。
 プラグマティック・ナレッジとは、文化人類学の大家Geert Hofstede(2001)等が唱える、長期的な社会価値志向に基づく知識系である。
 
Knowledge-based Project Managementというテーマで10分間の基調講演

Platform of Knowledge-based Project Management

 この図は筆者が講演で使ったナレッジ・ベースト・プロジェクトマネジメントを説明したチャートである。
 青線の軸はPMのハードナレッジで、緑線はプラグマティック・ナレッジを、そして黄線の軸はナレッジ共創(野中1995)が起こる「場」の理論を示したものである。ハードナレッジとプラグマティック・ナレッジの各軸には筆者の観察に基づくPM成功に寄与するインパクトを示した。
 まず、ハードナレッジ、つまりPM理論をなす直接のナレッジは、源流であるシステム理論と、システム理論を元にプロジェクトマネジメントの体系化をしたグローバルPM標準などに所与のPMプロセスで成り立つが、筆者の見解では、広い業界で再現性の高さを基に評価すればシステム理論の基本を理解することが成功へのインパクトが高い。理由は、PMプロセスでは、何故の説明がなく、また、プロジェクト全体を纏めるという視点より、スコープ、タイ?など縦割りで深堀りを行っているので、判断力が十分に備わっていない実践者にはポイントが絞りにくく、無用な努力を強いている可能性が高いからである。
 プラグマティック・ナレッジでは、最初に、一番下の緑線軸である、当該プロジェクトの業界知識がなにより重要である。かつて、PMの理論と実践は業界を越えて普遍であるという論がグローバルPM協会筋で打ち上げられたが、筆者は40年近く、種々の国の、種々の業種の人にPMを教えているが、決してそうは思わない。
 次に、現在のように変化が激しくディスラプション(非連続性)が支配する世界では、知識の理論や知識科学、つまり知識がどのように作られ、どのように知識結合をすると価値が生まれるかについて初歩的でも知識があると良い。さらに、現在の主流である、第三次産業でイノベーションを起こそうというプロジェクトでは、企業文化価値理論が役に立つ。実際、筆者は中国の大きなホテルチェーンの副社長であった学生のフランス博士課程での研究の理論フレームの一つにこの理論を使った。
 
 そして、場の理論は、プロジェクトでWin-winの関係を築く、あるいは、現在盛んに行われているビジネス・エコシステム構築、さらには国際間のストラテジック・トラスト(戦略的信頼関係)の構築に役に立つ。
 
 ウクライナの首都キーウでは、5月末現在毎日のようにロシアによるミサイル攻撃が繰りかえされている。それでも、年次大会をきちんと開催するし、学者は、きちんと発表を行う。
 
 そうしたウクライナに対する日本の支援も形が見えてきた。2021年にゼレンスキー大統領が日本の国会向けにオンライン講演を行った際、日本は、問題解決に戦略的リーダーシップをとってほしいと述べられた。そして、G7出席を果たしたゼレンスキー大統領は、岸田首相と日本に大きな謝意を表明された。 💛💛💛

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