PMプロの知恵コーナー
先号   次号

ゼネラルなプロ (152) (リスクマネジメントと失敗の構図)

向後 忠明 [プロフィール] :6月号

今月号はプロジェクト管理面からのリスク対応について説明します。

3 )プロジェクト実行管理関係
 a ) スケジュール表もしくはスケジュ―ル管理不在(または不明確なスケジュール)

プロマネ又は上長による計画書作成時点での審査・検証。
(PJ規模・複雑さによって審査レベルを上げる)

D
 b ) 工程・納期遅れ

上記の対策と進捗管理の徹底。なお、リスク源の帰着点はスケジュール遅れとコストに来る。
拠って、対応策はリスク源全ての対応が必要。

D
 c ) 仕様上の不明確な機能追 加とそれによるコスト増加

契約時の変更条件の設定内容による。もし、この設定がされていなければその都度交渉となる。(変更管理、課題管理の徹底)

B&D
 d ) 顧客要求レベルの把握不十分による要求仕様内容の増大

新規案件又は新規顧客のケースに発生する。
PJの特性に合わせた人材のアサイン。
いなければ外部からアウトソース

  1. ①基本要件固まるまで実費精算契約にてプロジェクト実行
  2. ②契約に要求仕様内容を規定し、変更条件に組み入れる。

A&D
 e ) 不良品による品質低下と納期遅れ(試験、テストが長引く)

工場及び受入検査の実行(早期検査、早期不良発見)(重要又は要注意品目またはプログラムの各試験・検査又は受入試験には自社技術社員が直接立ち会う

D
 f )

 g )
物品又はサービスの納期遅れ

不適切な供給者の選定

供給社作業の進捗管理(自社スケジュールと供給社スケジュールのインターフェース

チェックISOに従った購買業務。(実績データの蓄積及び適格な供給者リストの作成が基本)

D

D
 h ) コストオーバーラン

コスト-予実管理をスケジュール線表に合わせ作成し、コスト支出監理する。本件はb)と同様で対応策はリスク源すべての対応による

D
 i ) PJの中止/停止

契約書における条項チェック(自社事由による/停止条項及び条件の確認)

B
 j ) 下請けまたは機材供給社の業務不履行

  • パーフォーマンスボンド(履行保証)を積むことの義務付け
  • 留保金の没収または延伸の条件の設定

C
 k ) 同一事業での不適合発生

原因の除去と是正処置そして同一事象の分析と周知とその対応(機器材又は業者による不適合の改善命令そして業者リストの再検討、自社能力の問題ら人材リソースの確保(アウトソース)

D
 l ) コミュニケーション不足によるクレーム及び不適合

  • 顧客窓口の一元化と明確な責務と責任を持たせた役割分担と適切な報告手順
  • ISO9000に従った記録の作成と顧客との密なコミュニケーション(特に正確な確認事項に基く要件定義、適正な人材配置による設計レビューそしてPM又はスタッフと顧客とのフェースtoフェースのコミュニケーション)
  • 課題管理表の作成と処理手順の確立

D
 m) 下請け業者のコントロール能力不足

  • 調達仕様書にて明確な要求と指示事項の明示 (例:執務場所の指定、コミュニケーション手順の提示、定期会議の励行等)
  • 定期的な外部リソースの確保とレビュー、検査・試験体制及びレポートの提出。
  • 設計図書類の精度・内容・レベルの向上
  • 各種手順書の充実(コミュニケーション手順、検査・試験手順)

D

4 )プロジェクトの完了関係
 a ) 機能不備、蓄積バグの発生、他システムとのインターフェース等々の所定の性能不達成による検収不調、それに伴うスケジュール及びコストオーバー

検収項目よりレベルの高い項目設定による信頼のおける自主検査と検収体制作り(尚、PJ実行中における技術的信頼度の醸成も重要)

D
 b ) 環境条件を考慮しない仕様による機器の動作不良及びパーフォーマンス不足

供給者に対する要求仕様に耐候(温度、湿度等)の試験、運搬、保存に関する項目を記述する。

D
 c ) 瑕疵期間以降の保守契約の不備もしくは無視。(高額な保守費用及びスペア-パーツの購入を余儀なくされる)

顧客要求が無ければ問題無いが、要求あった場合はPJ機材又はサービス購入時に、引合い・契約をしておく。(後では競争原理が働かない。コスト増加の原因となる。)

B
 d ) 完了条件不備に拠るPJ完了の引き伸ばし。(コスト増加の原因)

基本的には契約関係における検討事項であるが、下記を確認

  1. ①検収条件
  2. ②設備管理責任移行条件
  3. ③保証期間の開始
  4. ④パーフォーマンスボンドがあればその抹消条件等

B

5 )顧客の責任関係
 a ) 顧客の支払い不能/代金債務不履行

提案時における与信調査及び契約時における代金 前払い(全額無理なら、頭金)。支払い遅延の事実が発生したら機材納入をとめる事も考慮し、交渉する

C
 b ) 不当な受領(承認、決裁等)遅滞

契約書及び契約時における顧客とのコミュニケーションのやり取りを規定するコーディネーション手順を取り決める。

D

 これまでのリスク対応は主に内的リスクであり、プロジェクトチームが統制し、影響を及ぼすことのできる範疇のリスクについてのものです。
 次ページからは外敵リスクについてのリスク対応である。プロジェクトチームの統制や影響が及ばない範疇、いわゆる潜在的リスク、起きる確率の少ないリスクだが発生すると致命的なリスクとなるものです。
 主にカントリーリスクと言われる海外ビジネスに関連するものが多くまた思わぬ市場の変化や不可抗力の相当するものであり、このようなリスクは会社としての対応も必要となるものです。

  リスク源(リスク事象) 対応策(例)  
1) 経済変動及び市場変動
  • 請負、資材(物価)、人件費の高騰(コスト増加要因)
  • 同業者の競争激化/受注減少
  • 国内市場の衰退(投資・需要の減退)
各プロジェクトの営業情報及びプロジェクト実行情報の分析を行う。その対応の例として
・海外調達・海外業務委託 B
・付加価値プロジェクトへの転換 A
・海外プロジェクトへの進出 A
 
2) 海外プロジェクトへの進出
 為替変動/カントリーリスク

2)及び3)についての対応策は契約条件と危険の分担、財務的処理、保険そして国際PJに精通したPM、財務、税務担当のアサインにより多くのリスクは回避できる。







A&C
3) 不可抗力
  • 戦争・内乱・暴動・政変に拠るプロジェクト履行不能
  • 天災、地震等予期せぬ事象による影響
  • 産業規模のストライキによる影響
  • 法令、税制の改変による影響

 以上が外敵リスク、すなわちプロジェクトチームの統制や影響そして新たな市場要請への進出等予期しない出来事への対応でこれまでの経験知識の及ばない範疇のリスクです。

 これまで説明してきたプロジェクト各段階でのリスク対応策ですが、皆さんの経験からさらに気が付いたものがあれば追記してください。いずれにしてもリスクマネジメントにおいて
  1. ① 手間暇惜しまずリスクを洗い出した結果を契約や計画に反映させること。
  2. ② 経験者や各種情報を基にリスク対応策の精度を高める。そして継続的なチェック。
  3. ③ 人任せのマネジメントはリスクの兆候を見逃す原因となる。
  4. ④ 証拠を残して課題・仕様変更を適切にコントロールしその結果を必ず書類に残す。
等々を守ることが重要なリスクマネジメントの原則となります。

 以上までがリスクマネジメントとリスクの対応策ですが、来月号からは上記で述べた外敵リスクに関係する範疇のリスクに関連した話をしていきます。

ページトップに戻る